第5話 「ダンジョンへようこそ」
ブレンダさんはスマホを操作すると、改札機にかざした。
ピッという電子音と共に通り過ぎると、振り返り手招きする。
「通っていいよ、まっくん」
「はい」
後を追って改札機を通ることができた。
「よし!じゃあ早速ダンジョンに入っちゃおっか」
「もうですか!何か準備とかいるんじゃ……」
「大丈夫、大丈夫。なんとかなるからって」
彼女はへらへらと笑いながら答える。
すると、次の瞬間彼女が笑うのを止める。そして近づいてきたかと思うと肩を掴まれる。
俺の顔が彼女の顔に触れるかと思うまで引き寄せられた。
少し、圧を感じて怖い
「ちょっと待って。まっくん、リュック背負ってきてるけど何か持ってきたの?」
彼女の視線は俺の背中にあるリュックに向けられていたようだ。
「まぁ、最低限のものですけど……」
「見せて!」
「え」
「めっちゃ気になる。ダンジョン知らない人がダンジョン攻略に何を持ってくるか!」
「そんな面白い物じゃないですよ」
俺はリュックを渡す。
彼女は受け取るとすぐに中を見ずに手探りで漁る。
そしてカメラに向かって話し始めた。
「じゃーん!みんなも知りたいよね。ダンジョンを全く知らない人が何を持ってくるのか!一個目はドルルルルルル、ジャンっ!水?!み、水持ってきたの?!マジで?!水?!めっちゃウケる!ほ、他には……タオル!あはははは!タオルだ!すごい、本当にダンジョン知らないんだね。いや、確かに。ダンジョンについて全く知らなかったらタオル持っていくかも。でも……タオルって!」
盛大にウケていた。
多分、俺は普通じゃありえないものを持ってきていたのだろう。
まぁ、笑ってもらえたならいいか。
「あ、まだ入ってる。これはなんだか少し硬いですねー。硬くて、ちょっと細長い。先端は丸みを帯びているこいつは……じゃん!スコップ!あははははははは。面白すぎでしょ。スコップって。なんで?スコップだけなんで持ってきたかマジでわかんない。」
スコップに関しては俺も違うなと思いながら持ってきていた。
いや、本当に何で持ってきたんだ?
「いや、武器になるかなって」
「スコップが武器?!面白すぎでしょ。え、本当に初見だよね。
ウケを狙ってやってるわけじゃないよね。いや、ごめん。分かってるよ。
さっきの反応からも君が初見ってわかるけどスコップって……面白すぎる」
ブレンダさんは笑いすぎてその場で座り込んでいた。
美人って口を開けて大きく笑っても綺麗なんだな。
「あー。お腹痛い。笑いすぎちゃった。ごめんね、勝手に盛り上がって。
決して馬鹿にしてたわけじゃなくて、初めての経験だったから面白くて。
あとでちゃんと説明するから」
「いや、スコップに関しては俺も違うだろうなと思いながら持ってきてました。
でも手ごろな武器が家にはなくて……」
彼女は奥の方を指をさし歩き始める。
どうやら、歩きながら話すようだ。
「なるほどね。ネットでも何も調べなかったの?」
「あ、そうですね。調べればよかったです。
インターネットあまり使い慣れてなくて、調べる発想がなかったです」
「えー、珍しい。私が君くらいの頃はインターネットがなければ生きていけなかったけどねー」
「……親が厳しくて」
ダンジョン配信を見ることを親に禁止されていたと、言おうかとも思ったがやめておいた。彼女はダンジョン配信者みたいだし、不快に思われるかもしれないからだ。
そんなことを話していると、彼女の足が止まる。
目的地に着いたようだ。
「ここがダンジョンの入り口だよ。どう、初めて見た感想は」
「これは……すごいですね」
そこにあったのは西洋風の両扉だった。
しかし、明らかに異様な部分がある。
扉が開けられているため先が見えるはずなのだが、先が一切見えない。
扉の中に靄がかかっている。その靄も霧のようなものではなく、何色かも分からない色だ。言うならば、絵の具で様々な色をグチャグチャに混ぜたような色だ。
自分の人生の中で見たこともない光景。
それこそ映画のCGみたいだ。
「これって何なんですか?」
「ダンジョンの入り口ってことしか分かってないね。科学的な分析とかもしているみたいだけど、何も分かってないみたい。
でも、ダンジョンの入り口は何種類かあって分かっていることもあるの。
例えば、これは西洋風転移型の入り口だね」
「西洋風てんい型?」
てんいってなんだ?
あ、転移か。
ダンジョンだもんな。
モンスターも出るみたいだし、転移してもおかしくはない。
「うん。ダンジョンの入り口は大まかに4種類あって、洞窟風転移型、洞窟風直通型、西洋風転移型、西洋風直通型の4つだね。
洞窟風と西洋風はその名の通り見た目について。見た目からダンジョン内がなんとなく分かるの。洞窟みたいになっているか、西洋風の迷宮みたいになっているかってね。
そして直通型と転移型の違いはダンジョンの入り方の違い。転移型はこんな感じで靄がかかった入り口で、振れるとダンジョンに転移するようになっている。直通型はその名の通りダンジョンと直接つながっていて、ダンジョンの先を見ることができる」
「なるほど。つまりこれに触れるとダンジョンに転移することができるってわけですね」
「うん!良かったね。転移型の方が先が見えなくてワクワクするでしょ」」
いや、どちらかというとどこに行くか分からなくて怖い気がする。
「じゃあ行こうか。ダンジョンへ」
「ちょ、ちょっと待ってください。まだ覚悟が……」
いざ入るとなるとドキドキする。
当たり前だけど転移って生涯で一度も経験したことないからね。
俺は扉の前に立つ。あと一歩踏み出せば靄に触れることができる。
深呼吸をして心を落ち着かせる。
よし!行くぞ――と思ったところで背中を押されて体勢を崩した。
え?
「男は度胸!だよ!」
折角自分で入ろうと思ったのに――というところで靄に体が触れた。
次の瞬間、魂が剝き出しになったような感覚を全身に感じた。
まるで魂に引っ付いていた身体を引きはがされる感覚。
決して不快ではない。むしろ心地よい感覚だ。
するとどこからか声が聞こえたように感じた。
『Seeker verified. Seeker number being verified―――Seeker number 000090.
Avatar duplication―――failed.
Astral information being verified―――……Dungeon. version.3.14 found.
Determined to be impossible to duplicate.
Beginning avatar reproduction―――Succeeded.
Connecting to Dungeon.version.11.2―――Succeeded.
Please register your avatar again.
Welcome home.
Your second home awaits your return.
Come, let's explore. To protect your home.
To the first catastrophe in 15707520…19… 18…』
瞼を開ける。
長い間寝ていたような感覚だ。
周囲を見渡すと先ほどいた場所とは違い石でできた西洋風の通路にいた。
後ろから肩を叩かれる。
振り替えるとブレンダさんがいた。
先ほどとは格好が違う。
現実世界では見たこともない服装――いやここでは武装とでも言うのだろうか。
「ダンジョンへようこそ」
ブレンダさんは得意げに言った。
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