第9話 ひとり反省会
家についた。
リビングから聞こえてくるいつも通りの母の「おかえり」に、いつものように、「ただいま」と返して、自室へ向かう。
鞄を放りだして、制服のままベッドに飛び込む。シワが付いてしまうだろうが、今はそんなこと、気にしたくなかった。
今日の自分の行動を思い返す。改めて冷静に振り返れば、情緒不安定もいいところだ。恥ずかしいにも程がある。
ぼんやりしていた自分のミスで、余計なトラブルを招いた。
上履きが無くなってすぐに嫌な想像が頭を支配した。だけど入学してからわずか一ヶ月でいじめが起きているなどと、思いたくはなかった。それも、温和で優しい小川さんがターゲットだなんて。
なのに落とし物として届けられていなかった時点で、誰かの悪意があると決めつけてしまっていた。
小川さんのことを思って行動したつもりだった。でも、つもりになっていただけで、必要なことが出来てはいなかった。上履きのない小川さんが行動するということを考えもしなかった。だから、スリッパを履いていたことに最後まで気づかなかった。
大事になってほしくないという気持ちにも、きっと配慮できていなかった。だから人目も憚らずゴミ箱を漁ったりなんかした。見てもいない犯人を強く疑って。
今思えば、小川さんは自分よりもきっと、相手のことを考えてああ言っていたのだ。
あの時は気にならなかったけど、小川先輩の人柄を見て、少しも悪意なんて感じられなくて。一番安心していたのは、きっと小川さんだった。
私は、ありもしない悪意に怯えて、居もしない犯人に怒って、上履きを見つけ出すことも出来なくて、真実なんて何も分からなくて、口を開けば余計なことばかり言って。
ずっと、ただの独り相撲だった。大事なことは全部、九十九くん任せだった。
私のしたことの、何か一つでも、小川さんの為になっただろうか。
その答えは、誰に言われずとも明白なように思えた。
「九十九くんは、すごいな……」
彼は私と違って、最後まで諦めなかった。
最後まで、誰の悪意もなくて、誰も悲しまなくて、なんだ、こんなことだったんだって、皆で笑える結末を望んでいた。
だからきっと、そこにたどり着くことが出来て、だからきっと、ちゃんと誰かの為になることをすることが出来るのだろう。
小川さんにも、小川先輩にも、大野さんにも、私にも。多分、進藤くんにも。彼はずっと、気を配ってくれていた。ちゃんとそれぞれの気持ちを考えてくれていた。
私なんかより、ずっと。
私は人の心を感じ取る事ができるのに、いつだって考えが足りなくて、いつだって空回って、最後には傷つけてしまう。彼にはきっと、私が見落としてしまう、人の心の何か大事なものが見えているのだ。
だから私には、彼の心が感じ取れないのだろうか。彼の目には一体、人の心はどう映っているのだろうか。
あの靄の向こうに、その答えがあるのだろうか。
それを知ることが出来れば、私でも、人の心に報いることが出来るだろうか。
もう二度と、間違えることなく。
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