初配信編

第1話 「ダンジョン配信をしろ!男同士の約束だぞ」


くすのきはゴールデンウィーク予定あんの?」


 ホームルームが終わり、帰る準備をしていると友人の佐藤が話しかけてきた。

 明日からゴールデンウィーク。

 俺はスマホで5日間の予定を確認する。


「特にないかなー。家にいるよ」

「ならダンジョン配信にいかないか。前言ったかもだけど、最近吉田とダンジョン配信してんだよね。楠も行こーぜ」


 ダンジョン配信と聞いて思わず顔が引きつる。


「ダンジョン配信かー。ちょっと遠慮しとこうかな」


 俺が断ると佐藤はあからさまに不機嫌な顔をした。


「まだダンジョン配信嫌ってるのかよ。全然危険じゃないって」

「でも、モンスターとかでるんでしょ」


 ダンジョンについて詳しくはないが、なんとなく危険なイメージが俺にはあった。

 迷路みたいに入り組んでいて、モンスターとかが出る場所みたいな感じだ。


「いやいや、雑魚ばっかりだし。

 それに、ダンジョン内では死なない・・・・って前説明しただろ。死んだら入り口で復活リスポーンするんだよ。痛覚も鈍化されてほとんどないし、むしろ外の方が危険まであるぞ。

 なんでそんなダンジョンを危険視するんだよ」

「親からダンジョンは危険だから配信は見るなって言われてきたから」

「厳しすぎだろ。楠がSNS離れになったも分かる気がするわ」


 俺の親は世間一般的に厳しいと評されるらしい。

 自分はそんな気は全くなかったけど。


 ダンジョン配信だけは見るなとしつこく言われる代わりに、それ以外の部分はとても優しかった。こづかいは皆より多めだったし、そのお金でどれだけ本を買っても何も言わなかった。

 成績が落ちた時は怒られたけど、そんな厳しく怒られたわけじゃないし。


 両親が厳しかったのはダンジョン配信だけだ。教育に悪いとか言ってたけど、今思うとシンプルにダンジョン配信が嫌いなんだろうと思う。

 ダンジョン配信というか、ダンジョンそのものが嫌いな感じだ。


 ダンジョンに親でも殺されたのだろうか。


 いや、彼が言うにはダンジョン内では死なないのか。

 それに、これ以上考えるとおじいちゃんから勝手に殺すなと言われそうだ。


「その……ごめん。それに不特定多数の人から見られるのもなんか怖くない?」

「大丈夫大丈夫。俺達の配信誰も見てないから。未だ視聴者0人」


 佐藤は笑いながらスマホで自身のチャンネル登録者を見せる。

 細長くもきれいな円を描いていた。


 俺は呆れてため息をつく。


「なら何で配信してるんだよ」

「そりゃあバズるためだよ。ダンジョン配信はインフルエンサーなら誰もがやってるからな。なんかの拍子でバズるかもしれないだろ?」

「ふーん。そういうものなのか」


 バズりたいと思ったことがないので俺には分からない感覚だった。


「ここまでダンジョン配信知らない人を初めて見たよ。逆に楠は家で何をしてるんだ?」

「え、俺?本を読んだり、文通したり、音楽聞いたりかなぁ」

「本当に現代の若者か?年寄りでもインターネット見てるぞ」

「でもインターネット見たら嫌でもダンジョン配信が目に付くから」

「お前の親、徹底的だったんだな。むしろ良く一人暮らしを許可したよ」


 俺もそう思う。

 でも、将来的に東京の大学にいきたかったので、高校も東京に行きたかった。

 あのまま、地元の高校に行っても良かったが、偏差値の高い高校が近くになかった。


 なら、高校から東京に行き一人暮らしに慣れたほうが良いと親を説得した。


 勿論すぐに納得はしなかったけど、必死の説得もあり受け入れてもらえた。

 ただし、絶対に成績をおとさないことと、月に一度親が会いに来ることを条件にだ。


「よし、楠はゴールデンウィーク中にダンジョン配信を見るか、自分でダンジョン配信をしろ!男同士の約束だぞ」

「えぇ、なんで」

「実際問題、この現代社会でインターネットをあまり見ないのは損してるぞ。

 折角親がいないんだから、自由にしろよ」


 友人からの言葉に少し狼狽える。

 それは俺も思うところがあった。

 今までも学校の皆に比べてスマホやPCの使い方が下手だと思う場面が多くあった。この現代でインターネットを使わないなんてことはできないだろう。


 インターネットでダンジョン配信が流行っている以上、いつかは向き合わないといけない。


「まぁ、気が向いたら見るよ」

「絶対見ない人の言い方!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る