たんぽぽの詩

第1話 プロローグ


一人の女の子が草原を歩いていた。

一面には、たんぽぽの綿毛が咲き乱れていた。

風が吹くたびに、たんぽぽの綿毛がサワサワと飛んでいった。


女の子はその内の一つを、茎からちぎった。

そして自分の口の前に持ってきて、一息に吹きかけた。

その途端、彼女の手から、たんぽぽの綿毛が一斉に飛んでいった。

風に乗って、遠くへ飛んでいくモノ、近くに着地するモノ、様々だった。

女の子は、ジッと飛んでいくたんぽぽの綿毛を見ていた。

最後の一つが、自分の目で追えない距離になっても、ずっとその方向を見続けた。


女の子はいつまでも青空の方向を向いていた。




「あの一つ一つが、優しい物語になるの。」


女の子が徐にそう口にした。


「誰かの心を揺さぶるように。誰かの心を癒すように。誰かの心を覗き込むように。誰かの心を反映するかのように。誰かの心を・・・満たすように。」


そうポツリポツリと誰に言うでもなく零して、女の子はクルリと方向を変えた。


被っていた帽子が風に飛ばされた。

女の子はそれを追いかけるわけでもなく、静かに、

「これも運命の一つ。」

と零した。


帽子が飛んで行った方向を眺めながら、足元のたんぽぽをまた一つ摘み取って、息を吹きかけた。

たんぽぽの綿毛が飛んでいく中、女の子は、満足そうにそれを眺めていた。


「誰かに届きますように。」


そう口にした女の子の頬には、涙が一筋流れていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る