第5話 初飲み会

 気づいたら渋谷についていた。車内でもからかわれたり、いじられたりして疲れて寝ていたようだ。

渋谷駅で下ろしてもらい、OBが経営しているというレストランに移動した。居酒屋での飲み会を想像していたが、イタリアンのお店での立食パーティーだった。

「ひろ大丈夫だった?」

古川の順ちゃんが聞いてきた。

「私は大丈夫だけど、順ちゃん大丈夫?」

「楽しかったよー。石井さんの運転で石原さんと品田君一緒だった。ひろさ、藤井さんから山岸さんすすめられたでしょう?」

「気のせいかなって思ってたけどなんで?」

「山岸さんって自分から女の子に話かけないんだって。石原さんは山岸さんと中学から一緒で、今日ひろに話かけて勧誘してきたのすごい驚いてたよ。今までなかったって。」

「部の勧誘なんだから、ノルマとかあったんじゃないの。」

「そういうことじゃなくて、ひろは鈍いなー。自分で気付かない?山岸さんはひろのことを気になってるよ。これは私の勘だけど。石原さんも石井さんもそう感じるっていってたよ。品田君なんかライバルだライバルだって車内で騒いでたよ。」

「私の知らないところで勝手に話が進んでるんですけど。」

「なんで他人事なの?山岸さんカッコイイから今日来た女子はみんな狙ってるよ。それでもいいの?」

「良いも悪いもさ、さっき知り合ったばかりだし。顔は綺麗だなーって思ったけど。山岳部から助けてもらったりしたからなんかお兄ちゃんみたいって感じはしたけど。」

「マジですか!お兄ちゃんですか!ひろすごいわ。こんだけ山岸さんひろに近いのに気付かないなんて。相沢君もいってたけど山岸さんかわいそうだって。」

「え?なんでかわいそうなの?」

「相沢君か藤井さんに聞いてごらん。」

「順ちゃんは私と山岸さんくっつけたいの?」

「そうだよ、だってお似合いだよ。はじめは軽い人かと思ったけど、山岳部に連れていかれそうになったときすごい剣幕でひろのとこ行ったんだよ。あれはただ心配してとかじゃないよ。」

「なんも言われてないし、私には気持ちがわからないし。」

「藤井さんーーー。ひろどうにかしてください。」

「順ちゃんどうしたん?」

「ひろがぜんぜん山岸さんのこと気付かないですよ。あれだけ気づかわれてるのに。」

「山ちゃん奥手だけど、今日の帰り送ってくみたいだし大丈夫だよ。さっきLINE交換して誘うっていってたから。なんかみんなと出会ったばかりだけど、面白くなってきたね。」

「余計なお世話かもしれないんですけど、ひろは危なっかしくて誰か側にいてほしいなっておもったんですよね。色々男子いますけど、山岸さんと雰囲気もにてるし。山岸さん見た目はチャラいけど、中身は真面目だし。」

「山ちゃんのことよく見てるね。あいつ中身はすごくいいよ。ところで順ちゃんは気になる人いた?」

「私は彼いるので。」

「やっぱりそうか。石原悲しむなーーー。」


 パーティーが始まって30分過ぎた頃からOBが到着しはじめた。勧誘のためのパーティーのせいか体育会の乗りは感じられなかった。話題はヨットのこと、大学のこと、学食のおすすめメニューとか。みなさん優しく話してくれて、はじめての大人の人との会話だったが楽しかった。

「斉藤さん石川先生が呼んでるからちょっといいかな?」

藤井さんに呼ばれついていくと恰幅のいい白髪のお爺さんがいた。

「石川先生、彼女が斉藤さんです。斉藤さんのお爺様は有名な先生だとお聞きしましたが先生もご存じですか?」

「はじめまして、斉藤弘子です。」

「はじめまして石川です。入試の面接の時に一度おあいしてますね。」

「そうですね。覚えていてくださいまして光栄です。」

「藤井君、斉藤さんはヨット部入るの?」

「まだお返事いただいておりませんが、来週の試乗会は参加されるそうです。」

「斉藤さん、大学で勉強だけしてもだめだよ。勉強以外で今しかできないことを最優先でやるといいですよ。ヨットじゃなくてもいいからね。」

「ご助言ありがとうございます。」

「石川先生、一言余計ですよ。ヨットじゃなくてもって。」

「ごめんね、藤井君。なんか嬉しいな。前に斉藤さんにあったときはオムツつけてたんだよ。それがこんな綺麗な素敵なお嬢さんになって、うちの大学に来てくれたなんてさ。うちの大学選んでくれてありがとうね。」

