第15話 ポンコツ聖女
「町の連中が見たのは幽霊じゃなくて、魔族だったんすよ!! しかもこいつら、アンデッドだ!!」
「アンデッド!?」
「そうです。その名の通りしぶとくて厄介な連中なんですよ!!」
クラインが次々と現れるガイコツを見て後退りする。
「ハッハッハッ……! その通りだ、ニンゲンども!」
ガイコツの一体が、不敵に笑った。
「オレたちは魔族のガイコツ兵士だ。今はとある任務中でな。この森を抜ける最中だったのさ」
「けれど、オレたちゃアンデッド。陽の光にゃ弱いんでね」
別のガイコツが続ける。
「だから昼間はこうして、骨になって眠ってるってわけさ」
それはゲームでも同じ設定である。暗いダンジョン内部を除き、アンデッド系のモンスターはフィールド上では夜の時間帯にしか出現しないのだ。
「に、任務だと……!?」
「ああそうだ。こいつを運ぶな?」
ガイコツ兵士たちが、おもむろに空中に手を伸ばした。何かを掴むような動作をする。
バサッ!!
すると布がめくれる音がして、何もない空間から、突如として大きな荷車が出現した。そして、その荷車には巨大な棺が横たわっていた。
「なっ!?」
クラインたちが驚く。こんなものが近くにあろうとは、誰も気が付かなかった。
どうやら森に紛れるような色彩の布で、うまく隠されていたようだ。
「これはあちこちの金持ちや商船から盗んだお宝さ。首なし伯爵デュラハン様に献上するためのな!」
棺に手を置いてガイコツ兵士は笑った。
荷車には棺以外にも、何やらごちゃごちゃと色々な物が置かれている。その中から赤い兜を取り出すと、ガイコツ兵士はそれを被った。次に槍を引っ張り出す。
「武器を取れ、野郎ども!」
その一声で、ほかのガイコツ兵士たちも剣や盾を身に着ける。
「オレはこの一団の隊長、ガイコツ兵士のスカルディ様だ! お前たちの命、頂戴する!」
ガサガサ……!!
「っ!?」
背後の茂みからも、ガイコツ兵士たちが現れる。
「ちょ、ヤバくね!?」
「あ~、これ囲まれた感じっすねー」
「呑気かよ!?」
「やるしかねぇぞ、ピエール!」
クラインが腰の剣を引き抜く。
「でもこの数、勝てっかな~? 十体近くいるぜ?」
「大丈夫だ。なんたってこっちには──」
クラインはニヤリと笑った。
どこか誇らしげに、その顔をジークフレア、ではなくレシィに向ける。
「聖女様がついてるんだからな!!」
「はえ? アタシ?」
レシィがぽかんと口を開け、自分を指差す。
「なっ!? せ、聖女だと!?」
ガイコツ兵士たちが、聖女と聞いてたじろいだ。近寄って来ていた連中も、思わず動きを止める。
「ハッハッハ、残念だったな!? こっちには聖女レシィ様がいるんだぜ! アンデッドのお前たちにとっちゃ天敵みたいなもんさ!!」
クラインが剣を構える。
「近寄ってくる連中は俺とピエールで押し返します! 聖女様はまず、あの赤い兜の奴を倒してください! あのスカルディってのがボスみたいだ!」
そう言うと、横のピエールを見てうなずいた。
「いくぜ、ピエール!!」
「ああ」
「ねぇねぇ、クラインくん? さっきからなに言ってんのかな~? アタシが聖女だからなんだって言うのかな~?」
クラインの肩をちょいちょい突いて、レシィが困ったように笑った。
「な、なに言ってんすか聖女様?」
勢いを殺され、クラインは思わずこけそうになった。
「聖女って言ったら【光魔法】でしょ? 光魔法って言ったら、アンデッドの弱点じゃないすか」
「弱点じゃないすか、とか当たり前のように言ってるけど知らねぇし!」
「知らなくてもいいですよ。取りあえず、ホラ! 光魔法で攻撃をお願いします!」
「だ~か~ら~! そんな魔法使えないっての!」
「……えっ!?」
一瞬の間を置いて、クラインはレシィを二度見した。
「え、使えない!? 嘘ですよね、光魔法ですよ!?」
「うん」
「【ホーリーボール】とか高度なヤツじゃなくてもいいんすよ? 【ホーリーライト】でもいいんすよ??」
「ホーリーライトでもじゃねぇし! そんなん覚えてねぇし!」
「ンなんでだよっ!! ホーリーライトはデフォルトでしょ、普通!!」
「知らないっての! アタシが使えんのは【ヒール】だけなんだって!」
訴えるようにレシィが叫ぶ。
「ヒールだけぇ!? そんな聖女、どこにいるんすか!?」
「しゃーないじゃん! 聖女の学園に修行に行ったはいいけど、な~んか肌に合わなくてすぐに戻ってきたんだからさぁ!!」
「偉そうに言うことじゃねぇよ!!」
「フハハハハ!!」
聞いていたスカルディは馬鹿にしたように笑った。
「脅かしやがって! とんだポンコツ聖女のようだな!」
「だ~れがポンコツじゃい!!」
「まぁよい。ポンコツだろうと聖女は聖女だ。生け捕りにしてデュラハン様に献上しよう。さぞお喜びになるだろう! 聖女の魂は極上だからな」
スカルディが再び槍をクラインたちに突き付ける。部下に指示を飛ばした。
「さあ野郎ども、こいつらを八つ裂きにしてしまえ! おっと、聖女は殺すなよ? 縛り上げるのだ!」
「へっへっへっ! ならほかの奴らは喰っちまいますぜぇ!」
いよいよガイコツたちが迫って来た。
「ちょっとピエール、松明貸して!」
レシィはピエールから奪い取るように松明を手にする。
「ポンコツ、ポンコツうるさいんじゃ、ボケー!!」
目の前のガイコツ兵士の頭をフルスイングした。
バコーーンッ!!
