ダンジョン配信初心者だけどヤバい美少女インフルエンサーに急遽コラボされてバズ「らせられ」た件

三つ眼の荒木

プロローグ 「ん、なんのこと?」


 どうしてこうなった。


 俺は青ざめた顔でダンジョン配信の管理者画面を見る。

 次々と流れる数多のコメント。

 右上に伸び続ける視聴者数のグラフ。

 

 その数、3万人以上。


 今、俺を3万人以上の人が見ていることになる。


 正確には俺と彼女・・を。


「わぁ~。今日もみんな来てくれてありがとー!

 ほら、まっくんも挨拶しないとー。ダンジョン配信の心得その3!視聴者は大切に、だよ!」


 彼女が得意げな顔で俺に指摘する。

 俺は急いで視聴者に話しかけた。


「ああ、うん。視聴者さん。いつもありがとうございます。こんな配信を見に来てくれて」


≪ブレンダちゃんもいるの?!≫

≪最近、コラボ多いですね。毎秒コラボしろください≫

≪マクブレ尊い≫

≪今日もマクブレ成分の提供ありがとうございます!≫

≪こんばんは。初見です。切り抜きから来ました≫

≪さっさと二人は結婚しろ≫


 なぜか視聴者達の中では俺達が付き合っていることになっていた。

 最近、彼女から教えてもらったがカップリングというらしい。


 良くコラボする配信者や仲の良い配信者を、付き合っているカップルとして見るノリ・・が界隈にあるのだとか。

 ブレンダさん曰く、カップリングは切り抜きが伸びるから視聴者に言われても放置しといたほうがいいらしいけど……


「皆さん、俺とブレンダさんは付き合っていませんから」


 俺は一応否定しておいた。

 人の噂も七十五日というけれど、彼女は人気のインフルエンサーだ。

 記者たちに変に切り取られたら迷惑がかかる可能性がある。


「みんな、まっくんは配信初心者なんだから怖がらせちゃだめだよー。

 この前も二人で切り抜き見てたんだけど、カップリングをガチだと思ってめっちゃ謝ってきたんだよね~。変な噂が広まってすみませんって。

 真面目か!」

「いや、知らなかったんですよ。そんな文化があるなんて」


 彼女はうろたえる俺を見てけらけらと笑っていた。


≪まっくん。天然で草≫

≪本当に配信初心者なんだな≫

≪本当に付き合えば変な噂じゃなくなるのでは?≫

≪待て、みんな。彼女は『二人で』切り抜きを見ていたと言っていた。つまり彼らは配信だけの関係じゃなくて裏で一緒に動画を見る間柄ということ……≫

≪本当じゃん!≫

≪二人で?そこのところを詳しく≫

≪おかしいな。裏で楽しく二人きりで動画を見る関係を世間ではカップルというんだが≫

≪これ、否定風の肯定です≫


 ああ、まただ。

 どれだけ俺が否定しても、彼女がカップリングのネタをついつい話してしまう。

 それで、視聴者は盛り上がり俺達が付き合っている疑惑がさらに深まってしまう。


 配信は盛り上がるかもしれないけど、果たして本当にこれで良いのだろうか。


 もしかしてこの関係は非常に危険なんじゃないか?


 もし彼女から本当に付き合ってほしいと告白されたら俺は断ることができるのか?

 この3万人の視聴者かんししゃがいるなかで。


 というところで俺は考えるのをやめた。


 あり得ない話だ。


 大人気のインフルエンサーである彼女が俺に告白するなんて。

 これはあくまで配信での関係。


 お互いが人気になるための話題作りでしかない。


 俺は先に歩き始める。

 ブレンダさんもついてきてすぐ後ろを歩いている。


「まっくんは確か8層まで進んでいたよね。

 ここら辺のモンスターは弱い奴ばっかりだし雑談でもしながら進もうかな。

 質問メールも一杯たまってるし、その消化でもしよっと」

「少し緩みすぎじゃないですか?

 ブレンダさんは余裕かもしれませんけど、俺はまだ低レベルなんですから」

「分かってるって。でも、ここら辺はもう攻略したでしょ?

 8層からは手伝うからさー。それにいざとなったらまっくんが守ってくれるし」

「知りませんよ、襲われても。それにブレンダさんの方がレベルが高い――」


 俺は前方を警戒しながらブレンダさんと話す。いまのところモンスターは見えない。警戒を解きコメント欄をちらっと見た。

 

≪ブレンダちゃん後ろ!≫

≪危ない!≫


 俺は瞬時に振り返る。


 ブレンダさんと一瞬目が合うが、すぐに俺の視線は彼女の背後で今にも攻撃しようとしているゴブリンシーフに向けられた。

 間に合わない。いや――


 俺はナイフを抜きゴブリンシーフへと勢いよく投擲した。

 ナイフは彼女の顔の真横を通り抜け、ゴブリンの頭部に直撃する。


 ゴブリンシーフはその場で倒れ込み、灰となって消えていった。


「まっくん、投擲のスキルもってたっけ?」

「持ってないですよ。投擲攻撃は初めてです」

「相変わらずだね、その戦闘センスは。スキルなしでここまで戦えたらプロ級だよ」


 コメント欄を見ると大いに盛り上がっていた。


≪すごすぎ≫

≪初めてできっちり当てるのは流石≫

≪相変わらずの初心者詐欺で草≫

≪戦闘民族すぎる≫

≪なんだかんだ守ってあげるの優しい≫


 ダンジョン配信が始まって数分。

 掴みは完璧だ。

 すでに何人かは神回なんてコメントに書いている人がいる。


 できすぎていないだろうか。

 ブレンダさんは俺なんかよりダンジョン配信の歴が長い。

 それに、俺をプロ級とは言っているが、彼女は本物のプロ探検者シーカーだ。


 ゴブリンシーフに背後をとられ気づかないことなんてあるのだろうか。


 俺は配信に乗らないような小さな声で彼女に話しかける。


「わざとじゃないですよね」


 彼女はゆっくりと口角を上げた。


 その笑顔はいつもの彼女の朗らかな笑みとは違う気がした。


 視聴者を楽しませるための笑みじゃない。

 自分が心から楽しんでいる笑みだった。


 ハイエナのような笑み。


「ん、なんのこと?」


 結局のところ、俺は彼女を信じるしかない。

 彼女に頼って配信をしている限り。


 どうしてこうなってしまったんだろう。

 俺はあの日のことを思い出す。


 自分の人生史上最大にバズった日のことを。



 否、彼女によってバズ「らせられ」た日のことを。


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