第11話 研究室見学
想像以上に校舎はきれいで、オフィスビルのようだ。高層ビルでここに大学があるとはちょっと感じられない。一階にはコンビニやカフェがある。エレベーターを降りると目の前に受付カウンターがあった。受付の人から学生証を提示するように言われる。学生証を出すとスキャンされ目的を聞かれた。口頭で答えると、石川研目の前まで案内してくれた。藤井さんはまだ来てない。
「藤井さんにはLINEしておいた。今3:30だから、車置きに行く時間ありそうだね。」
「そだね。」
「受験の時と推薦組の顔写真合わせで何度か来たけど、すごいビルだよね。」
「きれいだよね。」
「お待たせー、どれぐらい待った?」
「今着いたばかりですよ。」
と淳介くんが答えた。
「失礼します。藤井です。」
中から数名の学生が返事をした。扉を開けると、縦長の部屋で手前に白い大きなテーブル。両壁は本棚になっていて、一番奥の窓際に窓を背にして机に向かってる人がいるのが石川教授だ。室内には学生も10人ぐらいいる。
「いらっしゃい。」
みなで挨拶をした。
「失礼します。お忙しいところありがとうごます。」
「藤井、みんなヨット部にはいるのか?」
「はい、こちらの3名と他20人ぐらい入部届け受理してます。」
「古川さんも入部なんですね。大歓迎ですよ。」
「名前覚えていただいてて光栄です。」
「僕はかわいい子の名前はすぐ覚えられるんです。」
まわりの学生から、
「セクハラですよ先生。」
「お前ら俺が言ったの嘘じゃないだろ?こんなしょっぱいうちの大学にすごいかわいい女子2名入るって。去年言ったの覚えてるよな?みんな俺のことバカにしたけど、どうよ。」
「想像以上でした。」
と大学院生らしき人が答えた。
「藤井、なんか勧誘で乱暴なことあったって聞いたけど知ってるか?」
「怖い思いした本人がここにいますよ。」
「斉藤と古川なのか?」
「斉藤さんです。山岳部の連中が肩に手を回して無理やり連れて行こうとしたんですが、山岸が止めに入ってくれたので大事にはならなかったです。」
「そかそか。斉藤怖いさせてすまんな。山岸でかした。」
「自分は藤井さんが気づいたので行っただけです。」
「古川は大丈夫か?怖い思いしてないか?」
「私は大丈夫です。」
4年ぽい学生が手を挙げた。
「先生、彼女達は建築なんですか?」
「今日来た彼らは皆建築だよ。」
「授業の手伝い断りましたけど、やっぱりやります。」
捕獲数名も手を挙げはじめた。
「あからさまだなお前ら。」
藤井さんが笑いながら話し出した。
「みなさん残念!出遅れました。斉藤は山岸の彼女ですよ。古川は彼氏います。変なちょっかいはやめてくださいね。ヨット部を敵にまわしますよ!石川先生そうですよね?」
「付き合ってるのか。よかったな。古川と斉藤のボディーガードはヨット部がしてるのか?」
「そうですね。大宮の勧誘合戦は男の自分でもひどい状態なんで。正直危ないです。」
「その件はわかった。」
また学生が藤井さんに聞いてきた。
「大宮そんなヤバイの?後輩からちょっと聞いたけど、これだけかわいかったら免疫ないうちの学生達は暴走しそうだね。」
「マジでやばいよ。彼女達二人は一人で歩いたら何されるかわかんないよ。実際されたし。」
「そんなクズばっかじゃないから、大学嫌いにならないでね。」
「クズがクズって。。。。」
石川研の雰囲気はとても和やかで、教授と学生が和気あいあいとしてた。
「石川先生セミナーハウスを一部屋取っていただくことできますか?五月四日から1泊で。女子部員に森戸を見て欲しいのと他大学の女子部員とも会わせたいので。あと、費用は先生でお願いします。」
「藤井お前は図々しいな。わかったやっておくから。古川斉藤、セミナーハウスはビジネスホテルのようにきれいだから安心していいからな。」
「ありがとうございます。」
みなでお礼を言った。
「まだ研究室まわるのか?」
「あと相田研、藤井研、十和田研、南野研をまわります。」
「終わったら飲みに行くか?」
「先生すいません。このあと斉藤のお父さんが永瀬さんとの食事に自分等も招待してくれまして。」
「ぶしつけですが、石川先生もよろしければお越しいただけませんか?」
「斉藤本気にするぞ。本当にいいのか?」
「父も歓びますのでぜひ!」
「お言葉に甘えて、参加させてもらうね。他に誰か来るのか?」
「相田先生もいらっしゃいます。」
