第56話 文化祭
文化祭が始まった。
食べ歩きもでき、寛いでいくこともできて、飲み物も扱っているのが需要に適しているようで、多数のお客さんに来てもらうことができた。我がクラスは評判のようだ。
私達も自分のクラスのホットサンドを食べながら、三人で色々な出し物を見て回る。
小川さんはイメージ通りだったけど、意外と大野さんも怖いものが苦手らしく、お化け屋敷に入るたびに私を真ん中にして二人でしがみついてきた。
ちょっとしたいたずら心で、怯える二人の脇腹をかるく摘んでみたらすごく怒られた。
縁日では、運動神経が必要なものは大野さんが、手先の器用さが必要なものは小川さんが、どちらもバランスよく使わなければいけないものは私が主に担当し、それはもう無双状態だった。
乱獲した景品をそれぞれ手に持って、三人で写真を撮った。
反対に、脱出ゲームでは皆で頭を抱えてしまった。九十九くんなら得意なんだろうな、と思っていると小川さんにそれを見透かされた。
わたしと居る時によその男のことを考えないで、なんて言って膨れるものだから、可愛くてつい甘いものを貢ぎ込んでしまった。
彼女は罪な女だと思うけれど、そんなところも愛らしい。
体育館では吹奏楽部や軽音部の演奏を聴いた。ロックでは大野さんがノリノリで、ポップスでは小川さんがノリノリなのがわかりやすい。
二人をニコニコと眺めていたら、お前ももっとノってこいよ、と言われたので、リズムに身を任せてみたら何故か笑われた。
あれはもう二度とやらない。
美術部の展示も見に行った。小川さんは高校から美術部に入ったと言っていたが、作品は素晴らしかった。
へんてこな〝感覚〟を持つ私は色使いや質感の表現にはちょっとうるさいのだけれど、その私に言わせれば、彼女はきっと化けると思う。
小川さんの作品の前で、小川さんを中心にして、また一緒に写真を撮った。
クラスの当番がズレるときがあったり、小川さんが部活の方に顔を出したりすることもあって、一人で行動することも何度かあった。
グラウンドを使って実施していたストラックアウトでパーフェクトを取った時はちょっと恥ずかしかった。
最後以外、全て狙ったのと違う的に吸い込まれていったのに、この奇跡を分かち合える相手が側にいないなんて。
二人が一緒にいてくれていたらガッツポーズを二人に捧げたのに。代わりに、景品でもらった金色の折り紙でできたメダルをあとで自慢しようと決めた。
進藤くんともばったり出会った。ハジメにいろいろ良くしてくれてるお礼、とわたあめを奢ってくれたので、お礼返し、とたこ焼きを奢ってあげた。
釣り合ってなくない? と笑われたけど、男子からはほとんど大野さんへの不満が上がってこなかったのは進藤くんのお陰でしょ、と言うと、こっそり仕掛けたいたずらがバレた子供のような顔をした。
カマかけだったけど、当たっていたらしい。
それも半分はハジメだよ、と彼は言ったが、もう半分といつもの禅問答のコーナーの視聴料を考えたら安いくらいだと思う。
そのまま伝えたら、盗み聞きは程々にしなね、と
−−−
そんなこんなで、私は二日間、文化祭を満喫した。一人で回ったり三人で回ったりしながら、ほぼ全ての出し物を巡った。
そのどこにも、九十九くんの姿は見えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます