第9話 気に食わん!!

「とんでもねぇな、アンタ!!」

「何やってんの!? バカじゃん!?」


 クラインとレシィが非難の声を上げる。


 だが、そんな彼らなど意に介さず、ジークフレアは槍を流れるようにぶん回し、小脇に構えなおした。両手に力を込める。


「ソォォォイ!!!!」


 女神の股間をバチクソに突き上げた。


 クライン、レシィ、そしてポポイヤが頭を抱えて再び絶叫する。


「ワーーーーッ!?!? ワーーーーッ!?!?」

「股間突くなし!!」

「もう止めてくれーーっ!!」

「アッハハハハハ!」


 ピエールだけが腹を抱えて笑う。


 ギシ……! ギシ……!


 そんな四人を尻目に、台座の上では女神像が上下に小躍りを始めた。


「あ、見ろよ」


 それを指差し、ピエールがぽつりと言った。


 ぐらん……! ぐらん……!


 最初は上下の揺れだったのに、徐々に円を描くように揺れ始める。


「あこれ、まずくねぇか?」

「さっ、支えるのです! 皆で女神様をお支えするのです!!」


 ポポイヤが女神像に両手を伸ばす。三人も同じように女神像を支えようした。


 しかしながら、揺れは収まることなく振れ幅はますます大きくなっていく。


 ぐらん……っ!! ぐらん……っ!!


「あわわわ!」

「ヤバくね、これ? ね、ヤバくね?」

「離れた方が良いんじゃないかな~?」

「駄目、絶対!」


 ピエールの言葉にポポイヤがイヤイヤと首を振る。


「女神様は絶対にお守りせねばならぬぞ! この像は五百年前の勇者様の時代から安置されているそれはそれは由緒正しい像なのだ!」

「でも危ないと思うんだけどなぁ……」

「うむ、離れよ」


 四人を遠くから見ていたジークフレアが一人、平静な口振りで言った。


「破片が飛び散ると、身体を切るぞ」

「やっぱそっすよね~」

「うるせぇよ! 手伝えテメェ! あ、スイマセン」


 クラインが思わず口走る。


 そうこうしているうちに、女神像の小躍りはいよいよどうしようもなくなった。


「これ……っ、どうするぅ!?」

「ちょ、マジでもう無理だって!」

「勇者様! 聖パパイヤ様 どうかご慈悲を……!」


 だがポポイヤの祈り虚しく、次の瞬間、女神像は台座から倒れていった。


 ドゴォォォン!!!!


 長椅子を破壊し、床に叩きつけられると砕け散った。


「光の女神様ぁあぁあぁあぁ────!!!!」


 ポポイヤは血の涙を流しながら、再び絶叫するのだった。




「何やってんすか、マジで!! ねぇ、マジで!!」

「気に食わん!!」


 クラインに責められると、ジークフレアは吐き捨てた。槍の穂先を砕け散った女神に突きつける。


「弱きを誇れだ自分にすがれだと小賢しい!! なぁ?」


 クラインとピエールを見てにやりと嗤う。


「だから『お前らもそうだろ』みたいに笑わないでくださいよ! 誰も同意してないっすから!」


 クラインはそう言うと、砕け散った女神像に駆け寄った。


「女神様~、僕らそんなこと思ってませんよ。思ってませんからね~?」と媚びを売りはじめる。


 ピポーン♪


「「「?」」」


 急に音がした。見ると、台座に嵌まった水晶の石板が淡く発光している。


『ジークフレア・オルフヴァイン・ルーンブルクは【レベル】を剥奪された!』

『ジークフレア・オルフヴァイン・ルーンブルクは【ステータス】を剥奪された!』

『ジークフレア・オルフヴァイン・ルーンブルクは【魔法】を剥奪された!』

『ジークフレア・オルフヴァイン・ルーンブルクは【スキル】を剥奪された!』


 連続表示される。


「えっ!? なに今の」

「ウッソ、こんなん初めて見るんだけど!?」


 クラインとレシィが目を丸くして画面に齧りつく。


 ピエールとジークフレアもその後ろから覗き込んだ。


「なんだこれは?」

「これで自分の強さが見れるんですよ」

「ほう、これで」

「HPとかMPとかレベルとか、本当は見れるんっすけどね~」


 だが表示されている如く、ジークフレアはどうやらそれらを剥奪されたらしい。


「ちょ、ちょっと見せて」


 皆を押しのけて、パパイヤが石板を覗き込む。


「はわわ……お怒りだ。女神様がお怒りになっておられるっ!」

「そんなことあるの!? アタシ、聞いたことないんだけど!?」

「やっぱ、罰が当たったんだって」

「けどさ。女神様って意外と器小さいんだな」

「うるせぇよお前、四頭立ての馬車で引き摺り回してやろうか!?」


 クラインはジークフレアを引っ張ると、急いで砕けた女神像の前まで連れて来た。


「ほら、ジーク様! 謝りましょ? ね? ちゃんと謝れば、女神様は許してくれますから」

「誰が謝るか!」


 クラインを振りほどく。ピエールに槍を返すと、そのまま出口に向かって歩き出した。


「ちょ、どこ行くんすか!?」

「帰る」

「えっ?」


 扉の前で立ち止まると、首を巡らせてクラインたちを見やった。


「俺にはやはり、神だの仏だのは合わん」

「ジーク様?」

「俺は戦人いくさびと。己の前に立ち塞がる敵は、鬼であろうと斬り倒すまで」


 双眸がギラリと光る。


「それがたとえ神や仏でもな」

「……!!」


 そう言い残すとスタスタと出ていった。


「ちょ、ジーク様ぁ!」

「ジークフレア様。噂以上に恐ろしいお方の様ですね」

「マジにヤバい奴じゃん」


 ジークフレアが消えた出入り口を四人は唖然として見やった。

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