第7話 明日はドライブ

 昨晩ひろを送ってからスマホの電源を入れるとLINEのメッセージが60件も入ってた。藤井さん・石原・石井・順ちゃん・相沢、そして品田。留守電は品田がほとんど。

(品田ごめんよ。でもお前が寝るのが悪い。)

帰りの車中で折り返し連絡を順番にとっていった。とりあえず最初は先輩の藤井さんに。

「お疲れ様です山岸です。連絡遅くなってすいません。今日は色々ありがとうございました。先ほど送り届けました。」

「お疲れー山ちゃん。電源落ちてるから連れ込んだんだねーってみんなで今話てたのに。送ったのか!まじめだね。」

「誰がいるんですか?」

「お前にLINE送った連中と+α。」

「朝まで遊ぶんですか?」

「遊ぶよー。今から来る?」

「今日は疲れたので遠慮しておきます。それに明日はドライブ行くので。」

「山ちゃんごめんねー。この電話みんなきいてるから。品田は酔いからさめて、発狂してるから月曜でも相手してあげてね。でもよかったな、おめでとう。順にかわってくね。次は石原。」

「はい、ありがとうございます。」

「淳介お前やったのか?」

「なんでお前に言わなきゃいけないんだよ。ぜってーいわん。」

「品田マジ泣きしてるぞ。絡んでどうしようもないわ。」

「ごめん、今度奢るから頼むよ。」

「うちのアイドルのチュー一回で許すぞ。」

「品田にでもチューしておけ。」

「あと話したいのだれー???」

(遠くの方で品田がさけんでる。)

「品田がどうしても話したいって言うから変わるわ。」

(気まずい。)

「お疲れさまです。狼先輩。」

「なんだよ狼先輩って。」

「俺、本気だったんですよ。去年の入試のときからずっと今日あえるの楽しみにしてたんですよ。それなのに寝て起きたらもういないじゃないですか?いつ彼女を見つけたんですか?」

「朝バス降りてくるとこ見た。お前も一緒にいたぞ。」

「俺、バス停でずっと待ってたんですよ。彼女来るの。それでいつ声かけたんですか?」

「学食の食器さげるとこで声かけた。一人でいたし。」

「あの時かーー。一人で行っちゃってすぐ追いかけたつもりだったのに。見失って。」

「ごめん、売店つれていった。」

「なんだよー、なんで先輩なんですか?女に困ってないでしょう?」

「ごめん、本当にすまん。」

「先輩は本気なんですか?」

「生まれてはじめて本気になった。だから絶対譲らないし。絶対渡さないから。」

(藤井さんと石原の声がする。大笑いしてる。)

「山ちゃん本気なのねー。お兄ちゃん嬉しい。祝!童貞卒業!」

「いい加減なこと言わないでください。」

「石原さっきから、お前の前の女に写真つけてLINE送ってるぞ。」

「石原お前殺すぞ!余計なことするなよ。ひろにばれたら許さねーからな。」

「どのお口がひろとか言ってるのー?やまちゃんがこんなむきになることあるのねー。」

「順ちゃんと高見さんはそこにいます?」

「間違いなくみんないるし、聞いてるよ!」

「順ちゃん・高見さんありがとね。」

(遠くの方からいえいえおめでとうーーーって。)

「皆さん今日は本当にありがとうございました。あと品田、ひろの方にLINE送るな。文句は俺に言え。それでは切ります。」


 LINEの受信ひっきりなしで、ちょっと怖くなってきた。

(ひろから電話まだかなー。)

(まさかこんなことになるなんて思わなかったな。)

  

 待ちに待った電話が鳴った。

「もしもし↗↗↗↗↗。」

「俺でわるいな。お前キャッチあるよな?」

「ついてるよ。どうしたの?」

「本当によかったな。ただそれだけだよ。藤井さんとも話してたんだけどさ、淳介があんな血相かえて手を出すなとかひろちゃんのとこ行くとかさ。信じられないよ。」

「俺も自分のこと信じられないよ。」

「でも声かけてよかったな。飲んでるせいか泣きそうになってきた。」

「気持ち悪いから、泣くな!一目惚れってあるんだな。」

「確かに雑誌に出ててもいいぐらいだよな。よくまーうちの大学に来たよね。あと幸せな所悪いんだけど、部活内で交際中とかどうなんだってOBの一部言ってるからさ。ちゃんと考えろよ。もてないジジイどものやっかみだろうけど。」

