第9話

 次の日の朝。ちょうどそれは約束の7日目の朝だった。最初から火葬にすることが決まっていたんだ。俺は愕然とした。あの子と永遠の別れなんて嫌だった。もう、すっかり親しみを感じていたのに…。顔がきれいで、素晴らしい子だった。


 俺は葬儀会社の人たちと、女の子を公民館まで迎えに行った。AとBはどこからか棺桶を調達していて、車の中で女の子を棺桶に入れた。硬直しておらず、体はぐにょぐにょだった。まだ生きているんだ。俺はその言葉を飲み込んだ。


 どうしたら、助けられるか考えていたが、無理そうだった。宿泊先で台所で包丁を盗もうとしたが、怖くてできなかった。逆に俺が殺されてしまうかもしれない。


 女の子が生きたまま棺桶に入れられるのを黙って撮影していた。うめき声が聞こえた気がしたが、俺は黙っていた。そんなことを言っても「何も聞こえなかった」と、言われるだけだ。


 あの子が好きだった。

 運転席の後ろで俺は泣いた。

 正直、何のための涙だったのかわからない。

 自分の不甲斐なさか。

 女を見送ることに悲しさか。


 二人は俺が泣いているのに気が付いただろうけど、何も言わずに前を見ていた。


 ***


 村から二時間ほど走って、火葬場に着いた。

 村人が何人か来ていた。


 湯かんの時にいたメンバーの一部だ。


 ほとんどは、夜に公民館に来ていた面子だが、今は涼しい顔で奥さんと来ている。


 弔いなのか、最後を見届けるためなのかはわからない。


 俺は気丈にカメラを回した。


 すごく、怖かった。

 どうしても助けられないのか?

 自分がすごく間違ったことをしている気がした。


 火葬場の焼却炉の前で、お坊さんがお経を読んでいた。


 最後は供養してくれるのかと少しほっとした。

 もしかして、良心からなのか…。

 意味がわからない。


 いや、違う。

 本人がどういう気持ちで聞いているかと考えると、むしろ拷問なのだ。

 生きたまま焼かれるという恐怖。


 こんな恐怖と、苦痛をどうして味わわせるのかが全く理解できない。

 俺のビデオ撮影も彼女に屈辱を与えるためだろうか。

 なら、彼女が俺を好きな筈などなかった。


 いよいよ、焼却炉に入れられるとなった時だ。


 俺はたまらず叫んだ。


「やめろ!」

 

 その場にいた男たちが一斉に俺の方を見た。


「その子は、まだ生きてるじゃないか!」


 その瞬間、俺は後頭部を強く殴られた。


 目の前が真っ白になり、気を失った。

 

 それと同時に、床の上に落ちたカメラがバリっと壊れる音がした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る