第2話 奈落遺跡その1

ザッザッ。


黒い道を歩き終えると俺の体はいわゆる迷宮って呼ばれる場所にあった。


無機質な壁や床。


ツルツルしてるようだった。


ツルツルし過ぎていて自分の顔が反射していた。


「ん?反射?」


室内で明かりのようなものは無さそうだが、反射。



「ゲーム世界だからなんでもありってことなのかな」


俺はそう思いながらとりあえず歩き出す。


ここは高難易度ダンジョンと呼ばれる場所だ。


一瞬の油断も許されないと思う。


そう思いながら歩きながら俺はインベントリを開いた。


【インベントリ】

・なし


しかし、なにもなかった。


「ケチだな。なんの装備もないのかよ」


普通低レア装備くらい持ってるんじゃないのか?って思うけどそれすらないようだった。


「現地調達するしかないな」


よし、まずは装備の調達、だな。


そう思って俺は道を歩き始めることにした。


このダンジョンは入り組んでいるようだが、とりあえず進んでみるしかない。


そう思って俺は右に、左に、と進んでみた。


すると


「およっ?」


床に投げ捨てられるようにして剣が落ちているのが見えた。


「なんでこんなところに落ちてるのか知らないけど、助かるな」


それ以上深く考えることなく拾った。


【ダイヤモンドソードを入手しました】


強そうな武器を手に入れた。


で、その時だった。


チラッ。


床になにか液体みたいなものが染み付いてることに気付いた。


これは


「血痕、か?」


血が垂れてそれが落ちて乾いたような後が床にはあった。


そして、それはどこかに繋がっていた。


「エネミーのものか、それとも」


エネミーのものだった場合は戦闘になる。

正直まだ戦闘は避けたいところだが……。


「血痕は赤っぽいな」


落ちた血痕は赤っぽかった。

つまり人間の血液だと思うんだが。


「一か八かだな」


俺はそう呟いて道を歩いていくことにした。


とにかく行動だ。

行動しないと何も始まらないからだ。


血痕を辿っていく。


いくつか曲がり角があった。


曲がり角ってのは怖いな。


その先が見えないから、視認性が低いから。


そこに敵がいても気付けないし、反応が確実に遅れる。


そんな適度な緊張感を感じながら進んでいく。


すると、やがて行き止まりにたどり着いた。


その行き止まりでは人が倒れていた。


いや、正確には人だったもの、か。


ローブを被っていたようだが、ローブのフードは外れて、その素顔が見えていた。


白骨化したガイコツだった。


「南無三」


どうやらここで息絶えたらしい。


そんなことを確認して俺はそこで倒れている骸骨からローブを剥ぎ取った。


【迷彩ローブを手に入れました】


「こんなローブすらアイテムなわけか」


俺はそう言いながらとりあえずローブを身につけることにした。


装備なしよりはマシだろ。


身に付けながらも白骨化からは目を逸らさない。

ゾンビ物だと動き出すからな。こいつ、ゾンビじゃないからそういうお約束はないかもしれないけど。


そうして観察していたら死体が何かを持っていることに気付いた。


「本?日記?」


右手に本のようなものを持っていたのだ。


俺はそれを手に取った。


表紙に文字が書いてあった。


日本語ではないが、読める。


タイトルはこうだった【冒険手帳】。


パラッ。

中を開いてみると、生前のことが書かれているようだった。

そして、最初のページにはこうあった。


【オーガについて】

・オーガはこのダンジョンで最弱のモンスターだ。

・目が悪い。

・【迷彩ローブ】を身につけていればこちらを視認できない。しかし、攻撃すれば存在を察知される。

・攻撃力は高いが不意打ちが通じるので見つかるまでに殺すこと。攻撃力は【ダイヤモンドソード】単品で過剰なくらい。これを使えば一撃。


【アビ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎について】




オーガについては知れたが次の項目の筆跡が乱れすぎていて何も分からなかった。


「くそ、落ち着いて書いてくれよ。頑張って読めるとこを呼んでみるか?」


俺がそう呟いた時だった。


ズゥン。

ズゥン。


後ろから足音。


バッ!

