第3話 奈落遺跡その2

日記に目を通す。


奈落遺跡についての事が書かれていた。


【奈落遺跡について】

随分昔から存在が囁かれていたが誰も発見出来なかった幻のダンジョンだった。出現条件など、いっさい不明だった場所。

偶然辿り着けた。


必ず攻略してみせる。

私にはその使命がある。


【進捗状況】

余裕だ。

私ならいける。

勝てる。

この幻のダンジョンを攻略できる。


【最終報告】

こ ろが れた

こ こわ



コろしテ

アビ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎



(まただ。なんだこれ)


アビまでは読めるんだがそれ以上の事が乱れていて読み解けない。


「何があったんだこいつ」


俺が呟いてみてもシステマはもう答えない。


おそらく権限が与えられてない、というやつなんだろう。


「アビなんとかってのはなんなんだろう」


そう思いながら俺は立ち上がった。


「もう物色できるものもない。グランとやら、あんたの意思は俺が継ごう」


グランはこのダンジョンを攻略したがっていた。

その意志を俺は継ぐ。


そう決意して進み始めたところだった。


「グル」


オーガの声。


急いで進行方向に目を戻す。

どうやら曲がり角の先から聞こえたようだ。


「ステルスキル、といこうか」



このダンジョンのメインの雑魚モンスターはオーガらしく何匹か倒しながらダンジョンを進んでいた。

それ以外のモンスターも持ち前のゲームセンスと経験でなんとかなった。


現実ではとろくさい俺だけど、この世界では思ったように体が動く。

頭で思い描いた通りの動きができる。


ゲームの世界は最高だ。


もうオーガ殺しも手馴れたもので俺のレベルは1200になっていた。

途中から倒したモンスターを数えるのをやめた。それほどに倒してきた。


で、そんな俺の目の前には今までと違うものがあった。


でかい扉。


扉の前に立った。


「ふぅ、ここまでそこそこ長かったな」


ゲームで言うならボス部屋ってやつだと思う。

この先にいるのはもちろんこの【奈落遺跡】のボスと思われる。


ボスについての情報は分かっていないが。

進むしかないだろう。


と、その前に


「セーブしておこう。ゲームならセーブできるだろ」


【セーブをします。セーブをしました。次回ロードすればここから再スタートも可能です】


やっと俺の言葉に返事をしたシステマ。

どうやらセーブをしてくれたらしい。


俺は両手で扉を押し開けた。


今の俺はノリに乗っている。

何が来ようと勝てるような気がする。


そうして中に入ってみると、そこにいたのは。

腐ったドラゴンだった。

簡単な話がゾンビドラゴンって言われるようなやつだろう。


グチュグチュ。

体の穴という穴から意味の分からない液体が流れ出ている。


「きもちわるっ!」


思わず叫んでしまった。


「こんなのがここのダンジョンボスなのか?弱そうだな」


俺はそう呟いてドラゴンと向き合った。


ドラゴンが先に動いた。

どうやらこのドラゴンには【迷彩ローブ】の効果がないようだ。


【死者使役】


技名が出たその瞬間。


ズボッ!


ドラゴンの体から何百もの手が出てきた。

それはドラゴンの体を食い破るようにして出てきた。


ゾンビだった。


「オォォォォオォォォォ」


ゾンビが呻き声を上げながら走ってくる。


「走るなよ!おめぇら!反則だろ?!」


ザン!

剣を振って攻撃。


しかし一発で倒せない。


「くそが!無駄にかてぇな!」


2発目。

やっと倒れた。


しかし、


ズアッ!

別のゾンビの手が伸びてくるっ!


「ちっ……雑魚を倒しても意味が無い。本体を叩くしかないよな」


一瞬でそう判断して俺は大量のゾンビの攻撃を躱しながら本体に向かっていく。


そのとき、こいつの名前が表示された。



名前:アビスキング

レベル:2500



(なるほど、日記にあったのはこいつか。んで、グランが負けたのはこいつか)


一瞬で理解して俺はそのままアビスキングに切りかかる。


「ゾンビは速くても本体はのろいんだな。これなら勝てそうだ」


ブン!

アビスキングに切りかかろうとしたがそのとき。


ズアッ。


アビスキングの腹から剣が出てきた。

俺を刺そうとしていた。


それをギリギリ弾く。


【ジャストパリィが発動。経験値を獲得しました】


【レベルが上がりました。レベル1200→レベル1300】


それを見て俺はシステマの言葉を思い出す。


【エネミーを倒すことだけが経験値獲得法ではない】


「なるほど。ジャストパリィでも経験値は獲得出来る」


なら。


「稼がせてもらおうか」


この刃が、本体に届くまで。


キン!