「すごいメンバーだな。永瀬君、相田君、斉藤の父。」
「会場は銀座のzakuroです。19:00からです。後ほど地図もってきます。」
「大丈夫、相田君と行くから。」
「では失礼いたします。」
石川研をあとにした。
「すいません、一本電話してもよろしいでしょうか?」
「お父さんにだよね。しておいでー。先に相田研入ってるね。」
「すいません、すぐ終わらせます。」
ひろが一人離れようとすると、淳介くんも付き添ってくれた。
「ごめんね。なんかだんだん大事になってきて。」
「大丈夫。ひろこそ気疲れしてない?」
「大丈夫。」
慌てて父に連絡をした。石川先生の参加を伝えると大変驚きそして喜んでくれた。
「お待たせ。行こう」
ノックをして相田研の扉を開けた。
「遅くなりました、失礼します。」
「斉藤さんいらっしゃい。今夜はありがとね。」
「いえいえ、お越しいただけるのは大変光栄です。それに石川先生も急きょご参加していただけることになったんです。食事会とても楽しみです。」
「聞いたよ!君たち部屋出たらすぐ電話きたよ。それより、藤井もつれていってくれてありがとう。就職これで決まるといいよな?藤井。」
「偶然だったので、お役にたてるかわかりませんが。」
中にいる学生の一人が相田教授に聞いてきた。
「先生今夜なにかあるんですか?」
「たまたま斉藤さんのお父上の食事会に藤井の就職希望先の代表がくるんだよ。斉藤さんが気を使って藤井を呼んでくれたんだ。」
「まさか、永瀬さんですか?」
「そのまさかだよ。斉藤さんは永瀬さんのお嬢さんみたいな存在で、僕も便乗してお邪魔することになったんだ。」
「藤井ラッキーだな。」
「だろう。斉藤さんには永瀬さんの設計事務所を受験してるって今朝はなしたんだよ。それがこうなったのよ。」
「先生、失礼ですが斉藤さんって何者なんですか?」
「彼女のお祖父様が有名な構造建築の先生だったの。日本の有名な建物のほとんどの構造設計は斉藤さんのお祖父様の事務所だよ。」
「なんでそんな人がうちの大学に入って来てるんですか?」
「それは彼女ご本人に聞いたら?」
「伺ってもいいですか?」
「はい、父にこの大学の建築に行けと言われたからです。」
「先生もしかして十和田先生と渡り合ったのって斉藤さん?」
「そうそう。斉藤さんだよ。」
「なんか想像できますね。」
「アイドルが入って来たって本当ですね。他の研究室にLINEしよう。」
「斉藤さん、十和田先生すごく喜んでたよ。嫌われたんじゃないかって心配してたぐらいよ。だから、このあと十和田研安心していってらっしゃいね。」
「先生、斉藤の前だと別人ですね。」
「藤井うるさいぞ。」
「相田先生、本日は研究室見学できるようにご尽力ありがとうございました。」
「たまたま教員会議だったからね。そしたらおいでおいでってみんな言ってくれたの。みんなお祖父様にはお世話になったからね。」
「お時間いただけて光栄です。」
「研究室ってね、どこもわいわいやってるんだよ。うちの建築学科は。だからどこを選んでも大丈夫だから。」
「ありがとうございます。」
「先生申し訳ないですが、アイドル待ってる研究室があと3つあるので行きますね。」
「藤井はマネージャーか。」
みなにお礼をして相田研をでた。つぎは隣の藤井研。
「失礼します。」
「ひろこちゃんいらっしゃい。僕のこと覚えてるかな?」
「あ、覚えてます。うちのバーベキューの時ですよね。」
藤井教授は背が高く、白髪の熊さんのような人。髪は短く、洒落たスーツとネクタイをしている。さすが意匠の先生だと思った。
「覚えてたかー、嬉しいなー。大きくなったね。それにすごく綺麗だよ。」
「先生あまり言うとセクハラですよ。」
「藤井だまってろ。」
「相田さんと石川さん。十和田さんまでかわいいって連呼してたから、お会いできるの楽しみにしてました。」
女子大学院生が笑いながら先生に話しかけた。
「先生、孫との再会みたいですよ。」
「その心境だよ。嬉しいよ。うちの大学に来てくれて。」
「斉藤さん暇な時は是非藤井研に来てくださいね。勉強でわからないことあったら私教えますから。斉藤さんいれば先生いい子になるから。」
藤井さんもすかさず、
「いつもとなりから怒鳴り声聞こえてきますよね?」