「石川先生、斉藤さんと十和田教授の一件しらないんですか?」

「十和田君から聞いてるよ。斉藤さんやるねー、子泣き爺の嫌み切り返したんでしょ。相田君が誉めまくってたよ。十和田君は一本とられたって嬉しそうにしてたよ。」

「斉藤さん、うちの建築学科の教授陣は斉藤先生にお世話になったんだ。十和田君なんて君が入学決まったとき本当に喜んだんだよ。」

「今の君だと、斉藤先生のこととか実家のことを出されるのは嫌かもしれない。建築も興味ないんだよね。でもそれ以外で大学でやりたいこと見つけてよ。勉強なんかいいからさ、はやく見つかるといいね。それがヨットだったら僕は言うことないよー。」

「石川先生ありがとうございます。希望の大学ではなく諦めていましたがここで出来ることやりたいこと見つければいいんだと今気付きました。気持ちが軽くなりました。それでは失礼します。」

藤井さんと一緒に順ちゃんのところにもどった。

「斉藤さん、石川先生があんなに嬉しそうなのはじめてみたよ。子供の頃から知ってたんだね。縁があるね。」

「藤井さん、オヤジくさい。」

「順ちゃんひどいな。」


 立ち疲れてテラスのテーブル席に逃げてきた。順ちゃんはお酒が強い。美味しそうに白ワインを他の女子と一緒に飲んでいる。品田君は早々に自滅して今はソファーで横になってた。

「斉藤さん?LINE見てくれた?」

会場に入ってからはじめて山岸さんに話しかけられた。

「すいません、まだです。今見ます。」

「門限0:00だよね。9:30ぐらいにここでようとおもうけどそれで大丈夫?」

「帰りはタクシー使うので、本当に大丈夫です。」

「石川先生と藤井さんの命令だから、斉藤さんの意見は関係ないから。」

山岸さんはいじめっ子みたいな目をして笑いかけた。

(なんかお兄ちゃんみたい。)


「今日は疲れたでしょう。山岳部に連れていかれそうになったとき本当は怖かったんでしょ?顔青ざめてたし、手震えてたよ。」

「疲れました。みんな私のこといじるし。いじられキャラじゃないんですけどね。」

「お礼がおそくなりました。山岳部で助けてくださり、ありがとうございました。すごく怖くて、手を振りほどけなくて。体を馴れ馴れしく触ってくるし。本当は泣きそうだったんです。」

「山岸さんが来てくれて顔見たらすごく安心したんです。出会ったばかりなのに不思議ですよね。」

「ひどいことになる前でよかったよ。うちの大学は男ばっかりだし。それに斉藤さん綺麗で目立つんだよ。自分じゃ気付いていないだろうけどさ、モデルさんみたいだもん。」

「同じ大学の学生だからって安心しちゃだめだよ。男なんて隙あらばって考えるんだから。」

「そうですね、油断してました。言ってくれてありがとうございます。」

 

