第32話 適正武器

 次の日、グリム兄妹はジークフレアたちと彼の屋敷の裏庭にいた。


 マティアス暗殺は失敗に終わった。かと言って、兄妹はもうカレの町には帰れない。マティアスの領地に一歩でも踏み込んだら最後、マティアスの手先に捕まり、命の保証はない。第一、兄妹にはもう帰る家もなかった。

 そんな訳で、昨晩二人はジークフレアの屋敷に泊まっていた。


 次の手段を、なにか考えなければならないのだが──


 今、兄妹の目の前にはさまざまな武器が並んでいる。片手剣、ダガー、槍、弓矢に斧……。


「よし! まずは片手剣から試してみようか」


 クラインが腰に手を置いて二人に言う。


「ピエール、準備はいいか?」

「おう」


 ピエールは訓練用の木剣と丸盾を手にしていた。同じ装備のクラインも二人と向かい合う。


「さ! まずは軽く振ってみよう」


 師匠風を吹かせて二人に指示した。


『戦い方を教えて欲しい』


 ジークフレアを案内した謝礼の代わりに、兄妹はそう要望したため、まずは二人の武器適正を見極めるのが狙いだった。


 それから一時間ほどかけて、いくつもの武器種を試していった。その間、ジークフレアはと言うと、特に口出しすることもなく隅の方で昼寝をしていた。




 ドッ──!!


 ヴィルヘルムの放った矢が、木に括りつけた板に突き刺さる。


「おおっ! また命中した!」


 クラインは拍手した。板には何本もの矢が刺さっている。


「君は弓矢に適性があるみたいだね」

「父さんに教えてもらったんだよ。森で一緒に狩りをしたこともある」


 ヴィルヘルムは自分の手に目を落とすと、グッと拳を握りしめた。


「どうりで。扱い慣れてると思ったよ」


 ドガッ!!


 横から鈍い音が響いて、二人は思わず顔を上げる。槍を手にしたシャルロッテが、ピエールに突きを放っていた。その表情は引き締まり、真剣そのものだった。


「うお、っとと!?」


 盾で受け止めたピエールだったが、バランスを崩して仰け反る。


「あだっ!?」


 結局、尻もちを搗いてしまった。シャルロッテは我に返ると、木製の槍を手にピエールに駆け寄る。


「すいません、大丈夫ですか!?」

「うん。平気、平気」


 ピエールが笑いながら立ち上がる。


「おいおい、情けねぇぞピエール」

「体重が乗ってて、良い突きだったんだよ。そんで、押し負けた」


 溜息を漏らすクラインに、ピエールはそう返した。


「君は槍が上手いね。突きも芯を喰ってるし、腰もちゃんと入ってる」

「そうですか。ありがとうございます!」


 シャルロッテが嬉しそうに槍を抱きしめる。どこか殺気めいた雰囲気も消え去り、いつものほんわかした彼女に戻っていた。


「槍に弓矢、か。適正武器はこれで決まりだな」


 兄妹を見て、クラインはうなずいた。


「戦い慣れしていない場合、相手と距離を取れる飛び道具やリーチのある武器がベストだからね。まさにピッタリだ」


 クラインの言葉に、二人もうなずき返した。


「ちょっと休憩しようか」

「はい」

「休憩の後はぁ~……。って、ちょっとジークフレア様!」


 ずっと寝ているジークフレアを見かねて、クラインが声を掛ける。


「いつまで寝てる気ですか。いい加減、起きて下さいよ!」

「そうだぜ! 俺たちはアンタに戦い方を教えて欲しいのによ!」


 声を掛けられ、ジークフレアがむくりと起き上がる。ボーッと四人を見ると、大欠伸を披露した。


「本当に爆睡してたんすね……」

「締まらねぇなぁ」


 寝ぼけ眼のまま、ジークフレアは兄妹が手にしている武器を見た。


「適正武器とやらは決まったんだな」


 ぽつりと言う。


「ええ。ヴィルヘルムが弓矢、シャルロッテは槍です。取りあえず、この武器の稽古をやっていこうかと」


 ジークフレアはだるそうに溜息を漏らした。


「なんだよ、何か言いたいことでもあんのかよ?」

「別に。殺せさえするなら、武器はなんでもいい」


 ゆっくりと立ち上がる。


「ちょっと待ってろ」


 短く言うと、奥に引っ込んでいく。ヴィルヘルムは不満気に彼の背を見つめた。


「なんなんだよ……」

「寝起きが悪いタイプなのかな?」


 シャルロッテも首を傾げる。クラインも訝しんだ。


「いつもはそんなことないんだけどね」

「なんか、ちょっと怒ってるっぽかったな」

「ああ」


 トットットッ……!


「!?」


 四人が話していると、ジークフレアはすぐに戻って来た。馬に乗って。少し離れた場所で、歩と止める。


 しゅら……。


 何を思ったのか、刀を抜き放った。


「かかって来い。り合おう」

「「!!」」


 意味が理解できず、二人は言葉さえ発せなかった。

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