第8話 SPショップ
俺は依頼を達成するためにとりあえず草原にやってきた。
タルバ草原。
街の近くにあるそこそこ広い草原。
もちろん依頼の内容は薬草の採取。
とは言え、だ。
「システマ」
ため息を吐きながらシステマを呼ぶ。
「はい」
ピョコンと耳を立てながら反応するシステマ。
「こんな広い草原から薬草を取れって骨が折れるんだが、どうにかならないのか?」
薬草を取るのはいいんだけどさ。
こんな広い草原から探して採取するなんて面倒だ。
少しでも効率よく動きたいと考えている。
よって、
「このゲームはミニマップ表示とか出来ないわけ?」
他のゲームとかだと視界の右上にミニマップが出たりするとか思うんだが。
このゲームは今のところないようだ、が。
「ミニマップでしたらSPショップで購入可能です」
「SPショップ?なんだそれ」
聞いてみるとシステマは嫌な顔ひとつせずに教えてくれた。
「SPショップ」
システマが呟くと俺の視界の前にウィンドウが出てきた。
そこにはこう書いてあった。
【SPショップ】
その後にメッセージが表示された。
SPショップへようこそ。
ここではSPを消費してスキルや特別なアイテムなどの購入ができます。
「あぁ」
それを見て一瞬で察したね。
出たよ、めんどくさいやつが。
「なぁ、システマ。分かってると思うけど俺こういうのも嫌いなんだよ」
「って言うと思いましたよ。でもご安心ください。SPは既にかなりの量を持っているはずですから」
「そうなのか?」
疑心暗鬼になりながらも俺はショップを覗いて見た。
【SPショップ】
所持SP:528000
購入可能リスト
・ミニマップ 10SP
・アイテムサーチ 10SP
・エネミーサーチ 100SP
その後もリストはズラーっと並んでいた。
「へぇ。所持SPもかなり多いんだな」
「はい。2000レベルを超えているのでその効果ですね」
「ちなみにSPこんだけあれば全部購入も出来るのか?」
「おそらく」
「全部解放しちまうかー?」
そう思ったが。
うーん、とりあえず3つだけにしておくことにした。
「全部解放しないんですね」
「してもいいんだが、その前にひとつ質問に答えて欲しいんだよ、この後SPを大量消費するようなコンテンツは来たりしないよな?」
「回答する権限がありません」
「だと思ったよ」
そう言われると思ったし現状は特に困っていないので、今表示されている上から3つだけの解放に留めておくことにする。
俺こういう貴重そうなアイテムを使えないタイプの人間なんだよな。
さてと。
「ミニマップ」
呟いて先程購入したスキルを使ってみる。
すると右上にミニマップが表示された。
円形のミニマップである。
5つの円が一定の間隔で描かれている。
分かりやすく言うなら二重丸の5重バージョン、か。
そして、そのミニマップの真ん中には三角形が表示される。
俺を表すマークだろう。
俺が右を向けば三角形の向きも変わる。
俺がどちらを向いているかも分かりやすくなっているらしい。
有難いものである。
それからよく見てみると、少し離れたところには。
「緑色のマークもあるな」
ミニマップをよく見てみると緑色のマークが現れていた。
これはなんだろうと思ってたらシステマが声をかけてくる。
「ミニマップにはコマンドがあります。『アップ』と言えば拡大表示されます」
「サンキュっ」
俺は言われた通り『アップ』と呟いた。
すると視界の真ん中にデカデカとマップがデカく表示される。
先程までは大雑把にしか分からなかったが、拡大すれば高低差も分かるようになっているようだった。
更には距離についてなども詳しく知ることが出来た。
ちなみに円の間隔は100メートルらしい。
つまり半径500メートルの範囲をミニマップで見ることができる。
かなり広範囲をこのミニマップは表示していたらしい。
「すげぇ、スキルだな。これは必須だろうな」
そう思いながら俺は緑色のマークの場所をタップしてみた。
するとブンとマップの上に重なるように表示されるウィンドウにはこう書いてあった。
名前:薬草
ランク:E
補足:クエストターゲット
