第17話
Side 高松 優太
「おい!高松!おせぇぞっ!」
「ス、すみません……」
高松優太は現実では報われない男だった。
現在18歳。
高校を中退して飲食店のバイトとして働き始めていた。
「てめぇ、中退フリーターの分際でなに遅刻してんの?」
「す、すみません。昨日はゲームをしてまして、ほら店長も知ってますよね?」
「時給50円のゲームか?聞いたぜ。そんなゲームやる暇あんなら働けや無能。ここのバイト時給1100円だぞ?何倍あるか分かってんのか?」
店長は取り付く島がない様子だ。
このように日本人にはゲームという異能が与えられても殆どのものはそれまでと変わらない生活を送っていた。
誰もが思っていた。
『たかがゲーム。真剣に遊ぶには値しない、と』
そして高松もそう思っていた。
『適当に遊んで女の子と仲良くなれたらそれでいいや』
くらいの感覚。
しかし、昨日は熱中してしまっていた。
古賀 天音。
間近で見ていて思った。
あいつは心からあの世界を楽しんでいる、と。
ゲームが好きで好きでたまらなく遊んでいるのだと分かった。
そして、そんな古賀を見ていたら時間を忘れてしまっていた自分もいた。
だからこその今回の遅刻だった。
「まぁ、まぁ、その辺にしてあげてくださいよ店長」
そのとき、別のバイトが話に割り込んできた。
それは高松と同じような立場の人間の田中だった。
田中の乱入によって店長は落ち着きを取り戻して別の作業に戻って行った。
「高松さん、自分もあのゲーム遊んでるんですよね」
田中はそのまま高松と話を始めた。
もちろん、仕事をしながら、だ。
そうして2人は会話を続けていく。
やがて休憩時間になった2人は休憩所に向かった。
そこで更に深い話をしていく中で田中はスマホで掲示板を除き始めた。
「高松さん知ってます?スマホでゲーム内の掲示板見れること」
「いや、知らなかったな」
田中は掲示板の書き込みを高松に見せた。
そこに書かれていたのは新しいゲーム情報だった。
「実は今日の朝こういうのが投稿されましてね。【SPショップ】と【実績】について、というスレッドが」
「そんなのあるんだな」
高松は純粋に驚いた。
このゲームで遊べるようになってまだ一日ほどしか経っていないのにもうそんなところまで調べてる奴がいることに驚いたのだ。
「なんでも、俺らがスキルだの、チャームだのを身につけることができるらしいです。んでSPショップってところでSPを使って色々と解放が出来るらしいですよ」
「へぇ、すごいな」
純粋に気になって高松は聞いた。
「やっぱり発表したのは一条さんなのか?」
その質問に首を横に振った田中。
「いや、アマンネっていうプレイヤーみたいですよ」
「アマンネ?」
初めて聞く名前に動揺する高松。
そんなプレイヤー見たことも聞いたこともなかった。
「なんでも初心者掲示板に書き込まれたらしいですよ。そこから一条さんが検証したところ、確かに【SPショップ】と【チャーム】や【実績】はあったとのことです」
「そんなのあるんだな」
「はい。で、SPショップを使用したユーザーの声が上がってます。Dランク冒険者になれた、って声が多いですね。それからアマンネっていうプレイヤーを『神』とかって賞賛してますね」
ずいっとスマホを見せてきた田中。
そこにはこうあった。
089 アマンネ
【SPショップ】関連についてのお話
それから二大属性などについてのお話
090 ユミカ☆
アマンネさん!きた!
すごい!一条さんですら把握できてないシステムを解説しちゃうなんて、さすがですっ!
アマンネさんのお陰でDランク昇格試験一発で受かりました!ありがとうございます!
091 ユウカ
アマンネさんほんとにすごいよね。どこで見つけたんだろこんなの。
ってかほんと神ですよ!
092 一条
アマンネさんはすごいよね。
こんな情報を公開してくれるなんて、ありがたいですほんとに。
そこで提案なのですが我々のパーティに加入しませんか?あなたがいれば百人力なのです
ぴたっ。
高松の目はそこで止まった。
「どうしたんすか?高松さん」
「俺は一条に媚びを売ってた」
一条は誰もが認めるトッププレイヤーだった。
このゲームがリリースされてからずっと最前線を走って情報を公開し続けたプレイヤー。
誰もが憧れる存在だった。
だからこそ高松は媚びを売った。
仲間にして欲しくて、でも仲間にはしてくれなかった。
なのに、アマンネというプレイヤーはそんな人物から誘いを受けていた。
そこに嫉妬した。
「一条、何で俺を選んでくれないんだ?」
高松のそんな姿を見て軽く田中は引いていた。
「そりゃ、一条はガチ勢っすからね。高松さんはエンジョイでしょう?水と油だから辞めといた方がいいっすよ」
そう言いながら田中は言った。
「高松さん、知ってます?」
「なにが?」
「一条さんの時給は既に3000円ほどになっているらしいですよ」
その言葉にピクリと耳を動かした高松。
「自分はここのバイト今日でやめるつもりです」
「辞めてどうするんだよ?」
「まだゲームがリリースされてから一日ってところです。今から仕事辞めてガチれば一条のパーティに入れるかもしれない。そうなれば自分も最前線入りだ」
「安定を捨てるのか?」
「えぇ。こんなところでくだらねぇ、なんの意味もない仕事続けるくらいならやめて一か八かにかける」
田中はそう言って立ち上がった。
「高松さんもどうしたいのか決めた方がいいと思いますよ。ここでウジウジ人生を続けるのか、それともゲームに全力して人生変えるか」
そう言って田中は仕事場に続く扉の前に立って高松に言った。
「気付いてるんでしょう?このゲームは『たかがゲーム』で終わるようなものじゃない。人生を変えられる手段なんですよ。一条を含めた人間はそれに気付いてるから現実を捨てて、必死に足掻いてる。そして俺もその一員になる。今ならまだ追いつける確率が高いんすよ。一条やアマンネさんに」
田中は扉に手をかけて最後の言葉を高松に言った。
「自分にとっては最後の出勤日になります。さぁ、気合い入れますかぁ」
そう言って田中は仕事場に戻って行った。
高松はそれを見送って口を開いた。
「バブルは続かねぇよ。俺はここで仕事を続ける。暇人共が、そう簡単に人生変わるわけねぇだろうが」
結局高松は頑張りきれなかった。
最後まで『たかがゲーム』と言い訳して努力をすることをしなかったのだ。
◇
仕事が終わった。
田中は店長にきっぱり辞めるといい即座に家に帰っていった。
今日からはゲーム世界に引きこもるらしい。
高松も家に帰りスマホで動画サイトを見ていた。
【たかがゲームに全力を出すな!】
【ゲームは暇つぶしをするためにあるものです】
すると、ホームには自分の見たい動画が上がってきていた。
そして、高松は思う。
「そうだよな。たかがゲーム。こんなもの本気でやるのは馬鹿だ」
高松はそう呟いて自分の立ち上げたパーティのグループチャットを見に行くことにした。
広場で初心者に声をかけて集めたメンバーだったが、
「はっ?」
そこのチャット欄は彼の見たいものではなかった。
村人A:高松さん、すみませんグループ抜けます。アマンネさんの投稿を見てたら自分もなんかやれそうな気がしてきて、このゲームにガチになりたいんです!
そう言い残して村人Aというユーザーはグループを抜けていた。
そして
他のメンバーも続々と意志を表明してグループを抜けていく。
最後にグループに残ったのは高松だけだった。
「おい、たかがゲームだぞ。正気かよ?こいつら」
ただの暇つぶしの道具に過ぎないんだぞ?
なんで、そこまで本気になるんだ。こいつらは。
「今日は寝るか。明日も仕事あるんだよなぁ、こっちは」
暇人共とは違ってな。
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