第2話 まだ寝てたい
「なんであんな派手に暴れたのに気が付かないの!!!」
「だーかーらー……その時私寝てたんだってば…。」
「そうじゃなくてさ……。」
若干ながら怒りの混じった会話を繰り広げる二人の少女。そのうちズレたことを言っている方の声は、
「う〜〜ん……」
うるさいと思いながら、細く目を開ける。
「あ、ツジおはよう。」
「ハルカ…?」
なんでハルカがいるの?と質問をしようとするが、それよりもここがどこなのかが気になる。
白い壁に白い天井。異常なまでに無機質で生活感のないその空間に、監禁とも言える形でツジは寝ていた。
その疑念や違和感が身体に出たのだろう。
ツジの意図を汲んだハルカが答える。
「ここはチェックウィード隊本部。それでツジ…あなたは今監視されてる。」
「監視は見りゃわかるけど…。」
ハルカの横にいる少女の方も気になる。
いや…体格や身長こそ子供や中学生のそれだが、顔立ちやその立ち振る舞いからは、いわゆる『大人の余裕』を感じることができた。……言葉遣いは子供のそれだが。
「あ、私?私は『菜鈴ウララ』!!絶賛二十六歳の魔法少女☆よろしく!!」
・・・・
なんとも言えない気まずい雰囲気が満ちる。
言いようの無い馬鹿らしさや本人はうっきうきなのがなんとも………。
というか年齢はツッコんでも良いのだろうか。今の自己紹介では一番そこが気になった。
誰もなんとも言えない雰囲気で、ウララは口を開く。
「なんか……ごめん………二十六歳は…もう少女じゃないよね…。」
語尾に☆がついていそうだと感じるほどに明るく話していたのは何だったんだ…?と思うほど自分で言ったことで傷ついたようだった。
「だからその自己紹介やめた方がいいって。もう四捨五入したら三十…」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」
「そんなんだから彼氏の一人もできないんだよ…。」
「あの…ウララ………さん?」
ハルカが盛大にディスったことでウララとの会話プロレスを始めそうだったので、一旦切ることにした。
「ここ…どこですか?なんで私はこんな所に…。」
やっと質問を声に出して言えた。
さっきハルカは答えてくれたが、いまいちそうじゃない感が強かったのだ。
「?・・・だからここは…」
「あー、ここは監査室。」
また同じ様に答えようとするハルカを遮り、ウララが話し出す。
ウララは壁に近づくと、コンコンと壁を叩いた。
「仮に今、あなたが原子爆弾を出してここで爆発させても、この壁は破れない。」
具体的な説明のつもりでウララは説明するが、ツジからするといまいちピンと来ない。
ただなんとなく、破壊の象徴のような原子爆弾でも壊せないほど強固なのは伝わった。少なくとも彼女が壁を破壊して出れることはない。
「で、本題は『なんでここにいるか』でしょ?」
「え?あ、はい。」
「あなた、自分の身に何が起きたか覚えてる?」
「何って……」
記憶を辿ると、その忌まわしい記憶が蘇ってきた。右腕。最初に思い出したのはそれだ。
右腕を見ると、肘から下は包帯でぐるぐる巻きにされ、止血の処置を施されていた。
「ー!!!」
思い出した。帰ろうと家に入ると、父は惨殺され、自分の腕は崩壊させられたのだ。そして…忌むべき仇の名は…
記憶が蘇えるにつれ、感情の高ぶりを感じる。
「出してください。」
「え?」
爆発的に増えた憎悪を押し殺し、静かに頼む。
「だしてください…。私は…あいつを…『死霧オボロ』を殺さなきゃ…。」
理由はなぜだろう。父を殺されたから?自分がいたぶられたから?ツジなりに一生懸命考える。
・・・答えはどちらでもないのだが。
何故かこの話をしてると笑みが溢れてくる。
ツジも薄々気がついているのだが、憎悪が強すぎて気のせいだともみ消す。
(この子も大概異常ってわけか。)
ウララが内心呆れているとハルカが話しだした。
「そうだね。殺したいよね。」
ずっと立ちっぱなしだったハルカが、ツジに合わせるようにしゃがみこむ。
「なら、私達に協力して。」
「あいつを殺せるなら…何でも。」
ハルカは納得したように頷くと、
「これでウララも納得でしょ?」
と、同意を求めた。
「ゴリ押し過ぎるでしょ…。・・・でも、仲間これであなたは仲間ってことで。」
やり方にこそ若干文句を言ったが、ウララもツジが仲間に加わるのは賛成のようだった。
「よろしくね!『ツジ』さん!」
ウララからの歓迎の言葉を貰ったところで、何をすればいいのかは全くわからなかったが、とりあえず危険な人でないことは理解できた。
「フタネー!とりあえず大丈夫っぽそうだから、解除していいよー。」
ウララが耳元にあるマイクを通して、『フタネ』という人物に何かしらを解除するよう指示する。
扉が開くと思ったが、そもそもこの部屋に扉が無いことに気がついた。
どこが開くんだろう…?壁ごと開くとか?はたまた部屋全体がボックスの様に開くとか?
答えはツジの斜め上を行っていた。
バキ!!
天井にヒビが入る。
割れ目から外の光が部屋内に入ったのを認識した瞬間、
「・・・え?」
ツジは監視室を出ていた。
不思議な話だが、ウララやハルカと、向きや距離などの位置関係がそのまま部屋を出ていた。
変化したところと言えば…
「でもいいんですか?こんな短気そうな奴入れて。」
ベットの前に立つ男がウララに問いかける。
この人がフタネだろうか?
変化はそれだけではない。さっきまでいた部屋は気味悪いほど綺麗だったのが、今は廃墟のように汚くなっている。それこそ…山の下にある工場地域のように。
「話してたら割りといい子そうだよ?」
「そんなんで…。」
親しげに話す二人。
「まぁそれに、あれは『ハート』の特性もあるから。」
「『ハート』…?」
突然出てきた専門用語に驚くツジ。
聞き返すと、ウララがついてこいとジェスチャーをした。
部屋を出て廊下を歩くウララ、ツジ、ハルカ、ハコの3人。
「あの…それで『ハート』って言うのは…?」
「『ハート』っていうのは、言ってみれば『超常能力』の類。これがあればこの世の理に反した行いを実行することができる。そして…」
一つの扉の前で立ち止まると、ウララは扉を勢いよく開けた。
「我が『チェックウィード隊』の、必須能力でもあるの!!!」
そして、自信たっぷりにツジに仲間を紹介…しようとしたのだが…
「そしてこれが!!私達の………」
・・・
「寝てるし!!!」
チェックウィード隊は本来、六人の部隊だ。
ウララの目論みでは、ウララが扉を開けた瞬間、
「わーい!!」
と言って盛り上がる予定だったのに…。
部屋にいる3人は全員寝ている。
「それじゃあ私も…。」
と言ってハルカも、いつのまにか移動していた布団に入ると、小さな寝息をたてて寝始めた。
「嘘…」
ウララが信じられないような目をするが、寝たハルカを起こせるものは世界に何一つとしてない。
「えぇ……」
ウララは残念がっているが、一番引いているのは間違いなくツジだろう。
(この人達と……うまくやってけるの…?)
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