「ありがとう、そこまで考えつかなかった。ちょっと考えるわ。」

「彼女からはお前の気持ちの返事をもらえたのか?お前打たれ弱いからさ、余計なお世話なのはわかってるけどさ。」

「うん、もらえた。」

「何て言われたの?」

「言葉じゃなくて、頬さわってくれてひろからキスしてくれた。これで十分だよな。」

「淳介ごめん。言ってないことがある。」

「何?」

「スピーカーです。ずっと。テヘ。品田ーー、チューしたってーーー。」

「石原マジで殺す。ごめん、キャッチ。切るな。」

(石原信じらんないわ。はめられた。)

(電話まだかなー。)


 車を止め家にはいった。いつもならとっくに寝ている両親がまだ起きていた。ライは相変わらず興奮してる。

「はやかったじゃない。」

「ああ。」

「彼女門限あるの?」

「うん。」

「すごい美人よね。あなたの大学じゃ大騒ぎなんじゃない?」

「うん。」

「気がきじゃないでしょう。」

「うん。」

「彼女もヨット部はいるの?」

「まだ聞いてない。」

「なんか品のいい子だったけど、どっかのお嬢様なの?」

「うん。」

「どこのお家の子なの?」

「よく知らないけど、おじいちゃんが有名な構造建築の先生なんだって。なんか今日のパーティーでも顧問の石川理事長も子供の頃から知ってるとか。すごく可愛がられてた。」

「淳、彼女のこと大事にしなきゃだめよ。今までみたいなことしたら母さん許さないからね。」

「わかってるし。」

「もう明日は何も話さないからな。部屋行く。」

「おやすみ。」

「あい。」

「お父さん、淳は大丈夫なのしら?」

「いつもなにも言わない子があんなに話すし、門限までに送り返すとかあり得ないし。顔つきも変わったしな。母さん恐らく本気なんだろうねぇ。」


 部屋に戻ってきてやっと一人になった。それにしても今日は色々ありすぎた。

(少しレコード聞くか。)

(何度考えてもバス降りたときの姿は衝撃だったな。)

(付属の後輩から、すごいのがいるって聞いてたけど、本当に凄かった。)

(化粧もほとんどしてないし、服はボーイッシュだし。)

(やばいな。まじでアイドルだわ。)

(最後よく我慢できたよな。)

(だめだ、気になって寝れなくなる。)


 うとうとし始めた頃ようやく電話が鳴った。家電からだった。

「今晩は斎藤です。遅くなってすいません。」

「大丈夫だよー。眠くない?」

「変に覚醒してて、ドキドキしてます。」

「やっと、付き合う実感わいてきたの?」

「そうなんです。いろいろ恥ずかしくなって。」

「それは俺も同じ。でも嬉しいなそう言ってくれると。」

「帰ったとき両親がまだ起きていたので、先輩とお付き合いすることになったとだけ話をしました。父がよかったなって。びっくりしました。喜んでました。」

「そうなんだ、親に話すの緊張するでしょ。」

「こんなに緊張するとは思いませんでした。」

「うちの両親も起きてまってたんだよ。なんかいろいろ聞いてきたよ。起きてるとは思わなかったよ。」

「親のことはもう大丈夫だとおもいます。」

「うちもかな。」

「石原とか品田から電話あった?」

「順ちゃんだけかけました。品田君の声が後ろで響いていて、大暴れしてるって。悪いことしちゃいました。」

「品田はもうひろにはかけてこないよ。話したから大丈夫だと思うよ。」

「ありがとうございます。」

「もしかして品田のこと好きなの?」

「え?全然ないです。」

「口酸っぱくなるほど言うけど、今日のパーティーの1年男子はほぼひろめあてだよ。ひろがうちのブース来るまではパーティーの参加者0名だったし。」

「まさか」

「まさかじゃないよ。お前と順ちゃん座ってから一時間もしないで30人の定員埋まったんだぞ。こっちもびっくりしたけど、だから他の部も必死になってお前のこと誘おうとしたんだよ。ひろは自分が思っている以上に人の目を引くんだよ。」

「気をつけます。」

「ひろが感じた以上にさ、山岳部の件は俺が怖かったんだ。普段女に疎い連中がさ、歯止め聞かなくなってるのんだもん。力ずくなんてありえないじゃん。あのまま部室とか連れ込まれてたらって考えると耐えられないよ。殴る寸前だったんだよ。」