「お前達余計なこというな。斉藤さん古川さん相沢さん、わからないことあればいつでも聞きにきてね。あの女性は佐々木さんで大学院一年、とても優秀だから。あと女性にしか相談できないこととかもあるだろうし。佐々木よろしくたのむな!」
「お任せ!先生のお孫ちゃんのひろこちゃんのことはまかされました!順ちゃんは私の妹分に決定しました。相沢君は藤井にでも聞いてね。」
「お心遣いありがとうございます。連絡先教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「連絡先は藤井から聞け!それよりみんなで写真撮ろうよ。十和田先生がさっきからまだかまだかって電話よこすからさ。はやく解放しないといけないから。」
「藤井お前は部外者だから入らないでカメラ係な。」
「先生、ちょうどおれのヨット部の後輩いるんでそいつに撮らせます。」
「お前いらない。」
数枚写真をとってから後にした。次は南野研だ。
「遅くなりました、失礼します藤井です。」
「おそいぞー。」
「すいません。」
「こんにちはみなさん。」
「本日はありがとうございます。」
「古川さんと斉藤さんだね?あとは相沢君であってるかな?よくきたね。」
「先生自分の名前も覚えてくださったんですか?」
「当然だよ。教師なんだから。」
「古川さんと斉藤さんは何度かあってるね。推薦組だったよね。」
「そうです。」
「僕ね古川さんが面接の時に囲碁部って言ったのが印象的で、面白いなって思ったんだよね。しかも囲碁部だけど囲碁よくわからないって言うから。」
「先生よく覚えていらっしゃいますね。嬉しいです。」
「古川さんと斉藤さんは面接の最後だったから30分ぐらいやったよね。」
「先生そんなに長かったんですか?」
後ろから学生が話しかけた。
「もしかしたらいち一時間ぐらいだったかも。でもゆっくり話を聞いたんだよ。古川さんはバイトがドーナッツ屋さんだったよね。」
「先生そんなに覚えててくださるとは。感激です。」
「斉藤さんはお祖父様の斉藤先生の話になって、三宅さんにキレてたのが印象に残ってる。みんな何て言ったか聞きたくない?」
「知りたいです。」
「大変失礼なのはわかってますが、一言発言してもよろしいでしょうか?本日は私自身の面接であって祖父の為の面接ではありません。祖父の話はやめていただけませんか。って三宅さんに言ったのよ。この子はすごいって思っちゃった。見かけはすごく大人しそうなのに。三宅さんにキレてる時の口調が斉藤先生が怒ったときにそっくりだったよ。」
「先生やめてください。あの面接のことは親からものすごく怒られたんです。生意気だって。すいませんでした。」
「あなたは何も悪くないですよ。悪いのは三宅さんです。凛とした態度で自分の意見を言えるのは素晴らしいことです。これからも変わらないで下さいね。」
「どうもありがとうございます。涙がでてきました、嬉しくて。」
「あらあら、どうしよう。」
「外見と祖父のことばかりで私自身を誰も見てくれなくて。でも先生ありがとうございます。わたし自身を認めて下さって本当にうれしいです。」
「嬉し泣きなんですね。また辛いことあったら遠慮なくいらっしゃいね。目を腫らせて行かせたら建築学科のボスの子泣き爺にどやされそうだ。笑って行ってね。そろそろ子泣き爺のとこ行ってあげて。」
「先生ありがとうございました。」
十和田研は一階なのでエレベーターにのった。
「南野先生、あんないい人だと思わなかったよ。」
藤井さんがぽつりと言った。
「素敵ですよね。私、本当に嬉しかったです。」
「よかったな。でも建築学科のラスボスがまだ残ってるからね。」
「はい。」
「失礼します。遅くなりました藤井です。」
「先生お待ちかねです。どうぞ入ってください。」
院生が向かえてくれた。この研究室はどこよりも広く、実験の大きな機械が数台、水槽など実験室そのものだった。手前に三部屋、一番奥に事務所があった。
「いらっしゃい、よくきたね。十和田です。」
「本日はありがとうございます。」
「全然気にしないでね。それより斉藤さんへの謝罪を先にさせてもらうね。」
「とんでもないです。」
「オリエンテーリングの時は失礼なことをして申し訳なかった。あなたの気持ちを考えてなかったよ。みんなの前で恥ずかしい思いさせてすまなかった。」
「こちらこそ、生意気な態度で申し訳ございませんでした。」
「面接の時は三宅さんが君に怒られ、今度は僕だね。三宅さんに何やってるんですかっておこられちゃったんだ僕。石川さんにも怒られたんだよ。」
