第7話 「ていうかうちの社長だし」

「後は名前を入力すればアカウント登録は終わりだね」

「ありがとうございます。何から何まで教えてもらって」


 俺はダンジョン配信をするためにスマホで【D-tale】のアカウント登録を行っていた。

 ダンジョン配信やダンジョンの動画を投稿することに特化しており、多くのダンジョン配信者がこのサイトで人気になっていったらしい。

 月間のアクティブユーザー数は3億人以上、実際にダンジョン配信を行っている者は500万人にも及ぶ。それほど多くの人に注目されながら規模は拡大傾向にある世界で人気のダンジョン配信サイトらしい。


「アカウント登録終わった?」

「はい」

「なら次はスキル連携だね。さっき取った【ダンジョン配信】スキルとアカウントを連携させないと」


 その言葉を聞いて俺は手が止まる。

 彼女から聞いたことだが本来スキルはなかなか取得できないものらしい。本来は強いモンスターと戦ったら手に入るスキルポイントを払う必要があるらしいが、【ダンジョン配信】スキルで必要なスキルポイントは0ポイント。ゆえにダンジョンに入ったばかりの人でも取得できるらしい。


「ダンジョンのスキルが一企業と連携できるってやっぱり不自然じゃないですか?なんとうか都合が良すぎます」


 人為的なものを感じる。

 まるでダンジョンがダンジョン配信してくださいって言っているようなものだ。

 その結果、D-taleは莫大な利益を生んでいるし。


「あはは。そうだよね。都合が良すぎるよね。

 勿論、理由があって【ダンジョン配信】スキルは人が作ったものだからだよ」

「人が?どういうことですか」

「ダンジョン配信者の始祖とも呼べる人。通称[管理人さん]が作ったスキル。それが【ダンジョン配信】スキルってわけ」


 スキルを作ったという発言に俺は衝撃を受ける。


「スキルを作るなんてできるんですか!?」

「普通はできないね。実際、彼以降スキルを作った人なんていないし。

 でも管理人さんはね。さっきも言った通りダンジョン配信者の始祖なの。

 そして、初めてダンジョンボスを倒した人物でもある」


「ダンジョンボス?」


「ダンジョンの奥にいる強いモンスターのこと。

 当時はダンジョンが発生して1年くらいだったからダンジョン攻略が進んでいなかった。というのも、ダンジョンは自衛隊しか入れなかったからね。1年たっても攻略できないってどんだけ難易度が高いダンジョンだったのか気になるんだけど、そこは置いといて。

 ともかく1年間だれもダンジョンを攻略していなかった。そんな時にさっき話した[管理人さん]の私有地にダンジョンが発生して、彼は再生回数を稼ごうとダンジョン配信を開始した。でも、配信は大荒れ。当時は彼の頭部に着けたカメラで配信していたんだけど、画質は悪いし、画面は暗いし、ブレブレで何が起こっているか分かりにくいしでコメント欄は荒れに荒れた。

 そんな中、ダンジョンボスが現れて彼は何とか倒すんだけど、コメント欄はずっと荒れたまま。世界で初めてダンジョンボスを倒した特典として、ダンジョンからスキル作成の権利を得た彼は、コメント欄にブチギレてその場のノリで【ダンジョン配信】スキルを作成したってわけ。マジでおもろいよね。私この話めっちゃ好き」


 なるほど。

 【ダンジョン配信】スキルが配信者に都合が良すぎる理由は、ダンジョン配信者が送られてきた文句を全部解決させるために作ったからだったのか。

 それにブチギレてって……


「なんというかとても面白いですけど、もっと強いスキルを作れたかもしれないと思うと考え物ですね」

「いや[管理人さん]は後悔していないと思うよ。ていうかうちの社長だし」

「えっ?!」

「ダンジョン配信サイト【D-tale】とダンジョンインフルエンサー事務所【ギルド】の代表取締役社長がさっき話した[管理人さん]。さっきの話は私が社長から直接聞いた話だよ」

「えーー!!!」


 すごい。成り上がりだ。

 まさにダンジョン配信には夢がある話だった。


「アカウント連携ができるのって……」

「一度作ったスキルは調整ができるんだって。起業してから連携機能を追加したって言ってたよ」

「なるほど」


 全てが納得いった。

 その[管理人さん]がスキルを作成したときどこまで考えていたかは分からないけど、少なくともスキルを最も有効活用しているのは彼だろう。


 ダンジョン配信。そしてダンジョン。


 俺はてっきりエンタメの場だと思っていたけれど違う。

 れっきとしたビジネスの場所なんだ。


 うまくやれるだろうか。不安になってきた。


 新しいことをするっていう勢いでここに来たけど、彼女に流されるようにダンジョン配信をすることになってしまった。


「連携できた?」

「はい」

「じゃあもうすぐにダンジョン配信を始めよ!今が一番バズるから!」

「今からですか?でもブレンダさんがもう配信してるんじゃ……」

「二窓をしたい人もいるでしょ。それにまっくんの反応が見たいの。コメント欄を見た時の反応を」

「にまど?」


 にまどってなんだ?と思いながらブレンダさんに言われるがままダンジョン配信の準備を始める。

 タイトルは「初めてのダンジョン配信です」でいいか。

 時間の設定や、遅延の設定などを決めていく。


「準備ができたら右上の配信開始ボタンを押そう」

「分かりました」


 配信開始ボタンを押す。

 すると衝撃的な光景が広がった。


「な、なんですかこれ!?」






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