第14話 幽霊退治

 四人パーティーは暗い森を進んでいた。


 クラインとピエールが松明を片手に先頭を歩く。その後ろからレシィとジークフレアも続く。


 時折、濃い霧が流れて来ては彼らの服を濡らした。あちこちでフクロウが鳴くそんな夜だった。


「森に入ったはいいものの……」

「一向に現れねぇな、幽霊ゴースト


 クラインとピエールが、同時にレシィを振り返る。


「聖女様、本当にこっちの方向で合ってますか?」

「アタシに聞かないでよ。東の森ってしか聞いてないし」

「マジですか……」

「けど、日に日に町に近づいて来てるって言ってたね」

「う~ん、それだけじゃなぁ……」

「東の森って言っても広いもんな」


 三人の会話を聞き、ジークフレアは呆れたように鼻で息を吐いた。


「お前の早とちりじゃないだろうな、女?」

「だ~からレシィだっての!!」


 レシィがジークフレアに詰め寄る。人差し指を突き付けた。


「女、女うるせぇし! この銀髪ブタ野郎ーっ!!」

「!?」


 ジークフレアに向かって言い放つ。


「銀髪ブタ……ッハハ!」

「笑うな、ピエール」


 言いつつも、クラインは黙っているジークフレアを横目で見た。


 憮然としたまま、ジークフレアが自分の腹に手を置く。


「豚……」

「いや、傷ついてんのかい!」


 思わずクラインもツッコミを入れていた。


「申し訳ねぇけど、一丁前に傷ついてんのがムカつくな。この状況も相俟って、全部ムカつくな」


 クラインは溜息を漏らした。元はと言えば、ジークフレアが森に特攻したため、準備も碌に出来ずに、なし崩し的に森に入ることになったのだ。


「いったん戻りますか? このまま奥に進んでも、迷うだけな気がするし」

「俺はすでにもう、帰り道分からねぇよ?」


 平然とピエールが言ってのける。


「笑いながら言うことじゃねぇんだよ、ソレ」


 クラインは松明を高く掲げて周囲を見渡した。


 レシィも疲れたように溜息を漏らす。


「戻るんならさ、その前にちょっと休まね? 疲れたんだけど」

「そうですね。急いでもあんまり変わらないし。体力回復してから戻りますかね」

「ならさ。あそこはどうだ? ちょっと開けてる場所があるぜ?」


 ピエールが木々の奥を指差した。


「さすが、ピエール。夜目が利くな」


 三人ともそっちへ向かう。


「豚……」

「ちょ、ジーク様!? いつまでしょげてんすか、行きますよ!」


 とぼとぼ歩くジークフレアを見かねて、クラインはその背を押した。




 開けたその場所は割と広い窪地になっていて、中心には水が溜まっていた。


 空には分厚い雲がかかり、月の光は一切届かない。


「は~、やっと休めるわ! ちょっと足パンパンなんだけど?」


 レシィが近くの岩にどっと腰を落とす。長い髪を指先でクルクルといじりながら、後ろ手をついた。


 すると、なにやら細長くてゴツゴツとしたものに手が触れた。地面に落ちた木の枝らしい。邪魔なのでどこかへやろうと、何気なくそれを掴んだ。


「……ん?」


 掴んだものに目を落とし、レシィの表情が固まる。


 それは、木の枝ではなく骨だった。


「いやあぁ!? ほっ、骨ぇ~!!」


 悲鳴を上げながら、前方へぶん投げる。


「あだっ!?」


 骨は回転しながら、クラインの頭頂部に当たった。


「ちょ、なんなんすか、聖女様?」

「ほ、骨あった! 骨っ!」

「骨?」


 クラインが骨を拾い上げる。


「ホントだ。何の骨だろ?」

「思いっ切し掴んじゃったし、マジ最悪!」


 レシィが手を振り振りする。


「骨なら、けっこうこの辺に落ちてるよ? ホラ、ここにも」


 ピエールが肋骨の様なものを拾い上げた。笑顔でクラインとレシィに見せつける。


「「知ってたなら、最初から言え──っ!!」」


 思わずハモリながらピエールに詰め寄る二人だった。


「いや~、ごめんごめん」


 まったく悪びれることなく、ピエールが頭を掻く。


「ここ休憩するにはいい場所だから、狩人たちが野営とかするんじゃない?」

「あぁ、じゃあこの骨は狩った獣の骨って訳か……」

「どの骨もけっこうデカくない? 熊とかかな?」

「いいや。獣の骨ではなさそうだ」


 少し離れた場所からそんな声が届く。三人とも声の方向に顔を向けた。


 ジークフレアがしゃがみ込んで、窪地の水溜まりに手を突っ込んでいた。


「なにやってんの、おっさん?」

「ジーク様、濡れちゃいますよ」


 ジョボ……!


 水の中から手を引き抜く。なにやら丸くて大きな物を掴んでいた。


 ちょうどその時、雲間から月の光が降り注いだ。ジークフレアの姿が月のスポットライトを浴び、闇夜に浮かび上がる。


「ほれ」

「「「!!」」」

「立派なしゃれこうべだ」


 ジークフレアが手にしていたのは、まさしく人の頭蓋骨であった。


「周りをよく見てみろ。たくさん落ちてる」


 月明かりが窪地全体を照らす。無数の人骨があちこちに散らばっていた。


「こっ、これは……!!」

「ひぃぃ!」


 驚くクラインの横で、レシィも悲鳴を上げる。


「な~んでこんなとこに頭蓋骨なんか落ちてんだろな?」

「俺が知るかよ」

「どういうこと!? まさか、これが幽霊の正体ってこと!?」


 レシィが頭を抱える。その言葉に、クラインは深刻な顔になった。


「ちょ、ちょっと待ってください! 聖女様、確か幽霊が刀を持ってるって言ってましたよね?」

「え!? うん、そう聞いたけど?」

「幽霊の正体がガイコツ? 武器を持って、集団で森を移動しているガイコツ……!?」


 思い当たる節があるように、クラインがつぶやく。その顔から徐々に血の気が引いていった。


「ヤッ、ヤバイ……!!」


 ボウッ!


「む?」


 ジークフレアが持っていた頭蓋骨の両目の穴に、突如として青い炎が灯った。そして独りでに浮遊しはじめる。


 周囲に落ちていた頭蓋骨も宙に浮かぶと、同じように両目に炎が灯った。


 ガチャガチャガチャ!


 散らばった骨が意思を持っているかのように集まり、瞬く間に人骨が形成される。そして、その上に浮遊していた頭蓋骨が乗った。


「やっ、やっぱり!! こいつら幽霊なんかじゃない。魔族だ!!」


 その有様を見ながらクラインは叫んでいた。

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