第2話 「インタビューいいですか?」 


 俺は帰りながら一人暮らしの生活について考えていた。


 自由に生きる、か。

 そういわれても何をすればいいか分からない。

 

 俺みたいな人は世間一般では無キャというらしい。


 陰キャほど人見知りだったり友人が少ないわけではなく、陽キャほど遊んでいるわけじゃない。オタクみたいに熱中してハマることもなく、流行のものに詳しいわけでもない。


 なんとなく生きている人だ。


 だから、こうして自由を手に入れても、今までと同じように生きてしまう。


 何のために一人暮らしを始めたのかについて考えると、東京の高校に通うためだけど、本当にそれだけだろうか。俺も心のどこかで変わりたいと思っていたんじゃないだろうか。


 と自問自答を繰り返していると家に着く。

 良くあるぼろ過ぎずかといって綺麗でもないアパートだ。

 俺はポストに何か入っていないか見るとそこには一枚の手紙が入っていた。


 やった。


 摩耶さんからの手紙だ。

 俺は嬉しくて小さくガッツポーズをとる。


 摩耶さんは小学校の頃であった1歳年上の幼馴染だ。

 俺の親の仕事の関係で引っ越すことになった時、文通をしようと言ってくれた。


 文通も5年目になる。

 ささやかな楽しみの一つだった。


 俺はすぐに家に入り手紙の封を開ける。


 そこには綺麗な文字で彼女の近況が書き綴られていた。


『風薫るさわやかな季節となりましたが、お元気でいらっしゃいますか。

 前回の手紙に一人暮らしを始めたと書いてあってびっくりしました。

 高校生で一人暮らしは大変だよね。家事や勉強を全部ひとりでしないといけないなんて私なら絶対できません。

 それにバイトも始めたらしいし、体調を崩さないよう気を付けね。

 さて、最近の私の近況ですが、合気道の教室に通い始めました。

 来年から受験なので親からは反対されたけど、楠君が新しい場所で生活を始めたと知って私も何かに挑戦してみたくなりました。

 私も去年から始めたバイトでお金はそこそこあったので、自分のお金で通うと言ったら何とか納得してもらえました。日に日に強くなっていくのが実感できて楽しいです。

 楠君も新しい環境、新しい交流関係を活かして、何か新しいことを始めてみたらどうですか。私はどんなことでも応援するよ!

 お身体に気をつけて、ますますご活躍ください。』


 摩耶さん。合気道始めたんだ。

 小学校の頃から空手を習っていてこの前黒帯になったばかりなのに。


 やっぱり新しいことに挑戦する摩耶さんはすごい。それにバイトでも沢山稼いでいるみたいだ。


 彼女に比べてやっぱり俺は駄目だ。

 俺も摩耶さんみたいになりたいと思って、バイトを始めたけど特殊な所で全然シフトを入れてもらえないし。

 彼女も言っていたみたいに何か新しいことを始めるべきなんじゃないか?


 俺は友人からの言葉を思い出す。


 ダンジョン配信か……。


 ダンジョン配信をみる。ということは新しいことにはならないだろう。

 俺にとっては人生を揺るがす一大事だけど、客観的に見てただ動画を見ているだけだ。


 新しいことをしたというためには、それなりに手間のかかることをしなければならない。


 なら選択肢は一つだ。


 ダンジョン配信。


 これしかない。

 早速佐藤に連絡を入れようと思ったところで、手が止まった。


 佐藤とダンジョンに行っていいだろうか。


 勢いで選択肢は一つだと思ったけど、別に新しいことなんて沢山ある。

 それこそ摩耶さんみたいに合気道を習ってもいいわけで。


 ダンジョンに行くこと自体は俺にとって最も新しいことだけど、絶対ダンジョンじゃないといけないわけじゃない。肌に合わないと思ったら他のことした方がいいだろう。


 でも、友達と一緒に始めると断りづらくならないだろうか。

 それどころか、配信なんかで世界中に発信した後でやめると、ダンジョン配信を諦めたとして佐藤に笑われそうだ。


 それはなんかむかつくな。


 別に絶対にダンジョンで配信をしなきゃいけないわけじゃないし、佐藤と行く必要もない。


 とりあえず様子見として一人で行くのがベストじゃないか?


 俺は佐藤に連絡をするのをやめ、スマホでダンジョンについて調べ始める。


 ここから最寄りのダンジョンは……あった。

 2駅隣にあるダンジョンだな。


 その日は早く就寝し明日行くことにした。


 翌日。


 俺は昨日のうちに準備していた服に着替え、荷物と共に家を出る。

 格好は学校のジャージとリュック。リュックの中には水とタオル、そして折りたたみのスコップが入っている。


 なんでスコップかというと武器になると思ったからだ。

 包丁とかでも良かったのだが、街中を包丁を持って歩くのは良くないと思い、妥協してスコップになった。


 苦しい言い訳だが、小説とかだとスコップが武器だし……普通に鈍器としても使えるだろうと考えた。


 まぁ、佐藤曰くダンジョンでは死ななくてモンスターも雑魚らしい。


 危険だと思ったら逃げればいいしこれで問題ないだろう。


 そんなことを考えながら電車に乗り移動していると、目的地に着いた。


 見た目は普通のコンクリート製の建物だ。

 扉も自動ドアだし本当にここがダンジョンなのだろうか。


 俺は辺りをきょろきょろと見渡しながら中に入る。

 ゴールデンウィークでもあるため、人は多いと思っていたが意外と少なかった。


 端の方で女性が一人独り言を話している。

 多分配信をしているのだろう。


 そして数人がその女性を囲うように見ている様子だった。

 

 まぁ、俺には関係ないことだ。

 と思い、先に進むとそこには電車の改札口のような場所につながっていた。


 自動改札機が設置されており、いかにも切符やら交通ICやらをタッチしなきゃいけない雰囲気だ。


 俺は辺りを見渡す。

 周りを見ても切符売り場はない。


 もしかしたらと思い、持っている交通ICカードをタッチしても特に反応はなかった。


 え、なにこれ。

 人もいないしどう入ればいいか分からない。


 ダンジョンに入る前に詰んだ。


 呆然としているとすぐ後ろから声が聞こえた。


「すみません。インタビューいいですか?」


 俺に話しかけている距離感だったので、振り返って確認する。

 するとそこにはダンジョンには似つかない綺麗な女性が立っていた。



 この時の俺は彼女が俺の人生を大きく変えることになるとは思ってもいなかった。


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