「こりゃ、便利だな。薬草の採取ポイントまで表示されるってわけか。【アイテムサーチ】の効果かな」
システマが頷いた。
「はい。アイテムサーチはミニマップ上に採取ポイントを載せてくれる便利スキルです」
って言われて俺は聞いてみることにした。
「ってことは、エネミーサーチはそのエネミー版ってわけだ」
「さすがですね。すぐに察することの出来る聡明さは素敵な才能です」
「褒めすぎだって」
謙遜しながら俺は緑色のマークのところに向かうことにする。
黄色の三角形と緑色のマークが重なるくらいまで移動すると、足元の草が光った。
「発光してるってことは、採取可能なアイテムってことだよなぁ」
ゲームあるあるだ。
俺はしゃがみこんで引っこ抜こうとしてみたがその前に薬草から放たれた光がアイテムポーチに吸い込まれていき、ウィンドウが現れる。
【薬草の採取が完了しました】
「ひゅ〜♪オート回収か。最高だ」
思わず口笛。
いや、素晴らしいなこのゲーム世界。
とにかく、プレイヤーにストレスを与えないようなゲーム設計がされている気がする。
この世界を作ったやつはゲームが相当好きに違いないと思う。
その後も俺は緑色のマークのところに移動する、といったことを繰り返す。
そして、一時間後。
必要な薬草採取が終わった。
「こんなものか」
今日の仕事はこれで終わりっ!
特に山もなく谷もなく、平凡な一日だったが、たまにはこんな日もあっていいんじゃないかって思う。
「なぁ、システマ。それにしてもこの辺りは全然敵いないんだな」
「あなたたちの世界の言葉で言うなら『ゲーム序盤のフィールドですからね』」
「なるほど。お約束ってわけだ」
ゲーム序盤のフィールドには滅多なことではモンスターは出現しないよなー。
出現したとしてもめちゃくちゃ弱いモンスター。
やはりこのゲームを作った人間は相当ゲームが好きらしい。
お約束はきっちりと踏襲してくれている。
そんなことを再度確認しながら俺は街に帰ることにした……
──────────そのとき
「プレイヤーサポート機能起動」
「システマ?」
俺はシステマを見た。
姿勢を低くして街とは違う方向を見つめるシステマ。
耳をピクピクしていた。
それで呟く。
「エネミー反応、急速で接近中。警告、避難してください」
チラッ。
ミニマップに視線をやる。
「なっ……」
円4つのところに赤い点。
さっきまで何も映っていなかったのに、突如映った
「システマ?!赤い点はエネミーか?!」
「はい。エネミーサーチに反応しているエネミーです」
そして、ラグが生じているのか、急に円4つのところから3つのところに瞬間移動した。
つまり俺との距離が400メートルあったはずなのに、300メートルになった。
「どうなってる?!ラグか?!バグか?!」
ここはゲーム世界だ。
どちらの可能性も捨てきれない。
じゃなきゃ、有り得ないだろ?
俺が目を離した時間は1秒にも満たないくらいだった。
そのわずかな間に
100メートルこの敵は移動したことになる
秒速100メートル以上で走ってることになる。
そんな生物。
存在していいわけがない。
システマは無機質な声で俺に言った。
「接敵します。逃げるのは困難と思われます。武器を構えてください」
そのとき、
風が吹き抜けた。
バサァっ!
俺の髪の毛が風に揺られてオールバックみたいになる。
自然の風ではなかった。
何かが高速で動いたせいで発生した風圧による風だと理解出来たのはそいつが俺の目の前にピタッと現れたからだ。
「グルルルルル……」
喉を鳴らして低く唸る生物が俺の目の前にいた。
赤く血塗られたような生き物。
口を開けてヨダレに塗れた牙を覗かせていた。
名前:ブラッディ・フェンリル
レベル:1500
補足:ユニークモンスター
称号:ユグドラシル最速の獣
あぁ。
訂正しよう。
山も他にもない穏やかな一日だって?
今日はおそらく大荒れの一日だよ。
最悪のね。
いわゆる負けイベントってやつだろうな。
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