第13話 お昼休み尋問
お昼休みになったので、大野さん、小川さんと三人で机を合わせお弁当を広げる。
手を合わせていただきますと斉唱し、さあ一口目、と昨日の夕飯の残りの煮物を口に運ぶ。うん。時間が経ってもちゃんと美味しい。我が母ながら大した腕である。
私が朝、寝ぼけ眼を擦りながら支度している間に母が用意してくれたお弁当。そのおかずに舌鼓を打っていると、途端に味気なく感じられるようになった。
味覚に集中していたためか、大野さんの呆れた感情を味覚で感じ取ってしまったらしい。
「食べないの?」
とりあえず先手を打つ。このままではせっかくの美味しい食事が勿体ない。
「お前、何考えてんだよ」
質問をしたら質問で返ってきてしまった。何、とは一体なんのことだろうか。心当たりはない。
不思議そうな顔をしていると、小川さんが補足してくれた。
「あの件以降、ずっとニノマエくんのこと気にしてるでしょ。だから、心配してるんだよ」
あの件、というのは先月の上履き取り違え事件のことだろう。
「心配?」
心配、というなら受動能動の関係性的にはされるべきは九十九くんだと思うが、もちろん九十九くんではないのだろう。
しかし私は自分の意志で能動的に行動している。心配してもらうようなことはなにもないと思うけど。
「別に、あたしは心配ってんじゃねえよ。ただ得体が知れないから、何考えてんだって聞いてるだけだ」
「私が九十九くんに話しかけるのって、そんなに不思議?」
「別に、必要がありゃあ他のやつだって話しかけてるし、あたしだって、例の件の時以外でも話したことくらいある。友達なら、用がなくても話したりするだろ。けど、言っちゃ悪いがお前らそんな風には見えねえんだよ」
実際、彼と友達かと聞かれれば、そんなことはないと思う。そんな気安い関係だと思ったことはない。
でも、話すことが不自然ということはないはずだ。彼とのコミュニケーションは概ね上手くいっている。それが傍から分かりづらいのが問題なのだろうか。
「なんというか……最初はニノマエくんのこと好きなのかなって思ったんだけどね? えっと、なんていうか……」
小川さんがひどく言いづらそうにしていると、大野さんが代わりに切り込んできた。
「観察ってーか、見張ってるみてえに見えんだよ、お前」
しまった。原因は私だった。
確かに、友達がいきなりクラスの男子を見張るように監視しだしたら。
例えば、小川さんが進藤くんを監視しだしたら。確かに私は小川さんを心配するだろう。一体どうしたのかと思う。
例えば、大野さんが進藤くんを監視しだしたら。確かに私は心配するだろう。進藤くんを。彼は一体何をされてしまうのだろうか。
「で、何を企んでるんだ?」
別に何も企んでなどいない。素直に伝えて問題ないだろう。
「九十九くんみたいに、人を上手く気遣える様になりたいと思って」
「それで観察してるの……?」
「うん」
二人とも意外、といった面持ちだ。
「あいつに気遣いなんてあるかぁ?」
「すごく気遣い屋さんだと思うけど」
「あいつ
「口にはあまり出さないけど、雄弁だよ。表情とか、身振り手振りとか」
私はよく、人の胸元を見てしまうことが多い。そこに感情が現れることが多いからだ。
彼はいくら胸の内を覗こうとしても靄に包まれて一向に掴めないのだが、その割に結構顔に出る。表情や仕草を見ていれば、何を伝えようとしているのか掴めるようにしてくれているのだ。
最も、表情と内心が一致しないことなんて珍しくもないので過信は良くないけれど。彼相手ではどうせ心の内は掴めないので、気にしても仕方がない。
「あいつとそれでコミュニケーションが取れるのはお前くらいだよ……」
そうだろうか。小川さんの方を見る。
わたしにもさっぱり、と困った顔をした。ほら、小川さんの表情からも意図を読み取れた。他の人とでも普通に行われるコミュニケーション手段だ。彼はその頻度が高いだけで、そう難しいことではない。
「こないだなんか、先生に口答えしてたろ。あれが気遣いのできるやつのすることか?」
大野さんが言う口答え、というのは、テストの答案が返ってきた時のことだろうか。
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