キン!キン!


キン!キン!キン!


剣と剣がぶつかり合う音が響く。


俺はアビスキングの中から突き出される剣の数々を全てパリィしていた。


【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】


レベルの上昇は止まらない。

俺はジャストパリィをするだけで無尽蔵にレベルが上がる。


そしてついに。


「ジャストパリィ!」


突き出された剣をパリィしようとしたら。


パリン。


敵の剣は壊れた。


「グルアァァァァァァ?!!!!」


アビスキングに初めて動揺が広がった。


「やれる?!」


明らかな隙となっていた。


俺は容赦せずアビスキングに近付くとそのまま腹を引き裂いた。


ズアッ!


ブシャッ!


ドラゴンの体内から緑色の血が飛び散る。


「グギャァァァアァァァ!!!!」


ザン!


ザン!


喚いても容赦なんて必要ないっ!


過剰な程にドラゴンに剣を突き立てていく。


そのとき、


「オォォォォオォォォォ」


うしろから他のゾンビが近付いてきていたが。


「邪魔だっ!」


ブォン!


剣を振ると風圧でゾンビ共が吹き込んでいく。


そしてアビスキングに目を戻し。


「じゃあなぁっ!アビスキング」


その頭部に剣を突き刺した。


ブシャッ!


頭が割れる。


「グギャァァァアァァァ!!!!!!」


断末魔を上げてアビスキングは体を倒していく。


そして、そこにドロップアイテムが大量に落ちる。


アビスキングの素材はあまり見つからなかったが代わりに見つかったものがある。

それは装備やお金、それから冒険者カード(?)など。


おそらくだが


「技名は死者使役だったな。んで、使い魔を体から出してたってことは死者を吸収したりできる?で、倒したから、吸収された冒険者の持ち物ドロップしたってところか」


こいつについて考察してるとシステマが言った。


「その通りです。素晴らしい考察力です」


そのとき、一体のゾンビが近付いてきた。


そして、口を開く。


「ありがトウ。アビスキングを倒してくれて。そレは私たちの所持品だったものだ。好き二してくれ」


そう言ってその場に溶けるようにして消えていった。


「お礼を言うのは俺の方だ。こんなに物資を回収できて、序盤からとてもいい流れだ」


普通ゲームと言えばこんなに物資を回収できないと思うんだけどなぁ。


だが、これも高難易度特典というやつだろう。


「しかし、こんなに持ち運べないぞ?どうすればいい?」


システマが口を開く。


「アイテムポーチがあります。なんでも入りますよ」

「おぉ、ほんとだ、すげぇ。アイテムポーチって念じれば出てくるんだなぁ」


問題は解決した。

物資を回収してからアビスキングの後ろにあった扉に目をやる。


「あれは最終エリアってわけかな」


そう呟いて扉の方に歩いていく。


そして扉を開けた。


中にあったのはフラフープみたいな丸い円形の装置だった。


システマが説明してくれる。


「ワープ装置です。ダンジョンから脱出することができます」

「説明サンキュ」


俺はそう言ってワープ装置の中に入った。


するとウィンドウが出てきた。


【転移先を選択してください】


って言われても、分かんねぇんだよなぁ。


俺はこの世界に来て数時間、だと思うけど。

そういえば


「今何時間くらい経過したんだろうな」


ってつぶやいた。

その時に気づく。


ぐ〜。

とてつもなく腹が減っていることに。


システマが口を開いた。


「この世界に来てから18時間程が経過しています」


「18時間?!!!!!!そんなにかよ?!マジかっ!そんなにこのダンジョンにいたのかぁ」


俺は驚いて叫んでしまった。


そりゃ、腹も減るよな?!


とりあえず飯にしよう!

飯だ飯!


腹が減っては本来戦は出来ねぇんだよ!


で、俺はシステマに聞いた。


「美味い飯が食えるとこを教えてくれ」

「それならタルバの街がいいでしょう」

「よし、そこに行くぞ!」



【実績を解除しました】


実績:さよなら、深淵の王

解除条件:アビスキングの討伐

報酬:2兆ジェル







【補足】

作中での説明タイミングなかったので補足で。

ここまでの行動で他の人間は奈落遺跡スタートはできなくなりました。

クリア済みのダンジョンは消滅するためです。


なお、特定の実績はひとりしか解除できないという糞要素(他者視点)もあります。

この実績ももうほかの人間は解除できません


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