第85話 御神体は一体で十分です
おみくじを引いたあとはお守りを見て回る。そこにあるからちょっと覗いてみよう、という冷やかし気分だったのだけれど、いざ見てみると気分が盛り上がった。私のではなく、二人の。
「一透、お前健康祈願持っとけよ」
「厄除けも必要じゃない? 一透ちゃんトラブルに突っ込んでいくところあるし」
「交通安全もだな」
「二人とも、私のこと何だと思ってるの?」
次々にお守りを勧められる。そんなに沢山持っていても仕方がないというか、いろんな種類のお守りをじゃらじゃら着けるの恥ずかしいというか、そんなに心配なら二人に守って欲しいというか。
「一透ちゃんならこれも外せないんじゃない? 恋愛成就」
「だからそんなに……冬紗先輩?」
「やっ。奇遇だね一透ちゃん」
後ろから伸びてきた手にお守りを渡されながら、自然に返事をするところだった。あまりに自然に入ってくるものだからつい。
「明けましておめでとう。今日は女の子のお友達と一緒?」
「明けましておめでとうございます。はい。同じクラスの、大野真咲ちゃんと小川結季ちゃんです」
こんにちは、とにこやかに挨拶する先輩に、ども、と軽く頭を下げる真咲ちゃん。人見知りを発揮して、真咲ちゃんの後ろに隠れる結季ちゃん。
「君かわいいね。小紋かな。柄も色味も君にピッタリ」
お姉さんオーラを発しながら着物を褒める先輩に結季ちゃんが陥落するまで、わずか数秒。さすがの手腕だ。真咲ちゃんの背後からおずおずと出てきた結季ちゃんは、もう既に先輩に頭を撫でられている。なんと癒される光景だろう。
「この人が例の先輩か。聞いてはいたけど、なんかすげえな」
「でしょう?」
私が誇ることではないが、胸を張って答える。先輩はすごいのだ。
「先輩も、初詣ですか?」
「うん。これでも受験生だからね。お参りくらいしないと」
先輩といる時は遊ぶ時であることが多いのでつい忘れそうになるが、確かにそれはそうだ。確か今月の半ばには共通試験もあるはず。
「じゃあ、学業成就のお守りプレゼントします。日頃のお礼に」
「いいの? やった。じゃあ、恋愛成就と交換ね」
「いえ、それは別に……」
「着けてたらハジメ君喜ぶかもよ?」
「なんでですか?」
先輩の顔が残念そうなものになる。多分彼は何も気にしないと思うのだけど、そんなにおかしなことを聞いただろうか。
「一透ちゃんって、いつもこんな感じ?」
「ええ、まあ」
「大体は」
仲良くなってくれたのは嬉しいけれど、私を除け者にしないで欲しい。どうしてそんなに呆れた顔をするの。
「というか、あいつに見せつけても変に刺激するだけで喜びゃしないんじゃないすか」
「その刺激が欲しいかなって思ったんだけどなあ」
「ニノマエくんが勝手に悩む分には、わたしはいいと思います」
「結季ちゃんは、あまりハジメ君のこと好きじゃない感じ?」
「一透ちゃんとられちゃうので」
「あははは! それは困ったね」
私の入れない話で盛り上がってずるい。私も混ざりたい。なにか、なにか切り口はないか。そうだ。
「九十九くん、愛想がなくて女子から苦手に思われてたりするから、それは私から九十九くんにあげておくので別のを――」
「鬼かお前」
「流石に酷だよ」
「わたしもそこまでやれとは言ってないよ」
非難轟々。もう今日は何を言っても勝てないようだと思い知らされた。
結局、皆一つずつお守りを買うことになった。先輩には、私から学業成就を。私は、わたしもお揃いの買うから、と結季ちゃんに言い含められ、先輩から恋愛成就を渡された。
交換し合う私達を見て、それならこちらも、と結季ちゃん達も交換し合う。真咲ちゃんから結季ちゃんへは、約束どおり私のとお揃いの恋愛成就。結季ちゃんから真咲ちゃんへは、必勝祈願のお守りだ。
「それはそれとして、やっぱ一透には健康祈願も」
「お守りは一個でいいよ」
「知ってる? お守りって御神体扱いだから、一体、二体、って数えるんだって」
「先輩、物知りですね……御神体まみれの一透ちゃん、ふふふ」
「御神体は一体でいいよ」
先輩に笑われながら、私をお守りまみれにしようとする二人の手を取って早々にその場を離れることにした。
___
気になる女の子から
「他の女の子とも仲良くなれるといいね」
って恋愛成就のお守りを渡された場合の
九十九くんの気持ちを答えよ。(配点20)
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