急いで振り返る。


そこにいたのは


(なんだこいつ、鬼か?)


2本の角を生やしたモンスターが立っていた。


そのモンスターを視認すると、ウィンドウがモンスターの上に現れた。



名前:オーガ

レベル:500



(モンスターはいるとは思ってたが、こんなに早く見つかるとは、運が悪い。しかもレベル500?あ、負けたわこれ)


そう思いながら俺は剣をいつでも抜けるようにしてみたが、


「グル?」


(俺に気付いてない?)


一応ここまで話さないようにしていたが、オーガは俺の事を視認していないらしい。


キョロキョロ。

周りを見ていた。


(俺に気付いてないぞ、こいつ。俺を見かけたから追ってきた、とかじゃなくて。こいつがここにいるのは、巡回ルートだったから、か?)


そうだ。この世界はゲーム世界。


となると各モンスターには巡回ルートというものが設定されてるはず。

こいつは決められたルートを歩いてきただけだ。



気付いてない理由だが俺が先程獲得した【迷彩ローブ】というアイテムの効果だと思う。


手帳にもそう書いてあった。


クルっ。


ズシンズシン。


オーガは俺に背中を見せて歩いていこうとする。


無防備な背中だった。


(今なら倒せる)


完全に不意打ちができる。


ガラガラの背中。

こんな無防備な背中に一撃叩き込まれたらいくらコイツでもダメージを受けるはずだ。


ていうか


(手帳を信じるならダイヤモンドソードで倒せると書いてあった)


俺はガラガラの背中を見てソロソロと歩き出す。


そして、赤い背中に近付きながら強く思ってた。


(気付くな。気付くな。気付くな気付くな気付くな)


一歩。

二歩と進んで距離を詰めて、そして、目の前にオーガの首が見えた。


手を伸ばせば届く距離。

そこになって俺は剣を抜いた。


カシャッ!

音が鳴って


「グル?!」


(気付かれた!)


でも、俺はもう剣を抜いてる。


「しまいだ!」


ザン!

両手でダイヤモンドソードを握りオーガに振り下ろす!


ズバッ!


「グル……」


とさっ。


その場に倒れるオーガ。

それと同時にアイテムがドロップした。


【オーガの爪を入手しました】


とさっ。

俺もその場に座り込んだ。


「た、倒せたぞ」


ぐっ。

拳を握りしめた。


うれしー。

今までいろんなゲームを遊んできたが、文字通り自分の手で敵を倒した。


どんなゲームでも得ることの出来なかった喜びと興奮が込み上げてくる。

そして


【レベルが上がりました。レベル1→レベル500】


その表示を見て更に喜びが込み上げてきた。


「っしゃ!」


俺の予想していた通りこのダンジョンのモンスターを倒せば、やはりかなりの量の経験値が獲得出来る!


レベル500!

こんなレベルゲームとしては圧倒的じゃないか?!

作中最強と既に言えるようなレベルじゃないのか?!


興奮は冷めない。


いろんな考えが頭を駆け回る。

しばらくして興奮が落ち着いた頃になって俺はもう一度白骨化死体を物色することにした。


武器は既に手に入ってるから後は、装備だが、それはこの骸骨が身につけていたのでそれを拝借しようと思う。


骸骨が身につけていた装備を剥ぎ取るとこんな表示が出た。


【竜騎士一式〔臭〕を入手しました】


身につけるとぷーんと匂ってくるのは肉が腐ったような匂いだった。


臭い。


「当たり前か。こいつは白骨化するまでこれを身につけてた。そしてその過程で出た臭いが付着してるってわけか」


苦笑いしながらそう状況分析してから俺は最後に死体に残った物を見つめた。


それは小さなカードだった。

いわゆる運転免許証みたいなサイズのカード。


床に落ちてて、それを拾ってみた。


するとそこにはこうあった。


名前:グラン

レベル:1200

冒険者ランク:S


「レベル1200で白骨化するのか、このダンジョンは」


ごくり。

唾を飲み込んだ。


やはり世界最高難易度のダンジョンの名は伊達ではないらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る