第18話
昼になって俺はギルドにやってきていた。
魔女については一旦保留しようと思う。
試したいことがあった。
魔法だ。
それからチャームの効果、など。
色々と新しく手に入れた力を試してみたい。
それからランク上げだ。
(正直一条にランクで負けているのはあまり気持ちいいことでは無い)
誰が見てもわかる通り俺は割と負けず嫌いと言うやつである。
誰もが羨むようなスタートを切った自覚がある。
そんな俺が最前線に立っていないのは少々屈辱的なのだ。
ということでCランク昇格試験を受けるための条件を満たそうと思う。
アマンダに話しかけ、クエストを受注してギルドを出ようとすると一条が入ってきた。
「おやっ」
一条が話しかけてくる。
「墓地前の」
どうやら俺の事を覚えていたらしい。
そんな一条に俺は聞いてみた。
「お前深夜からずっとユグドラシルにいるよな。学校は?」
「そちらこそ。学生ではないのか?」
そう聞かれて俺は答えた。
「俺は不登校でーす。で、それがなにか?」
そう言うと一条はホッどしたような顔をしてから言った。
「実は私も不登校だ」
「だと思ったよ。不登校ということにホコリをもて。自分はレジェンド不登校なんだと思い込め」
ゲームの最前線を走るような人間がマトモな生活を送ってるわけが無い。
自分を見れば明らかな事だった。
俺の言葉を聞いてクスッと笑った一条。
「レジェンド不登校ってなんだ。少し笑ってしまう」
そう言ってケラケラ笑ってからこう言った。
「不登校を公言すると色々心配されるから、黙っていたすまない」
「気持ちは分かる」
妙なシンパシーを感じながら俺はそれで会話を終えようとしたが一条はついてくる。
「名前を教えてくれないだろうか?」
「古賀」
そう名乗って俺は歩く速度を上げると、一条は着いてこなくなった。
俺はそのまま今日の依頼場所に向かうことにした。
今日の依頼内容はレッドポークの討伐だった。
なんでも、貴族様の奴隷が果物がなる森に果物を取りに行こうとした時に襲ってくるから数を減らして欲しいとの事だった。
「意外と優しいよなこの世界の貴族様。奴隷の身の安全のために冒険者に依頼するなんて」
俺はアイリスに話しかけた。
「奴隷は売り物にすることがありますし、基本的に皆さん優しいですよ。でもアマネ様はもっと優しいですよ?」
「褒めても何も出ないぞ」
俺はそう言いながら森の中に入っていった。
すぐにミニマップにエネミーの反応が映った。
「2時の方向、ポークが固まってるようだ」
「ポークは集団で狩りを行う修正がありますから」
「その習性が仇になっちゃうねぇ」
俺はそう言いながらポークに近寄っていった。
やがてポークが見えるようになってきた。
そこで足を止めて俺は呟く。
「アビスゲート」
ボアを見つめながら呟くとポークの集団の真上に黒いモヤモヤが出てきて、そこから黒い塊が散弾のように飛んでいく。
ガッ!
ドカッ!
絵面的にはしょぼそうだったが。
効果は抜群のようだった。
その場に数匹のポークの死体が出来上がった。
そして、近くにはドロップアイテム。
「威力はかなり出ているようだな」
そして魔法の発動も問題なく行えた。
そんなことを確認しながら俺はボアのドロップを回収した。
【ポーク肉】
【ポーク肉】
【ポーク肉】
ドロップはポーク肉だらけだった。
こんなにいっぱい貰っても仕方ないと言えば仕方ないんだが。
「そういえば、アマネ様はこの国出身では無いのですか?あまり見ない顔立ちをしていますが」
そう聞いてくるアイリス。
「この国どころかこの世界の出身じゃないな」
「世界?」
キョトンとするアイリス。
「世界という言葉がよく分からないのですが」
どうやら異世界という概念がこの子にはないようだ。
「あー、気にしないでくれ」
俺はそう言ってからアイリスに聞いてみた。
「ポーク肉は食えるのか?」
「はい。食べれますよ。それがどうかしましたか?」
俺は肉を見た。
持った感じ100gくらいか。
丁度いいかもしれないな。
「夜はトンカツでも食べてみるか」
「トンカツ?」
首を傾げるアイリスだった。
食べたことがないようだな。
「俺こう見えて料理上手いんだよ」
異世界トンカツの味。
やっぱ気になるなっ!
材料を揃えて星が見える丘にアイリスとやってきた。
激動の日々の疲れをこんなちょこっとした日常で癒すのだ。
「ふぅ」
俺がこの世界にきてからまだ3日ほどしか経っていないことに驚きだ。
本当によく動いてるよ俺。
3日の間にアビスキングを撃破してブラッディフェンリルを撃破。更にはいろいろアビリティなどの習得を行った。
本来であれば過労死しそうなレベルの動き方だ。
体の疲労は魔法で取れるがやはり精神的な、というか気分的なリフレッシュはこうやってするに限る。
日本じゃ見れなかったようなキレイな星を見ながらトンカツをあげる。
「おいひいっ!」
アイリスに先に食べさせてあげると喜んでいた。
「こんなおいひぃもの初めてですっ!」
パクパクっ。
どんどん食べていくアイリスを見ていた。
「そんな急がなくても食べ物は逃げないぞ」
そう言いながら俺がトンカツをあげる。
で、アイリスを見ながらふと思う。
「ごめんな。付き合わせて」
よく考えたら俺は24時間この子を自分の用事に付き合わせてるんだなぁ。
どんなブラック企業だよってレベルだよな。
「お気になさらずですよ。私奴隷なので」
そう言ってくれるアイリス。
やはり奴隷はいいな。
どれだけ連れ回しても笑顔でこう言ってくれるんだから。
んで、俺はアイリスに聞いてみた。
「なぁ、アイリス?」
「どうかしましたか?」
トンカツを美味しそうに食べてるアイリスに言う。
「そのトンカツは味わって食べるといい」
「ごっくん。これから何かあるんですか?」
「墓場にもう一度行くつもりだ」
魔女の最近の出現の兆候を考えるなら今は墓場に出る可能性が高いと考えるべきだ。
そして奴が墓場にいるのであれば。
(俺のチャームでおびきよせることが出来るかもしれない)
リーゼロッテから聞いたが【刻印】を刻まれた人間が再度魔女に接触すると、加速度的に呪いの効果が増幅するらしい。
だからアイリスを連れていくのは裂けたいんだが。
リーゼロッテはこうも言っていた。
『刻印を刻まれた人間の近くに魔女は現れやすい』
とも言ってた。
正直そんな危険を犯す価値は普段であればないのだろうが。
魔女は特別だ。
ユニークモンスターであり、奴の討伐は実績解除に必要と思われる。
そして、実績が解除されるとなると、俺にスルーするという選択肢はなくなる。
ゲーマーとして、実績解除スルーなんてありえないんだよ。
「俺に命を捧げてくれるか?アイリス」
「喜んで。死ねと言われたら死にましょう」
「おいおい、そんなことは言わんから安心してくれ」
代わりに俺はこう言っておくことにする。
「できれば頑張って生きてくれ。アイリス」
俺のせいでアイリスが死ぬなんて寝覚めが悪い。
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