第10話 ちょっと大人なランチ

 T国ホテルに向かってる時に父から電話が入った。

「ごめん、父からなの出ていいかな?」

「いいよ、早く出てあげて。」

『パパどうしたの?』

『それっていつなの?』

『私以外にあと四人つれていってもいい?』

『わかった、確認したら連絡するね。』

『今から本キャンパスの研究室見学にいくの。その前にT国でお昼食べるの。』

『横沢さんにいえばいいのね。ありがとー。』


父から夕飯のお誘いの電話だった。私のバイト先のおじさんこと永瀬所長と食事するのでお誘いだった。

「すいません、淳介くん夕飯一緒にどうですか?父とバイト先の永瀬所長も一緒ですが?みんなも誘いますがよかったらいかがですか?すき焼きだって言ってました。」

「聞いててそんな気がしたよ。いいよ、それよりお邪魔して大丈夫なの?」

「全然大丈夫ですよですよ。藤井さんも就職の面接前におじさんと会えるし。好都合です。」

「もうそれってさ、受かったようなもんだよね。その所長さんはひろのこと溺愛してるんでしょう?」

「娘みたいに可愛がってくれます。でも受かるかどうかは関係ないですよ。」

「あとT国は好きなだけ食べてこいって、父が言ってました。」

「どういうこと?」

「支払いは父がするって。多分もう連絡いってるはずです。」

「多分藤井さんが払うつもりでいるよ。」

「そうなんですか、悪いことしたかも。」

「藤井さん超有名企業の御曹司だよ。内緒だから黙っておいてね。」

「そうなんですね。なんかヨット部すごいですね。」

「お前にいわれたくないわ。」


 ホテルの駐車場に停めて。最上階のラウンジへ向かった。すでに席は準備されていた。

「どういうこと?」

順ちゃんが不思議そうに言った。T国ホテルの横沢さんに呼ばれて私は席をはずした。横沢さんから席は準備したが、支払いは藤井さんがすることになったと聞いた。知らない間にそう言うことになってた。

「すいません戻りました。」

「ひろちゃん席ありがとう。」

「余計なことをしてすいません。たまたま父から電話があったので。話をしたら過保護なので段取りしちゃったみたいです。すいません。。。」

「全然大丈夫だよー。」

「ひろ、わかるように話して。」

「順ちゃんへの説明は藤井さんお願いしてもいいですか?」

「ほいほい、席はひろちゃんのお父さんが取っておいてくれたの。お父さんは食事もつけておいてくれって言ってたんだけど、食事は俺がご馳走するから安心して好きなだけ食べてね。入部祝だから。」

