第27話 きっと、どちらも

 午後の部の最初のプログラムは応援合戦だった。


 応援合戦といえば、各チームの応援団が学ランに身を包み、互いや自チームを応援し合って声の大きさや迫力を競うもの。


 という認識でいたのだけど、初めて見た高校の応援合戦は、応援合戦というテーマのパフォーマンスタイムという印象だった。


 フレー、フレー、青組、といった馴染みのフレーズが、吹奏楽部が演奏する流行りのポップソングに上手に組み込まれ、応援団の応援とダンス部、チアリーディング部のパフォーマンスが見事に融合している。


 まるで暑さを感じさせない様子で華麗に飛んだり跳ねたりする彼らを見ていると元気をもらえる。


 ダンス部の人が着ている、胸の下辺りで切り取られたような丈のシャツを初めて見たのは、女子更衣室の入れ替わりの時だった。注文するときにあんなサイズあっただろうかと小川さんに聞いてしまったのを思い出す。


 あれはクロップドシャツといって、オシャレのためにわざと切り落としているんだよ。そう教えてもらって赤面したものだ。


 中が見えてしまったらどうするのだろうと思っていたけれど、当然見えてもいいものを着ているらしく、それを着てダンスをする際には一層華やかに見えるのだと感心する。


 あのとき小川さんに聞いていなければ、今、九十九くんに同じことを聞いてしまっていたかもしれない。彼がクロップドシャツを知っているかは、わからないけど。


 応援合戦が終了した。得点は発生せず、皆で楽しんでおしまいらしい。


 その次の競技も得点は発生しないものだ。何せ、組ごとの対決ではなく、部活ごとでの対決だから。


 部活対抗リレーでは、それぞれの部の特徴的なアイテムをバトン代わりにして行われる。部によっては、わざわざユニフォームなどに着替えて走る部もある。


 私と九十九くんは帰宅部なので出場しない。部に所属していても出たり出なかったりはあるらしいけど、小川さんと大野さんは出ると言っていた。


「進藤くんは、でるの?」


 隣の九十九くんに聞いてみる。少し距離があるので、気持ち大きめに声を出す。


「写真部はいい写真を撮って学校に提供するのが仕事だから、だと」


 要するに、出ないということだろう。


 写真部に所属している彼は、体育祭中ずっとカメラを持ってウロウロしている。競技中カメラをどうしているのかは謎だ。彼が撮った写真が、学校の広報誌やアルバムなどに使われることもあるのだろうか。


 生徒の準備が終わると、部活対抗リレーの文化部の部が開始された。


 小川さんが所属する美術部はエプロンのようなものを身に着けて、筆をバトンにして走っている。


 他にも吹奏楽部がトランペットを手に走っていたり、将棋部が将棋盤を抱えて走っていたりする。放送部なんかは、拡声器を手に実況しながら走っていた。大変そうだけど、すごく楽しそうだ。


 小川さんは真ん中くらいの走順で、誰にも追い抜かれることなく次にバトンを繋いでいた。頑張ったねって、後で褒めてあげなくては。


 運動部の部が始まると、まず球技系の部活からリレーを始めた。ユニフォームは着たり着なかったりで、バトンはボールかラケットかなので、あまりイロモノはない。


 というより、後で気づいたのだが、イロモノはあとに回されていた。


 大野さんはバレーボールを抱えて走り、バスケ部の女子を一人抜いていた。もちろん大野さんも、後ですごいねと褒めてあげなくては。


 メインの部活が済んだあと、イロモノ枠がまとめて行われた。暑い中フル装備で竹刀を構えてすり足で進む剣道部は意外に速く、ハンデとして後ろ向きに走らされた陸上部といい勝負をしていた。


 面白かったのは自転車競技部だ。出番が終わってテントに戻った放送部の解説によれば、これが僕らの部活道具だからと、ロードバイクで勝負しようとしたらしい。


 もちろん、他と差がつきすぎるし、何より危険なので却下されたのだが、彼らの意を汲んで、顧問の先生が息子さんから三輪車を借りてきてくれたそうだ。


 幼い子用の三輪車に跨り爆走する自転車競技部は、ヤケになりながらも最後まで走りきった。


 もちろん、最下位だったけれど。


「すごかったね」


「ああ」


「帰宅部でよかった?」


「ああ」


 心は見えないけれど、やはり九十九くんは表情が素直だ。


「大丈夫か」


 だから、心配も素直に届いて来てしまうけれど。


「なんのこと」


 彼の心配も、太陽の熱も、分からないふりをして誤魔化した。


 伝わっている気持ちを無下にしてしまうのと。お返しも出来ないのに、甘えてしまうのと。


 一体、どちらの方がずるいのだろう。

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