3
「駄作」
「死んだ方がマシ」
「やる気あるの?」
「脳が侵されそう」
「句読点」
「台詞と地の文の区別が」
「文体が固すぎる」
「キャラクターの筋が通ってない」
「役割じゃなく人を書いて」
―先輩の呆れ声と罵声と共にめくるめく日々は過ぎていき、あっという間に一学期が終わった。ついでに夏休みも終わった。
ここで、おいおいちょっと待て「高校生×夏休み」と来ればカットする理由もないくらいにイベントに満ち溢れている物じゃないのか?そこをそんな風にたった一文で簡潔に片付けてしまっていいのか?と疑問に思う、あるいは不審に思う人がいるかもしれない。だからここでひとつ断っておこう。夏休み中、文芸部の活動は無いのである。まったく皆無なのである。そして僕は一学期中一人として友達を作ることができなかったのである。つまるところ、語るべきことは何もなかったのである。僕は空虚な三十日間をただただ無為に使い潰し続けた。ただただだらだら。時々先輩の私服姿を妄想したりしながら。もちろん拝謁できることはあり得ないのだけど。
そして迎えた新学期。
僕と先輩の関係性も、僕とクラスメイト達との関係性も、何も変わらない。ただ季節だけはそんなことにかかわらず流転するようで、二学期早々最悪のイベントが大口を開けて待ち構えていた。
・・・・体育祭である。
ぼっちにとってこれほど苦痛な行事がほかにあろうか。クラスの一致団結が大前提の行事に、はみ出し者の居場所などあるわけがない。そもそも一体全体なぜこんなものがこの世に存在するんだ?学生の本分は学業ではなかったのか?そんな意味のない使い古された問いを誰かに投げかけたくなってくる。
運動部主導で行われた競技決め。俺は当然意見などできるわけもなく、出場競技は百メートル走に決まった。あまりものだった。ダブルミーニングで。
放課後の文芸部室。僕と先輩は相も変わらず机を突き合わせて相対するように座っている。
先輩は辞書みたいに分厚い本を、両手で開いて読んでいた。「谷崎潤一郎全集」とある。谷崎潤一郎―名前くらいは聞いたことがあるが、読んだことは無い。だいたいこういう重厚な装丁の本は、背表紙を見るだけで億劫になって手に取るのを諦めてしまうのだ。果たして面白いのだろうか。先輩に聞いてみようかとも思ったが、「人による」とか「あなたはその前に~を読みなさい」とか小言を言われた挙句、しまいには『課題図書』と称して数十冊の本を一週間で読んで来い、などと言われそうなのでやめた。我ながら賢明な判断だ。それにそんなことよりも聞くべきことがある。
「先輩って何組でしたっけ」
「二組・・・・歴木君は?」
「六組です。同じ青組ですね」
「・・・・そうね。ところで歴木君。例の約束、まだ覚えてる?」
「え、・・・・ああ」
『ここ以外で私と極力かかわらないで』か。確か初めての部活動で交わした、というより一方的に取り付けられた約束だったはずだ。すっかり忘れていた。僕は学校での空き時間の大半を机の上に突っ伏して過ごしているため、そんな約束気にする必要もなかったのだ。
「あれ、当然まだ有効だから。集会でも私を探したりなんかしないこと。分かった?」
「分かりましたよ、先輩」
先輩はそんな僕の返事に「そう」と一言そっけなく応えを返して、また例の本を手繰り始めた。そんな先輩の姿は相も変わらず美しかったが、それにしても当てが外れてしまった。明日の組の顔合わせではレクリエーションがあるのだ。実行委員が言うことにはそこで簡単なゲームを行ったりもするらしい。当然顔合わせなのだから、おそらくペアやら三、四人組を作らされたりするのだろう。他学年同士で。そこで唯一の知り合いである先輩に助力を請おうと思ったのだが・・・・。まあ、住む世界が違いすぎるか。約束のあるなしにかかわらず元から無理だっただろう。そんなこと最初から分かっていたはずだ。分かっていたはず、なのだが。
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