「なんか上流階級のやりとりだわ。すごいわ。藤井さん、ひろありがとう。」

「体育会は基本上級生が全部支払うのが当たり前だから。はやくなれてね。」

「おことばに甘えて御馳走になります!」

結局、全員ビュッフェにすることにした。


 皆それぞれに皿に取って、席にもどってきた。相沢君のバイトの話になった。順ちゃんが、

「相沢君はここでバイトしてるんでしょう?」

「そうだよ、スタッフが知ってる人ばかりで緊張するよ。」

「順ちゃん良さそうじゃない。T国なら客層も良さそうだし。」

「バイトできたら、そのうちひろの家族とも会えそうだね。よく来るんでしょう?」

「よくじゃないけど、銀座来るときは戸々に車止めるから。買い物の時たまにだよ。一人じゃ絶対近寄らない。」

「でもひろのお父さんは会ってみたいかも。」

「思い出した!あのよかったらなんですが。。。。」

「なになに?」

藤井さんがサンドイッチを頬張りながら聞いてきた。

「先ほど父から電話があって、よかったら今夜一緒にすき焼き食べませんか?父がスポンサーで。お店も銀座です。」

「山ちゃんは行くの?」

「行きますよ。藤井さんは絶対来た方がいいですよ!」

「なんでよ、ひろちゃんのお父さんはちょっと怖いよ。」

「父の友人も来るんですよ。永瀬さんも一緒なんです。」

「ひろ、永瀬さんって誰なの?」

「私の就職先の社長さん。」

相沢君がコーヒーを吹き出した。

「嘘だろー、世界的建築家じゃん。斉藤さん、参加します!」

「私も行きます!」

「藤井さんどうされますか?」

「面接前だけどいいのかな?すごく会ってみたいけど、いいのかな?」

「全然いいですよー。」

「相田教授に今夜のこと話したら行くって言い出すかも。相田教授と同級生なんだよね。」

「父とおじさんは放っておいて美味しいお肉をたくさんたべましょうね。」

「ひろってやっぱお嬢だわ。」

「ひろちゃんわざわざ食事会セットしてくれたんじゃないよね?」

「たまたまですよ。淳介くんも聞いていたので証人です。」

「山ちゃん大人しいね。お父さんに会うの緊張してる?」

藤井さんがニヤニヤしながら聞いてきた。

「しない方がおかしいでしょう。」

「山ちゃん、俺もめちゃくちゃ緊張してきた。」

「でも、俺一人で挨拶じゃなくて多少気が楽です。」

「すいません、父に連絡してきます。」


 父に連絡をするためにエレベーターホールまでやってきた。

『パパ今大丈夫?結局みんな来てくれるって。ヨット部の四年の先輩がおじちゃまの会社受けてるんだって。喜んでたよ。だから、全員でこっちは五人だから。』

『五人ねわかった。ひろたんは相田先生知ってる?』

『知ってるよ、土曜日大学で慰めてくれたのが相田教授だよ。なんで?』

『永瀬がさ、お前がその大学入ったからよろしくって電話したらしいんだよ。そしたら今日パパと飲むっていったら先生も来るって言い出して、そういうことになったから。開始は19:00だから。』

