第19話

タルバの墓地にもう一度やってきた。


墓地に入った瞬間さっそくミニマップに赤い点が浮かぶ。


もちろん、エネミーの反応。


「すぐ近くに一匹」


俺が呟いた時、すぐ隣の墓石近くから手が生えてきた。


冷静に動け。


言い聞かせるようにして俺は告げる。


「アビスゲート」


黒い門が開きそこから無数の礫が飛び出る。


ゴキャッ!

バキッ!


白い骨は礫に襲われて粉々に砕け散る。


剣で切っていた時とは違う確かな感触がこっちまで伝わる。


確実にダメージが効いている。


「いけるな」


そのまま捻り潰す。


骨は動かなくなりミニマップ上からも赤い点が消える。


そして、残るのはドロップアイテム。


【2000ジェル】


一体倒しただけでこれだけの金が落ちる。


「おいしいな、このガイコツ野郎」


まぁ今の俺はこんな金がはした金に見えるくらいの金を持ってるんだが。


そんなことを思いながら俺はそのまま残忍な魔女が出るのを待つことにした、のだが。


その時だった。


ザッザッ。


俺たちが入ってきた墓地の入口付近から足音。

振り返るとそこにいたのは一条と、ユミカと名乗った女だった。


「来ちゃいました」


ユミカが俺たちに近寄ってきたが俺は一条に目をやる。


「帰ってくれ。俺の獲物だ」


一条はすんなりと言うことを聞いた。


「私は手を出さない。ユミカが来たいというから連れてきただけだ」


そう言って墓地の外に出ていった。

本当に手を出さないらしい。


そのとき、ユミカが言った。


「あだっ……」


首を抑えていた。

首を抑える、というより刻印を押えているような感じ。


「き、来ますよ」


ユミカがそう言った時だった。


ジャラッ。

鎖がぶつかり合うような音がする。


音がした方を見るとそこにはローブを羽織ったガイコツがいた。


右手には杖を持っていて、周囲には鎖が浮いていた。



名前:リッチ[エンシェント]

称号:残忍な魔女

レベル:98



それを見てユミカが叫んだ。


「れ、レベル98?!!!!」


俺にとっては大したことないレベルだが、ユミカにとってはそうでも無いのだろう。


俺は魔女を見て呟いた。


「アビスゲート」


黒いゲートが開き、そこからはいつものように黒い礫が射出される。


グシャッ!

バキッ!


そして魔女は潰れて消えた。


残されたのはドロップアイテム。

回収する。


【リッチの杖を手に入れました】


きっちりとドロップを回収してからユミカに視線を戻すと、彼女の首の刻印はどんどんと薄くなっていた。


そして、消えてなくなる。


「消えてますか?」


聞いてくるユミカに頷いた。


「消えてるよ」


そう言うとユミカは喜んで墓地から出ていった。

入れ替わるように入ってきたのは一条。


そして俺を見て口を開いた。


「見込んだ通りだったな古賀。やはり凄腕のプレイヤーだったか」


そこで彼女は口を開いた。


「良ければパーティに」

「言ったろ?仲間にはならないって」


そう言うと一条は残念そうな顔をして頷いた。


「分かった。もう誘わないよ」


そう言って歩いて去っていった。


俺はそれを見送ってからギルドに向かうことにした。


アマンダに話しかけて魔女討伐の報告を行った。


「さすがアマネさんですね。こんなに早く魔女を討伐してしまうなんて」


と、嬉しそうにしていた。


「嬉しそうだね?」

「そりゃ、そうですよ!残忍な魔女は昔から犠牲者を出していましたからね。でもこれで犠牲者はいなくなるんです。そう考えると嬉しくもなりますよっ!」


そう言ってる彼女。


その後俺はアマンダといっしょに酒場に向かって残忍な魔女討伐の祝いをすることにした。


数時間に及ぶ祝いの後俺たちは開放された。


それで宿に向かって歩いた。

宿に入りアイリスを風呂に入らせた。


俺一人の空間でベッドに座ってからふと思ったことをシステマに聞く。


「システマ」

「はい」

「まだ終わりじゃないよな?」

「どういうことでしょう?」

「言葉通りさ。残忍な魔女の話はまだ終わっていない、よな」


いろいろと気になる事があった。


「ユミカは魔女出現時刻印を抑えていた。でもアイリスは何もしていなかった。これはおかしくないか?」


俺は今まで勘違いしていた。


残忍な魔女は移動型のユニークモンスターであり、一体の魔女がいろんなエリアを渡り歩いているから色んな所に出没していると考えていた。


でも、これは恐らく違う。


「残忍な魔女は2体いる。違うか?」


ユミカは言ってた。墓場の魔女に刻印を刻まれた、と。

それは間違いなかったんだろう。


でも、アイリスの場合はどこで刻まれたかを言っていない。


残忍な魔女は残留型であり、アイリスは別の個体に刻印を刻まれた。


俺は今、そう考えていた。


そう聞くとシステマは頷いた。


「はい。2体います」

「タルバの草原にもう一体いるよな?」

「ご推察の通りです。ちなみに根拠はそれだけですか?」

「いや、もう一個ある」


それは実績について、だ。


いつも実績を解除すると視界の右下に解除したよーって出るんだけど今回は出ていない。


バグか?って思って俺はメニューを開いて実績の項目を見た。


すると、こうなっていた。



実績:眠れ!魔女姉妹!

進行度:1/2

内容:残忍な魔女2体の撃破



これで俺は確信した。

残忍な魔女は2体いる、と。


確認を取った俺は立ち上がって風呂の扉の前に立つとノックした。


「アイリス、聞こえるか?」

「はい?」


中からアイリスの声。


俺はアイリスに聞いた。


「太ももを確認してくれないか?」

「太もも?刻印は消えたのでは?」

「おそらく消えていない」


俺がそう返すと中からシャワーを落とす音が聞こえた。


「えっ?!な、なんで?!」


ガチャっ!


俺の目の前で扉が開いた。

そして真っ裸のアイリスが俺の視界に入ってきた。


「ほ、本当に消えてません!」


そうして俺に刻印を見せてくるけど。

刻印を見る前にいろいろと見えてしまった。


毛が生えてないツルツルの肌。

肌荒れなど一切してない肌。


「あ、アイリス?」


急いで視線を逸らした。


「ど、どうしました?アマネ様」

「どうしましたじゃない。いろいろ見えてんだよっ?!」


俺がそう言うと急いで扉が閉まる音が聞こえた。


「ご、ごめんなさいっ!」


そして、再度シャワーの音が聞こえる。


そのシャワーの音で消えないくらいの声でもう一度言った。


「悪いな。もう一度付き合ってもらう」

「はい」


んで、それから更に続けた。


「アイリス言ったよな?残忍な魔女は強かったって」

「はい」

「おそらくだが次に戦う方が強い方の魔女だ。心してかかろう」

「はいっ!」


これ、ゲーム世界じゃなかったら最悪見逃してたかもしれないな。


実績機能はほんとにありがたいものだ。


それにしてもシステマもチートだよな。


こうやって確認すれば真実を教えてくれることもあるんだから。

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