 山岸さんがたばこに火をつけた。

「山岸さんはたばこ美味しそうに吸いますね。」

「いきなりなに!もしかしてたばこ苦手?」

「たばこは平気です。父も弟も吸いますから。山岸さんがたばこ吸ってるの似合うなーって勧誘の時思ったんです。カッコイイです。」

石原さんもたばこを吸いに出てきた。

「うちのアイドル発見!!!!!!」

「やめてください石原さん。」

「ひろちゃんなに話してたの?」

「ひろちゃんってなんですか?山岸さんにお礼とたばこ似合いますねってお話したんですよ。」

「ひろちゃんは淳介にアプローチしてるのね。よかったな淳介。」

「石原さ、この子無意識でいってるから。それにひろちゃんってなんだよ。」

「斉藤さんは淳介のこと気になったんでしょ?」

「え?どういうことですか?」

「石原、もういいから。わかったでしょ。あとこの子にもっと慎重になれっていってたのよ、自覚ないから。」

「石原さん教えてください。何がわかってないんでしょうか私は。」

「淳介これは大変だぞ。無意識で煽ってくる。しかも美人。性格もいい。やっぱりうちのアイドルだね。」

「石原、ちゃんと教えてやれよ。」

「斉藤さんごめんね、こういう説明上手な藤井さんつれてくるね。ちょっと待っててね。」

石原さんと入れ違いに順ちゃんがこっちに。

「ひろ飲んでるーーーーー?」

「順ちゃん酔ってる?私一口しかお酒飲めないの。」

「それは飲めないって言うのよ。私は酔ってないから大丈夫だよ。お酒強いんだ。」

「山岸さん顔赤いですよ。酔っちゃいました?」

石原さんが藤井さんをつれてもどってきた。

「順ちゃんそれはひろちゃんが煽ったからだよ。」

藤井さんも赤ワイン片手に。タバコを取り出しながら話始めた。

「順ちゃんにひろちゃんって、石原酔ってるの?煽ってるってなんのこと?面白そうねーー。」

石原さんはニヤニヤしながら。

「ひろちゃんが淳介にたばこ似合いますねと言ったんですよー。で、淳介は照れて赤くなって。言った本人はこういうこと言ったらどう思われるかってわかってないという。」

「まじ?斉藤さんはどうして山ちゃんに言ったの?」

「素敵に見えたから、素敵ですねといっただけですよ。」

「ひろさ、相手をほめるってどう言うことだかわかる?軽くギャグっぽく言えばそんなに気にしなくてもいいけど、微笑みながら言ったらさあなたの事好きですって言ってるようなもんだから。しかも二人きりとかで言ったら告白ってとられても仕方ないんだよ。」

順ちゃんが飽きれ顔でいった。

「そうなんだ、山岸さんすいません。そんなつもりじゃないんです。」

見るに見かねて藤井さんが間にはいった。

「ひろちゃん、いまのごめんなさいもね言われた方は傷つくんだよ。少なくても山ちゃんはひろちゃんに好意を持ってるのよ。なのにひろちゃんはそんなつもりでいったんじゃないって。しっかり謝っちゃうとあなたの事興味はないです。って意味になるんだよ。」

「藤井さんもうやめてください。俺はいいですから。」

「いやいや、この際このアイドルの本心聞いてみたくなったよん。ひろちゃん聞いてもいい?」

「藤井さんなんですか?お答えできる範囲でお答えしますね。」

「強者すぎる。。。。。あのねひろちゃん、今日はじめて山ちゃんとあってどう思った?思ったこと全部言ってみてよ。」

「えーっと、外見はチャラいけど綺麗。話してみたら普通でチャラくない。助けてくれてありがとう。たばこが似合う。お兄ちゃんみたいで親切。こんな感じです。」

「ひろちゃんもうひとつ聞いていい?山ちゃんにも悪いけど、勝手に話すすめてさ。もういいよね?」

「藤井さんの好きなようにしてください。」

テラスの盛り上がりに吸い寄せられるように女子三名と相沢君と鳴川君もよってきた。

「なに盛り上がってるんですか?」

「鳴川君申し訳ないけど、ここからここにいたら傷つくかもしれないけど大丈夫?」

「え、どう言うこと?」

空気を読んだ相沢君が鳴川君に目配せをした。

「あーーー、いいですよ。僕の事は気にしないでください。藤井さん大変ですね。」

「ごめんねー。ではひろちゃん聞きますよ。」

順ちゃんが後から来た女子3人に説明をはじめた。

「みんな今の状況は理解してるね。ひろちゃん以外は理解してるね。」

「ひろちゃんさ、山ちゃんと一緒にいたいと思う?一緒にいたら楽しそうとか思わない?」

「藤井さん直球ですね。びっくりしました。」

「高見さんこれぐらいはっきり言わないとひろちゃん理解できないんだよ。」

「山岸さんは自分で斉藤さんに言ったんですか?」

「やんわり攻めたけど撃沈したの。しかも当の本人が思わせ振りなこと無意識に言ってるのを言われた本人の山ちゃんが毎回確かめて教えてるのが気の毒になって今にいたるのよ。」