「先生やめてください。事実私は他の学生より建築への情熱はないですし。私の姿勢についてご指摘いただいたと理解してます。こちらこそ大変申し訳ありませんでした。」
「相田さんからご家庭の事情を後で聞いてね、君は建築好きじゃないけど相当な覚悟でうちに来たんだって。それ聞いたら切なくなってね。」
「もう大丈夫ですし、先生はまちがってません。」
「藤井君から連絡うけてね、材料工学に興味がある話を聞いた時、僕うれしかったよ。ありがとう。」
「古川さん相沢君、土曜日はすまなかったです。相沢君はそのあと気を使って場を盛り上げようとしてくれてありがとう。」
「先生、とんでもないです。」
「3人ともヨットやるんだってね。授業の出席日数の相談とか乗るから遠慮なく言いにいらっしゃいね。今日あった先生は勉強だけじゃなくて部活も応援してるから、授業のことはすぐ相談者すること。後ろに隠れてる山岸君、君も一度相談にきなさいね。」
「は、はい。」
「ごめんね、そろそろ二部の授業始まるから失礼するね。ゆっくり見ていってね。」
「お忙しいところありがとうございました。」
十和田先生は手を振りながら研究室を出ていった。
もう17:00。はじめての場所で疲れたが、とても楽しい時間だった。食事会の会場を確認し、一回解散することになった。相沢君と順ちゃんはこのまま一階にあるカフェでお茶をするとのこと。藤井さんと淳介くんは車を置きに一度帰宅後することになった。私は淳介くんと車にもどった。
「お疲れさま、お付き合いありがとうございます。」
「今日来てよかったな。」
「本当に素敵な時間だった。」
「そだね。」
「藤井さんに感謝だ。」
「藤井さんすごいなって思った。ちょっと悔しかった。」
「なんで?」
「今朝話した時、ひろが必死にもがいてるとこを見るとなんとかしてあげたくなるって藤井さん言ってたんだ。南野先生の話を聞いた後のひろが泣いたでしょう、藤井さんはこの気持ちに気付いていたんだって。俺、そこまで悩んでるって気付いてやれなかったもん。」
「今わかってくれてるから、ありがと。」
「ホテルで藤井さんに確認したんだ。ひろのこと本気かって。」
「そんなに気にしなくてもいいのに。」
「俺はすごく気になるんだよ。藤井さんには負けそうで。藤井さん今日のホテルも多分ひろのためだよ。今までの藤井さんは女にチャラくて、合宿先に誘ったりなんかしなかったんだよ。セミナーハウスの件もひろに見せたかったんだと思う。」
「いじけないで。卑下しないで。」
「ごめん、いつも泣き言ばっかで。ひろのことどんどん好きなると不安もどんどん大きくなって、どうしたらいいかわかんなくなるんだよ。」
「もっと私を信じてよ。」
「わかってるけど、ごめん。」
ひろはそっと頬をなでた。
「ありがとう。ちょっと撫でてくれたら、落ち着いたかも。」
「大丈夫!」
「好きって言って。お願い。」
「好きだよ。淳介くんが好き。泣きそうな顔とか、いじめっ子みたいな笑顔とか。」
「顔かよ!」
「あ、元気になったね。」
「藤井さんは素敵だけど、淳介くんじゃないから私は先輩にしか見えない。だから気にしないで。」
「ありがとう。もう大丈夫。」
「いじけ虫ーーーー。」
「うるさい!」
「明日何しようか?」
「さっき決めたじゃん。忘れた?」
「忘れちゃった。」
「LINEに送り続けてやる。」
「怖い。会えなくなるから、なんか一緒持っていってもらえる物プレゼントしたいんだけど何か欲しいものない?」
「別にいいよ。」
「サングラスとかは?」
「いらないよ。」
「私があげたいの。」
「欲しいものあるけど、本当に言ってもいいの?」
「うん、なんでもいいよ。」
「ひろ」
「それ反則。信じられない。」
「怒った?」
「恥ずかしいの。考えておきます。」
「真剣に考えてください。」
「履修登録って明日までだよね?」
「土曜だよ。」
「そうだった?」
「そだよ。」
「明日学校行かなくていいかな?」
「なんでかたくなに行くって言うのか疑問だったんだ。勘違いしてたんだ。どじっ子。」
「なんかわくわくしてきた。」
「イチャイチャできるから?」
「またスイッチ入ったでしょう?」
「いつも入ってるから仕方ない。」
「ふーん。」
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