第3話 「見つけた」


「日本ダンジョン攻略生活!今回は黒川ダンジョン攻略の二日目だよ!」


≪こんダン!≫

≪こんダン!≫

≪こんにちは≫

≪こんダン!≫


 東京にある黒川ダンジョン。その入り口のロビーにて一人の女性がカメラに向かって元気よく話していた。


「昨日はボスを倒して一通り攻略したけど、まぁ普通のD級ダンジョンって感じだね。

 唯一感じたのはボスモンスターが少し癖があったけど、ダンジョン攻略慣れてる人は苦戦しないんじゃないかな。初心者向けダンジョンって感じ。

 今日はみんなと雑談しながらマップうめをしていこうかな」


≪雑談配信助かる≫

≪いいね≫

≪昨日はすごかった≫

≪[500円]今日も頑張ってください≫


「ありがとー。ブレンダ最強切り抜きチャンネルさん、500円ありがとねー!

 昨日の配信の切り抜きもよろ~、って見てよみんな。

 今日も誰もいないんだけど!ちょっと過疎すぎじゃない?

 昨日私が配信したから追っかけで一人くらい来るかなって思ったけど、今日も誰もいないんだけど!」


 彼女がスマホを周囲に向ける。

 そこに映ったのは彼女の配信を手伝っているいつもの面子スタッフだけだった。 


≪ww≫

≪それはそう≫

≪ゴールデンウィークにD級ダンジョンに行くほど暇じゃないんで≫


「なんで~。D級ダンジョン楽しいよ?武器禁止、スキル禁止、レベル1攻略したらw」


≪それで楽しめるのはブレンダちゃんだけだよ≫

≪この女子ガチすぎる≫

≪さすがプロ探検者シーカー


「まぁ、そこらへんはダンジョン内で話そっか」


 彼女は入口へと向かっていく。

 すると、改札口の前で一人の少年が立っていた。

 なぜ入らないんだろう、と一瞬不思議に思ったがすぐに撮れ高だと思い彼に近づいていく。


「みんな!私のほかにも探検者シーカーがいた!

 ちょっとインタビューしてみよっか」


 彼女は少年に近づき話しかける。


「すみません。インタビューいいですか?」


 話しかけるとすぐに少年は振り返る。


「あっ、はい。俺でよければ」


 そして二人の目が合った。


「見つけた」


 心の底からの言葉を彼女は口に出していた。



「すみません。インタビューいいですか?」


 声をかけられ振り返ると綺麗な女性が立っていた。

 おそらく先ほど端の方で配信をしていた人だろう。


「あ、はい。俺でよければ」


 ダンジョンに入れず立ち往生していたので受けてみることにした。

 ついでに聞けそうならどうやって入るか彼女に聞いてみよう。


「見つけた」


 しかし、彼女から帰ってきたのは予想外の言葉だった。

 目が合った瞬間、笑顔だった彼女の顔が急に真顔になる。

 目は瞬きを一切せず大きく見開かれていた。

 俺は彼女の外見を観察する。


 彼女は金髪で少しウェーブがかかっている。 

 カラコンをつけているのだろう。目は綺麗な赤色でキラキラしているようにも見える。鼻は日本人にしては少し高めで、目、口、鼻は美しいバランスを保っている。 


 見まごう事なき美人だった。


「あ、あの……」


 ただ見つめられているだけなのに圧迫感がある。

 怖気ながらも話しかけると、彼女の顔が笑顔に戻った。


「やっと見つけたよ~。比較的新しいダンジョンなのに誰もいなくてさー」


 先ほどまでの真顔が嘘だったように、何事もなく話し始めた。

 俺は彼女の距離感が分からず思わず無言になってしまう。


「お兄さん、イケメンだねー。女子人気高いでしょ。

 って、無言になっちゃったけど緊張してる?生ブレンダにあえて緊張しちゃったのかな?」


 彼女はドンドン話しかけてくる。

 この感じ、この見た目。間違いない。


 この人、ギャルだ。


 初めて出会った。いや、学校にも数人いるけど、面と向かって話すの初めてだ。

 ギャルもダンジョン配信するのか……

 

「どう、そろそろ緊張ほぐれてきた?」

「はい。大丈夫です」

「そっかー。良かった良かった。安心して、初対面の人たちはみんなそんな反応するから」


 彼女の言っていることは良く分からないが、安心していいらしい。


「それで、インタビューなんだけど、まず初めに探検者シーカーネームを教えてくくれますか?」


 探検者シーカーネームという聞きなれない言葉に、俺はどう答えようか迷った。

 本名を答える雰囲気ではなさそうだ。あだ名的な感じだろうか。

 今、考えても良かったが、正直に彼女に質問してみることにした。


「すみません。探検者シーカーネームってなんですか」

「あはは。君、面白いね。私の配信でギャグぶっこむなんてノリいいじゃん!」

「いや、そうじゃなくて。本当に知らないんですよ」


 爆笑している彼女に、真剣に知らないと答えると彼女は引きつった顔になる。


「……マジで?」

「はい。今日初めてダンジョンに来たので」


 彼女は俺の両肩を勢いよく掴み顔を近づけてきた。


「ってことは、ダンジョン童貞!?」


 どどどど童貞ちゃうわ!


 と思わず言ってしまうところだった。

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