「なるほどね。斉藤さんは彼はいないの?」

「今はいませんよ。大学入るまでにわかれました。」

「ひろちゃん付き合ったことあるの?お兄さんに教えてよ。」

「高校二年三年とお付き合いしてました。」

一同目を見合わせてしまう。高見さんがすかさず、

「その彼の事好きだった?」

「よくわからないです。付き合っているうちに好きになってくれればいいからと言われたので、付き合ってみることにしたんです。でも私がなかなか好きにならなかったので、制限時間の高校卒業がきて別れることにしたんです。」

高見さんが笑い始めたらみんなも大笑いしはじめた。

「そっかー。好きではなかったんだその彼は。」

「そうなんです。でもお願いされたからお付き合いはすることにしたんです。」

「そっかそっか。藤井さん、わたしに質問させてもらってもいいですか?山岸さんもいいですか?」

「高見さんお願い。正直僕も限界だった。」

「山岸さんは?」

「もうお好きにどうぞー。」

「了解です。斉藤さん、私もひろってよばせてもらうね。山岸さんはその別れた彼より好き?気に入ってる?」

「気に入ってるかも。助けてもらったとき嬉しかったし、腕触られても嫌じゃなかったよ。」

「あー、無意識ですごいこと言うってこういうことね。本当笑っちゃうよー。」

「ひろ最後の質問ね。山岸さんが今からこっそり手を繋いできたら怖い?嫌だ?」

「別に嫌じゃないよ。怖いって感じないけど、私は可笑しいの?」

「可笑しくないよ。触られても嫌じゃないって好きのはじまりかもよ。」

「山岸さんおめでとうございます。本日はひろを責任をもって送り届けてくださいね。おこちゃまなので急に知恵熱でかもしれませんが。」

「高見さんすごい。上手くまとめてくれて。山ちゃんお礼は?」

「高見さんありがとう。でも2度とごめんだわ。」

「ヨット部パーティーなのに、ぜんぜん違うことで盛り上がっちゃいましたね。それよりひろが面白い子でよかったです。お陰で仲良くなれました。でもあんな天然だとはねー。」

順ちゃんが笑いながら高見さんに、

「高見さんはひろが苦手っていってたけど今はどう?」

「高飛車に見えてたのは感情理解できなくて受け流してたんだね。いまならよくわかるよー。見た目はクールなイメージで大人に見えるけど、実際は誰よりも純粋なんだね。なんか守ってあげたくなってきたよん。」

「でしょー、あの外見と中身のギャップが犯罪だよね。そうだ鳴川君残念だったね。」

「僕はいいですよ。一部始終見れてよかったし。今日会ったばかりだし。それより品田の反応が楽しみだよ。」

「鳴川君ごめんね。俺一人でこっそりしようとおももったのに。」

「山岸さんムッツリですか?一人でこっそりって。」

「違うよ!!!!こっそり口説こうっと思ってたってこと。」

「わかってますよ。顔真っ赤ですよ、山岸さん。あ、斉藤さんいないですけど大丈夫ですか?」

「トイレ行ってるよー。」

「さすが彼になるとよく見てますね。」

「ごめん、もうお願いだから勘弁して。俺の心臓壊れそうだからさ、恥ずかしくて。しかも今日は飲めないし。辛すぎるよ。」


 さっきまでテラスにいた連中もなかに戻り、料理をまたつまみだした。

「高見さんこのあとどうする?同じ方向だし一緒に帰ろうよ。」

「順ちゃん二次会あったら行く?」

「飲みって言うよりカラオケかボーリングいきたいな。高見さんどう?」

「今日話して仲良くなった人誘ってみようか。」


 



 






 

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