「ぬあぁぁ!?」
頭蓋骨が首から外れ、吹っ飛んでいく。
「まさかの物理!?」
クラインはそれを見て驚いた。
首の取れたガイコツ兵士は、まるで目が見えない時のように周囲を手探りしはじめた。頭を探しているようだ。
「村娘のフィジカル舐めんなよ!」
そんなあたふたしているガイコツ兵士に向かって、レシィが跳躍する。
「でりゃあ!!」
スカートを揺らめかせながら、ガイコツ兵士の背骨を思いきり蹴り上げた。衝撃で、骨の身体がバラバラになって崩れ去る。
「どーよ、【聖女の一撃】は!?」
そんな技はない。
「な~んだ、コイツら意外と弱いんじゃん? いや、アタシが結構強いのかな?」
レシィが得意げに眉を上げた。
だが吹き飛んだガイコツ兵士の頭が浮遊しながら帰って来ると──
ガラガラガラ……。
バラバラになっていた骨の身体もすぐに組み合わさり、あっという間に復活した。
「【聖女の一撃】、気ん持ちイイ~♡」
そんな技はない。
「うげっ! 効いてないの!?」
「ホラホラ、これなんすよ! アンデッドはこれが厄介なんすよ!」
敵にぐるりと取り囲まれ、三人は背中合わせになった。
「追い詰めたぜぇ」
「クッ……!」
「まずはお前からだ!」
レシィにやられたガイコツ兵士が、レシィに迫る。
「よくもやってくれたなぁ? 殺しはしないが、ちょーっと痛い目に遭わせちゃうぜ? へっへっへ」
「ヒッ!!」
レシィに向かって、剣を振り上げた。
その瞬間だった。ガイコツ兵士の真後ろから、一つの影が躍り出る。
「キィエ゛エ゛ア゛ア゛ア゛───ッ!!!!」
「な!?」
巨大な鉈を手にしたジークフレアだった。烈火の如き気合と共に、今まさにその鉈を振り下ろさんとしている。
「くっ!!」
ガイコツ兵士が剣で受け止めた。
斬破ッッッ!!!!
だが全身全霊の一撃は、いとも簡単にその剣を圧し折っていた。
「ぐげっ!?」
そのまま兜ごと頭蓋骨をかち割る。更には──
ボキッ! ゴキゴキッ!! バキッ!!
背骨を粉砕し、その刃は地面にまでめり込んでいた。
ジークフレアは一刀の下、ガイコツ兵士を粉砕したのだった。
「なっ、なんだ貴様はっ!?」
スカルディがたじろぐ。
「おっさん!?」
「ジーク様!」
「ジークフレア様!」
「ジークフレアだと……!?」
スカルディは憶えがあるようにその名をつぶやいた。
「おい、刀持ってるのはどいつだ? 寄越せ、刀……」
月明かりに照らされたジークフレアの横顔は、双眸が爛々と輝き、その口は左右に裂かれて呵々と嗤っていた。
ガイコツ兵士たちがそれを見て怯む。
「キィエ゛エ゛ア゛ア゛ア゛───ッ!!!!」
狂ったような叫び声が再び森に木霊し、鳥たちが夜空に飛び立っていく。
遥か遠くまで聞こえる絶叫の中にアンデッドたちの断末魔と骨が砕ける音が混じり、それはしばらくの間続くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます