第7話 タルバの街その3
「装備コスト、ねぇ」
「そうだ。装備ってのはとにかく身につけたらいいってもんじゃねぇ。時には外す選択肢ってのも必要になってくる」
店主はそう言いながら作業を続けていた。
(そうか、装備を外すってのも時には大事になるんだな)
チラッ。
装備を洗ってくれている店主についでだから聞いておこうと思う。
「装備を外すと軽くなるっことは素早く動けるってことだよな?」
「そうだ」
こくん。
頷く店主。
「どういう時に素早く動けるといいと思う?」
そう聞かれて俺は色んなシチュエーションを思い浮かべた。
「相手のスピードが早い時、とかか」
「そうだ。その手のヤツにはこっちも速度を上げて対処するのが一般的だ」
俺は顎に手を添えて考えた。
「ゴブリンは素早く動きそうだな。ってことは装備を外すのが正解なのかな」
「そうだな。ゴブリン相手はそれこそ装備箇所の取捨選択ってのもありだ。一部だけをつけるとかな」
そう聞いて俺は続きの言葉を予想した。
「つまり首などの弱点のみを守る、ような装備ってことか」
店主は頷いた。
「パーフェクト。筋がいいじゃねぇかルーキー」
店主がそう言った時俺に装備を返してきた。
肉が腐ったような不快なにおいは消えていた。
「清掃完了だ。これからは手入れには気を使うことだな」
「そうさせてもらうよ。いろいろとありがとう」
そう言いながら俺は装備の取捨選択を行う。
というより全部をアイテムポーチにしまった。
今の俺には必要ない気がする。
「おい?せっかく清掃したのにかよ?」
驚いた顔をしている店主に答える。
「装備の取捨選択をした。俺にはどれも必要ない気がする」
それから俺はアイテムポーチにしまってある【ダイヤモンドソード】に目をやった。
ダイヤモンドソード
装備コスト:15(そこそこ重い)
ダイヤモンドソードは剣の長さが1メートルくらいある。
大型モンスターと戦うにはちょうどいいサイズ感だろうが、雑魚狩りをするとなると取り回しのいい武器が欲しい。
ここで装備を整えようか。
「短刀を」
そう言うと男は笑顔になった。
「さっそく板についてきたようだな」
そう言って俺に購入可能なリストを見せてくる店主。
その中から【盗賊のナイフ】という武器を選び購入した。
価格は10000ジェル。
装備コストは3ほどで、かなり軽い。
軽く素振り。
(体が軽いっ!)
ダイヤモンドソードの時は剣に振られているという感覚があったが。
このナイフにはそんな感覚がない。
武器に振られているという感覚はまったくなく、俺が武器を振っていた。
「なるほど。これが装備コストの重要性、か。そして装備するものの取捨選択、ってわけか」
そう言うとニヤッと口元を歪める店主。
「こんな短時間で装備コストについて理解するなんてな。おもしれー坊主だな」
そう言うと店主は机の引き出しから紙を取りだした。
請求書?と思ったがもう既に代金は払っているのでありえない。
なんなんだろう?
そう思ってたら店主は俺に紙を渡しながら言った。
「ちと早いかもしれんが、お前にサブクエストを渡しておこうと思う。お前ならすぐにクリア出来るようになるだろう」
「サブクエスト?」
紙を受け取った。
目を通してみる。
【ゴブリン肉が欲しい】
依頼主:街の武器屋
討伐対象:ゴブリン3匹の討伐
報酬:2000ジェル
と書いてあった。
「俺はまだ討伐クエストを受けられないはずなんだが」
と聞いてみたが店主は言った。
「サブクエストにはその制限はねぇよ?」
「そうなのか」
「おうよ。期待してるぜ、ルーキー」
そう言ってもう話すことはないと言うように、もくもくと作業に戻る店主。
俺は店を離れることにした。
そしてギルドに向かいアマンダに最初のクエストを発注してもらうことにした。
とりあえず薬草の採取をする事になった。
「さてと、行くか」
そう呟いて目的地に向かうことにする。
その過程で俺はサブクエストのことを思い出していた。
「俺寄り道クエスト嫌いなんだよな」
ゲームでも無駄にタスクを増やされたような気分がしてあまり好きじゃなかった。
だからこその呟きなんだが。
システマが答えた。
「このゲームのサブクエストは基本的に何かのついでに達成できますよ」
「へ?」
「先程のサブクエストであるならば昇格試験で倒すゴブリンでカウントされます」
「あー、そうなんだ」
こくんと頷くシステマ。
つまり寄り道などは必要なく負担なく達成できるようになっているらしいな。
「へぇ、いいじゃんそのシステム。純粋に報酬だけが増えるってわけか」
余計なタスクを増やされないというのは素晴らしいことだ。
そう思いながら歩いてるとシステマが声をかけてきた。
「そういえば、ですが」
「ん?なんかあるの?」
システマの顔を見て聞いてみた。
それにしても俺は思う。
犬がペラペラ人語を喋ってるのってシュールだよな。
「プレイヤーズ掲示板には目を通されましたか?」
「プレイヤーズ掲示板?」
なんだそれは。
そんなもの知らないぞ。
そう思っていたらシステマは呟いた。
「プレイヤーズ掲示板」
ブン。
ウィンドウが立ち上がる。
しかしそのウィンドウに表示されるのは見慣れないもの。
いつものウィンドウに表示されているのは掲示板だった。
「なんだこれ」
俺の声にシステマが答えた。
「プレイヤーの皆さんで情報を交換したり雑談したりするための掲示板です」
「へぇ」
ゲームだもんな。
そりゃそういう場所もあるか。
そう思いながら掲示板を見ているとこんなスレッドが見つかった。
【こちら、一条班】
(このゲームの最前線のやつのスレッドか)
そのスレッドが気になり開いてみた。
一条:レベル25まで上がった。ユニークモンスターにもそのうち挑みたいと思っている。
高村:マジっすか?さすが一条さん!
一条:モンスターの討伐にも慣れてきたから情報を書いておこうと思う。
こんなふうにユーザー間で情報が交換されているようだった。
ちなみに攻略情報を書いてくれる一条はすごいチヤホヤされている。
システマが口を開いた。
「天音さんはやはり交流はしませんか?」
俺はその言葉に頷いた。
「あまりしたくないな。まぁ最低限はするけど」
俺はそう言ってからシステマに話した。
「俺さ。今の一条みたいになりたいんだよ」
首を傾げるシステマ。
「それはどういうことですか?」
「ゲームの攻略班として最前線に立ちたい。そしていずれは情報を公開してチヤホヤされたい」
ずっと憧れてた。
動画サイトに攻略動画とかを上げて『すごい!』とか『うまい!』とかってコメントされてる人に。
俺もそういう人になりたい。
その一歩目として
「公開して大丈夫そうな情報はそのうち公開するつもりだよ」
そう呟いてから俺は次のスレッドに目を向けた。
そこは
【初心者の集い!】
というスレッドだった。
ちなみにだがこの掲示板は匿名ではないらしく、名前を入力する必要があるそうだ。
それからアイコンも設定しないといけないらしい。
みんな自分の顔をアイコンにしてたりしてたけど俺はシステマの犬アイコンにすることにした。
それから俺は名前を決めて書き込んだ。
アマンネ:どうもー。アマンネですー。掲示板には初書き込みです!よろしくっ!
とりあえず俺はこの初心者掲示板で一目置かれるような人間になろうと思う。
名前を広げるというのは大事だからな。
そして、俺はチヤホヤされるのだ。
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