第17話 隠しボス出現

「ガッ、ガイコツ兵士!?」

「クソ! まだ生き残りがいたのか!?」


 四人が身構える。だが相手は怯えているようだった。その目はジークフレアが握る刀を食い入るように見つめている。


「それには、触るな」


 どこか懇願するように言う。


「首なし伯爵デュラハン様は無類の武器コレクターなのだ。それもただの武器コレクターじゃない。古今東西の魔剣や魔槍、曰く付きの呪われた武器に目がないお方なのさ……」


 独り言のようにつぶやくと、ごくりと息を呑む。


「その刀も、これまでに多くの血を吸ってきた逸品。持ち主の魂までも喰らう代物らしい。だから次々と持ち主が変わり、今では妖刀と恐れられている」

「よ、妖刀……」

「ああ。その刀の名は、妖刀ムラマサ──」


 ガイコツ兵士がゆっくりと腕を上げて、刀を指差す。


「きっとニンゲンどももそばに置いておきたくなかったのさ。だから遠い東の地からここまで流れてきた……。その刀にはな、恐ろしいナニカが封印されているんだ。オレたちには分かる。だからそれにだけは、触らないようにしてきたんだ」

「これは真言しんごんのようだな」


 ジークフレアが刀に目を落とす。帯にびっしりと書かれている文字のことを言っているのだ。


 メリッ。


 鍔の部分の帯をめくった。


「おい、やめろ!」


 ガイコツ兵士が慌てる。


「なんだ?」

「なにか貼り付けてありますね」

「紙みたいよ?」

「だから、ヤバイのが封印されていると言っているだろ! 話を聞いてなかったのか!?」


 クラインたちも覗き込む。鞘と柄が細長い紙片で留められていた。その紙片にも不思議な文様──真言が記されている。


「厳重に封印されてるっぽいっすね~」

「抜けないようにしてるんだろうな」

「でも、これじゃあ使えねぇな?」

「くだらん!」

「あの。俺の話、聞いてくれてる?」


 全然話を聞かない四人に対し、ガイコツ兵士がかまってちゃんのように近寄ってくる。


「どうします、ジークフレア様?」

「どうするもなにも、このままじゃ使えないもんね」

「破るしかないだろうな」

「まぁ、フツーに考えりゃそうか」

「うおぉぉい!!」


 急にガイコツ兵士が怒鳴った。


「お前ら、オレを無視するな!! ガイコツの話も聞け──っ!!」

「おい、骸骨」


 そんなガイコツ兵士に向かってジークフレアは言った。


「あ?」

「これ、貰うぞ」

「は?」


 びりっ!


 躊躇することなく、紙片を裂く。


「わぁぁぁぁ!?」


 動揺するガイコツ兵士に構わず、ジークフレアは刀を引き抜いていった。


 ごう……!


 だが刀身が見えたその瞬間、刀より風が吹き荒れはじめた。真言の書かれた帯が弾け飛ぶと、黒い瘴気が溢れ出す。


「うわっ!? なんだこれ!」

「ちょ、ヤバくね!?」

「やっぱガイコツの話、本当だったぽいね」


 瘴気は苦悶に歪む人の顔をしていた。それが幾つも飛び出て刀の周囲をぐるぐると回る。


 見えない力に跳ね除けられるように、四人は吹き飛んだ。


 無数の瘴気が刀を中心に集合し、一つの塊となる。やがて大きな漆黒のローブのように広がると、上部からぬっと巨大な髑髏が現れた。左右からも骨の手が伸びてくる。

 ローブを揺らめかせ、空中を浮遊する。


「な、なんじゃコイツは!?」


 それを見上げ、四人とも驚愕した。


「あわわわわ……。幽鬼だぁ! ヤバい幽鬼が解き放たれたぁ!!」


 ガイコツ兵士がわなわな震えはじめる。


「幽鬼っ!?」

「たたた、魂を刈られるぞ! にっ、逃げろぉぉ!!」


 武器を捨てて転がるように逃げていく。


「ぅごぉぉぉ……!!」


 幽鬼が手をかざすと、妖刀が独りでに宙に浮き、幽鬼の手に吸い寄せられた。幽鬼が手にすると、それは紫色の邪気を帯びる。


 ゲーム正史において幽鬼は本来、もっと後で登場するはずだった。魔王側近の一人、首なし伯爵デュラハンの居城にて、隠しボス枠として主人公たちは戦うことになるのだ。


 運命シナリオは変わり、【異国の幽鬼】、ここに登場す。


「強そうだなぁ。どーする、アレ?」


 ピエールは半笑いで幽鬼を指差した。


「笑い事かよ!」

「いや、本当にヤバいから笑うしかないんだよ」

「何となくわかるよ!」


 クラインが吐き捨てつつも完全同意した。


「今までのヤツと違うよね? やっぱあれ、ガチでヤバイよね?」

「そうですよ。ガチにガチでヤバイ奴です!」


 レシィに向かって、クラインが言う。


「ど、どうするぅ!?」

「逃げる、一択っすよ!! あれはどう見ても大ボス級だ! 敵うわけねぇ!!」


 三人ともゆっくりと幽鬼から距離を取りタイミングを見計らう。


「今だっ!! 全力で逃げるぞっ!!」


 クラインの声に、ピエールとレシィも応じた。背を向けて、全速力で駆け出す。


 ビュオ──ッ!!


 後ろの方で微かに風の音がした。クラインが振り返ると、幽鬼の姿が消えている。


「「「!!!!」」」


 前を向き、急ブレーキを掛けて立ち止まった。


 背後にいたはずの幽鬼が、目の前にいたのだ。一瞬で回り込まれていた。


「おぉぉぉ……!!」


 妖刀を振りかざす。月の光を受けて妖しく輝くそれは、三人の命を刈らんとして、より一層、冷たく光った。


「ひぃっ!!」

「やば……!!」


 ガッ!!


 クラインとレシィの肩を、誰かが掴んだ。


 レシィがびくりと肩を揺する。


「お、おっさん……」


 涙目でレシィがジークフレアを見つめる。


「ジーク様?」


 ジークフレアはじっと目の前の幽鬼だけを見ていた。二人を掻き分け、敵と対峙する。


「その刀、俺に寄越せ」


 大鉈を肩に担いで、ジークフレアはにたりと嗤った。

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