第2話 ありがとう

「ありがとう」


「出会いはいつも突然。それに飛び込めるか飛び込めないかは、その人次第。」



それは偶然だった。

たまたまその日、友達からドタキャンされて。

たまたまその日、雨が降るって知っていたのに、傘を忘れて。

たまたまその日、君の好きなアイテムを僕が持っていて。


つまるところ、偶然が重なったんだ。

そう言っても君は、

「それでも、運命だったんだよ。」

なんて笑ってくれるんだろうか?


君と出会ってからもう半年が過ぎようとしている。


僕は目を細めて、一面に広がる青空を眺めた。

君と僕が出会った日を思い出しながら。



「マジゴメン!急に予定入っちゃってさ。」

僕は携帯を耳元に当てながら、友人のシゲの謝罪=声を聞いていた。

「あんなに前から約束してただろ?!」

そう言う僕の声を、

「仕方ねえじゃんか。彼女がどうしてもって言うんだぜ?」

そう言われて僕は黙ってしまった。

結局は彼女優先かよ。

友達はどうでもいいのかよ?

なんて心の中で毒つく。

「まあ、友達同士なら、いつでも見れるじゃん?じゃあな。ホントにゴメンな。」

そう言ってシゲは、一方的に電話を切った。

僕は耳元でツーツーツーと虚しく鳴る音を聞いていた。


今日は何週間も前から、友達同士で遊びに行く約束をしていた。

一年に一度の花火大会。

毎年毎年、遠方からでもそれを見る為に人が押し寄せてくる程の大会だった。

いつもは家で大人しくしているのだが、今年は折角だから友達同士で見に行こうぜって話をした。

そうしたら、その日を境に、漫画やアニメのように、一人、また一人と一緒に行く約束をしていた友人たちが、恋人を作っていった。

僕は内心、マジで?と驚きを隠せなかった。

「いやーどうせなら、玉砕覚悟で告ったら、OKして貰えて。」

「やっぱ彼女と観たいじゃん?」

「実は1年前から付き合ってたんだよね。」

「夏休みのイベントって大切でしょ?」

「夏は恋の季節だよな!分かってくれるだろ?」

そう言っては、一人また一人と約束を破られていった。

そんな中シゲと二人で、

「俺たちは一緒に見に行こうな!」

「おう!シゲ、破るなよ。」

って言い合った。


それが当日になって、彼からドタキャンされた。

それも花火大会が始まる5分前に。

帰るにも帰れない。

こんなことなら、もっと早めに言っておいてくれたら、こんな場所に来なかったのに。

そう心の中のボヤキを、ネットにばらまいた。

そんな時、コツンと僕の背中に何かが当たった。

「イタッ」

というか細い声が後ろから聞こえた。

振り向くと、頭に手をやっている女の子が一人そこに居た。

「えっと……」

と声をかけると、

「ごめんなさい。急にぶつかっちゃって。」

とその子は頭を抑えながら、顔を上げてそう言った。

いえ、あなたこそ大丈夫ですか?って聞こうとしたら、いきなりその女の子は声を上げて、

「それ!」

と僕が持っていた携帯のストラップを指さした。

指をさされたストラップは、今マニアの間ではジワリと流行っているあるゲームのキャクターだった。

そこまで堂々と持っていても、普通のインテリアみたいにキレイで、恥ずかしくもないものだから、僕も携帯に付けていた。

女の子は、指を指したまま、

「好きなんですか?!」

と目をキラキラさせて僕に聞いてきた。

さっきまでぶつかったおでこを痛がっていた女の子だとは思えない程の気の変わり様だった。

咄嗟に言われて僕は面食らって、

「えっ?!」

と驚いてろくに喋れなかった。

そんな僕のことを無視して、女の子はカバンの中からガサゴソと探し物をして、

「私も好きなんです!≪FLIER WORLDのステラ」」

と彼女が持っていた僕と同じキャラのストラップを見せてくれた。

「すっごい偶然ですね。」

って彼女は満面の笑みで言ってくれた。

その笑顔がとっても可愛くて、僕は少しの間だけ見とれた。

少しだけ沈黙が流れて、

「あ、おでこの痛み引きましたか?」

って聞いたら、彼女はそんなこと忘れていたのか、

「はい。あ、そういえば、おでこぶつけたんだった。背中痛くなかったですか?」

って聞いてくれた。

「ええ、大丈夫です。」

なんてやり取りしていたら、遠くのほうからドーンパラパラパラって花火の音が上がった。

その音に合わせて、おーとかワーとか聞こえてきた。周りの人たちも我先にと花火の方に急いで歩いていた。

「花火始まりましたね。」

と僕が呟くと、

「一緒に見ませんか?先約があったら別ですけれど。」

と彼女が聞いてきてくれた。

同じストラップを持つ者同士でって。

僕はその申し出に、

「はい……」

って少しだけ頬が熱くなるのを感じながら、答えた。


少しだけ二人で花火がよく見える場所まで歩いて行って、並んで見た。

花火が上がる度に、彼女の顔が明るく照らし出された。

それは僕も同じで。

時折、二人しておおーとかキレイですねって彼女がポツリと答えて。


花火が終わったら、次は気まずい沈黙が僕たちを包んだ。

「あーっと、電車の時間とか大丈夫ですか?」

そう聞くと、

「今行っても混んでいそうだから、少しここで待ちます。空くまで。」

と彼女は答えた。

それから、

「えっと、電車の時間は……」

と聞いてくれたから、

「終電に間に合えば大丈夫なんで。それに男だし。」

と笑って答えると、また沈黙が包んだ。

そのうち、パラパラとにわか雨が降ってきた。

そのこともあわさってか、周りは足早に駅に向かう人で溢れていた。だから、

「少しだけ、離れませんか?ここに居たら邪魔になるかもしれないから。」

と提案すると、彼女はコクリと頷いてくれた。


雨宿りが出来て、人の混んでいない場所に移動して歩いていく人の波を眺めていた。

女の子に気の利いた会話とか出来るように練習しておけばよかったと内心反省していたら、

「折角なんで、ストラップ交換しませんか?」

と彼女が声を出した。

彼女の顔を見ながら、驚いた顔をしたら、

「私の周りでこのゲームしている人、見たことなくて。すごく嬉しくて。……その、もし嫌じゃなかったら……」

段々彼女の顔が真っ赤になっていくのが分かった。

女の子にここまで言わせて、僕はそれでも男か?!と恥ずかしくなった。

「はい。交換しましょう!」

と彼女の手を握っていた。

握っていることに気が付いて、自分で焦って、慌てて彼女の手から手を放した。

お互いのストラップを外して渡した。

なんだか照れ臭かった。

「これ、初期のモノですか?」

彼女がストラップを見ながらそう聞いたので、

「うん。知らずに購入してて。すごいね、よく知っているね。」

って言うと、

「すっごく欲しかったんです。うわー、こんな大切なモノ……え?本当に交換しても大丈夫でした?」

と彼女は困惑気味に聞いてきた。

だから、僕はそんな彼女の不安を取り除こうと、

「喜んでくれる人に持って貰った方が、何倍も良いと思うよ。」

と答えた。すると、彼女は軽く俯いて、

「ありがとう。」

と言った。

「折角だからさ、連絡先交換しない?」

とダメ元で聞いてみたら、

「ゼヒ!」

と承諾してくれた。

僕たちは今流行りのアプリで連絡先を交換した。


そんなことをしている内に、雨は上がっていた。


その後、彼女が隣の市の学校に通っていることとか、同じ学年だったとか、色々情報をやり取りした。

その内に僕の方が気になって、夏休みの間に告白をした。

そうしたら、すぐにOKを彼女はくれた。

その時、僕は自室で携帯を放り出して、喜んだ。

その後部屋に入ってきた親にその姿を見られて、かなり恥ずかしい気持ちになったけれど。



あの日から半年が経つ。

今日は、彼女とツリーを見に行く。

プレゼントをコートの中に忍ばせて。

彼女がどんな顔をするのか、少しだけ想像しながら、僕は彼女の元に向かう。

「喜んでくれますように。」

あと、今日会ったら、言おうと決めていることがもう一つある。

あの日声をかけてくれて、『ありがとう』って。



≪END≫

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