「でもね助けに来てくれて本当に嬉しかったんだよ。」

「じゃーよかったかな。」

「トイレの前で泣き終わるのも待っててくれてありがとう。」

「うん。もういいよ。忘れよう。」

「電話のほうが気持ち伝えられるかも。」

「そお?俺はやっぱ会いたいな。」

「会うとね触りたくなるんだ。でもそうすると我慢させちゃうし。」

「今は素直だね。」

「うん。」

「そういえば明日はどこ行くの?」

「どこ行きたい?」

「今ヨットやってるとこ行ってみたい。うちの大学のヨット部の人はいないんでしょう?」

「明日は休みだから誰もいないはず。葉山行こうか?」

「葉山なら知ってるお店あるから、そこでパン買う!」

「どこかだいたいわかった。」


「話さないといけないことまだあるんだけど、大丈夫?」

「なーに?」

「うちの部活のことだけど、まだ1年には話してないけど。年間で180日合宿があるの。3月~GW明けと夏休み~10月下旬まで。」

「大学の授業は?」

「もちろん休むんだ。合宿中は夜の二時間位しか自由時間ないからなかなか会えなくなるけどそれでも待っててくれる?」

「会いに行ったら会えるの?」

「会えるけど、ミーティング長引いたりしたら急に予定通りにならないこともあるんだ。合宿中はヨットが最優先なの。」

「今もシーズン中なの?」

「そうだよ。再来週の月曜からGW終わるまでは帰ってこれない。」

「来週末まではお休み?」

「来週は一緒いれるよ。」

「寂しいね。」

「今なんて言った?もう一回言って。」

「聞こえてるのに。ずるい。」

「脳内に記憶してるから大丈夫です。」

「でも、淳介くん3年になったら都内の本キャンパスだよね。また離れるんだね。なかなか一緒にいるのって大変だね。」

「ひろは運動好きっていってたけど、ひろがヨット部入ったら一緒にいれるけど、ヨット部入部は考えられないかなー?コンビ組んだら練習でも同じ舟乗れるし。」

「自信ないな。」

「だったら明日試しに二人で乗ってみる?内緒で」

「嘘でしょ?」

「一時間でも乗ってみようよ。明日の天気いいし。」

「なんか詐欺にあってる気分。」

「淳介くんは私に入って欲しいの?」

「うん。入ってほしい。部活も授業も全部一緒がいい。」

「ずるい。今さらずるい。」

「入部のことは、まだ時間あるから、じっくり考えて。」

「とても嫌なこときいてもいい?」

「いいよ。」

「部員増やすために私を誘ってる?」

「それ、言われると思っててた。それは絶対ないから。一緒にいたいから、だからヨット部入ってほしいの。マネージャーっていう選択肢もあるけど、マネージャーだと練習のときは一緒にいれないから。」

「なんでそんなに必死なの?」

「合宿で会えないときにひろになんかあったら、耐えられない。でもヨットもやめたくない。ごめん。わがままなのはわかってるけど、真剣に考えてくれないかな。」

「何かあるって、今日みたいなこと?」

「そう。うちの大学地味だからさ、遊び方知らない奴多いんだよね。だから上手く女子と付き合える奴が少ないんだよ。そんな連中のなかにひろ一人だと本当に不安なんだよ。俺さ、男だし男の気持ちは痛いほどわかるんだよ。」

「何度も話してくれるけど、やっぱりいまいち危機感感じないんだよね。ごめん。」

「それがわかってるから、だからしつこく言っちゃうんだよね。ひろはたぶん今日のことは、たまたま運が悪かったって思ってると思うの。」

「たまたまなんかじゃないから。これは断言する。もしひろと付き合ってなくて、彼氏が不在で一人でいたらちょっかい出すもん。ちょっかいじゃなくて奪いに行くけど。」

「そこそこ経験してる俺でもそう思うんだよ。男は理性飛ぶから簡単に。」

「そろそろいい時間だし明日また相談しようか。」

「明日のヨットのときはどんな服装にすればいい?」

「乗ってくれるの?」

「うん。一回経験しないとわからないし。」

「ありがとう。荷物は短パンTシャツとウィンドブレーカーみたいのある?あと中は水着のがいいかも。靴はデッキシューズとか持ってる?」

「わかったー。」

「ヨット乗るんだと江ノ島だけど、それは大丈夫?ヨット終わってから葉山行こうか。」

「わかったー。了解です!」

「それじゃお休み。」

「おやすみなさい。」

 

 電話を切ってから、

(俺、必死すぎ。)

(どうして大学が危ないってわかってくれないんだろう。)

(今日だって、ぎりぎりだったし。)

(ヨット部入ってもな、他の大学のヨット部の奴もいるんだよなー。)

(なんだよー、束縛したくないけど心配でしょうがない。)

(こんなに言ったらいつか愛想尽かしていなくなりそうだな。)

(好きでいるのって辛いな。)


 LINEを一通受信した。

『おやすみなさい。理性は簡単に飛ぶんですね。メモメモ』


(むかつくけど、ずるいだろ。でも好きなんだよなー。)





 




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