『はーい。』

『明日の大学の授業は専門じゃないよな?』

『一般教養だから大丈夫。じゃーあとでね。』


 ひろが席をたってから、順ちゃんと相沢君はラウンジのスタッフのところへ行っていた。

「藤井さん聞いていいですか?」

「なになに?」

「朝言っていたことって本気なんですか?」

「山ちゃんには悪いけど本気だから。」

「じゃーアプローチするってことですか?」

「今は見守るよ。でも隙が出来たら容赦なく行くから覚悟しておいてね。でもひろちゃんの気持ち最優先だから無茶は絶対しないけどね。」

「じゃーなんで俺とくっつけるの手伝ってくれたんですか?」

「その時は好きじゃなかったから。気になったぐらいだったから。でも月曜から話をよくするようになって、好きになったかな。山ちゃん、狙ってる奴がいるの忘れないでね。」

「藤井さんが今週ずっと大宮いるのおかしいと思ったんですよ。」

「ばれたかーー。」

「藤井さんが相手とか最悪です。勝てる気がしません。」

「でもひろちゃんはお前のこと選んだんだからさ、ちょっかいは出さないしゆっくり待つよ。」

「その大人の余裕みたいのムカつきます。ちなみにひろを待ってるのは藤井さんだけじゃないんですから。」

「まだ誰かいるの?」

「あと二人いますよ。一人は他大学ヨット部。」

「まさにアイドルだな。」

「ひろが戻ってきました。」

「お待たせしました、すいません。」

「お父さん大丈夫だった?」

「藤井さんごめんなさい。相田教授も来ることになったらしいです。」

「え????なんでまた。」

「永瀬のおじちゃまが私のことおねがいするために電話したらしいんです。過保護ですいません。その流れで。。。」

「そんな予感はしてたから大丈夫。」


 順ちゃんと相沢君がもどってきた。バイトの面接を受けれることになったらしく順ちゃんはすごく嬉しそうだった。

「新入生全員って訳には行かないけど、インカレ最終日葉山にこない?俺もその日で引退だし。夜は打ち上げなんだよ。全ヨット部一斉に打ち上げだから楽しいよ。」

「藤井さん相沢はいいですけど女子が泊まるとこどうするんですか?」

「石川先生か相田先生にセミナーハウス取ってもらえばいいでしょう。女子はそこで。」

「いつなんですか?」

「五月四日が最終日。閉会式とか見れるよ。石川先生とかOBも来るよ。」

「バイト入ってなかったら私は行ってみたいです。ひろは?」

「行ってみたいけど、父次第です。」

「じゃー、俺が頼んでみるよ。」

「他の女子は誘ったらだめですか?」

「他の子もいいけど、部屋取れてからでもいい?」

「了解です。男子は何人ぐらい大丈夫ですか?」

「相沢はどうする?来るなら10人ぐらいなら大丈夫だよ。」

「行きます!」

「そろそろ研究室行こう。みんなおなかいっぱいになった?ひろちゃんはチョコケーキしか食べてないけど大丈夫?」

「ケーキ3つ食べたので幸せです。ご馳走様です。」

「山ちゃん先行ってて、最初は石川先生のとこ行くから石川研の前集合ね。」


 皆と別れ駐車場へ向かった。淳介くんがさっきから静かだ。

「淳介くんどうしたの?また気にさわることしたかな?」

「違う違う、お父さんに会うから緊張してるだけだよ。」

「ごめんね。驚いたよねいきなりで。うちの父はいつもこんな調子なの。」

「でもはやく挨拶できるからよかったよ。」

車に乗り込み、カーナビをセットした。そんなに渋滞はしてなそうだ。大学まで30分。

「今日は付き合わせてごめんね。」

「全然いいよ。一緒にいれるし気にしないで。」

「淳介くんもやりたいことあるのに大丈夫?」

「やりたいことはあるよ!」

「なになに?」

「イチャイチャしたい。」

「それは明日ね!」

「え?うそ?」

「明日は大学に履修届け出したらのんびりしようか?」

「いいの?」

「何がいいのかが気になるけど、いいよ。もうすぐ会えなくなるし。」

「ひろを充電させてもらう。」

「なにそれ。」

「明日一緒に大学行こう。迎えいくよ。」

「何馬鹿なこと言ってるの。どっか拾いやすい駅でひろってよ。家まできたら朝何時に出ることに。」

「別にいいよ。」

「だめ。」

「頑固だな。じゃーどうしようかな。」

「電車じゃだめなの?」

「だめなの。車ならゆっくり話せるし。俺、通学はいつも車だから。待ち合わせ面倒だから朝6時に行くことに決定。お父さんにも話すから。もう反論は受け付けません。」

「強引だ。」

「ええそうです!」

「淳介くんは研究室どこにするか決めてる?」

「まだかなー。」

「ひろは何専攻するの?」

「はっきり決めてないけど、建築史か材料工学部かな。」

「構造じゃないんだね。」

「専攻は好きに選んでいいって言われてるの。」

「淳介くんは何専攻してるの?」

「一応意匠系と構造系かな。でも構造は苦手なんだよ。一年の後期の構造落としてる。」

「後期の構造は授業一緒に受けれるね。」

「前期も必修落としてるからちょくちょく一緒になると思うよ。」

「そんなに落としてるの?」

「このままだと、間違いなく留年かな。」

「なんか焦って見えないんだけど、いいの?」

「3月までは焦ったけどひろ出会ったら留年すれば三・四年一緒だなって。それはいいなって。」

「冗談だよね?」

「結構本気だよ。」

「そこまでしなくても。」

「大学卒業したら離れるし、留年すればあと4年は一緒いられる。」

「淳介くんって独占欲強い人?」

「今までそんなことなかったんだけど、ひろと付き合いはじめてからちょっと自分でも驚いてる。」

「そうなんだー。」

「そうなんだーって涼しそうに言うな!誰のせいだと思ってるんだよ。」

「ごめんね。」

ひろは淳介くんの頬を触った。

「おい!」

「いつでもいいっていったじゃん。だめだった?」

「だめじゃないけど。スイッチ入りそうになっただけ。」

「かわいいね。」

「お前なー。車止めたら覚えておけよ。」


 大学近くのコインパーキングに止めた。父からLINEがきてた。

『お酒飲むから、時間あるなら家に車置いてきたら?』

そう言われればそうだ。藤井さんにも伝えなければ。

「藤井さんの家はどこなの?」

「赤坂だったはず。なんで?」

「父からLINEで、お酒飲むから車置いてきたらって。」

「そう言われればそうだね。俺置いてくるよ。ひろみんなと待っててよ。」

「一緒いく。置いてかないで。」

「面倒だけどいいの?」

「うん、一緒行く。」

「甘えるなんて珍しい。お父さん帰りはどうするの?」

「私と一緒に帰るならタクシーかな。」

「俺一人か。」

「いじけてかわいい。多分みんなタクシーで返すと思うよ。」

「かわいいって言うな!」



 






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