第8話

「後が閊えてるから早くしてくれ」


 俺は急かされて、女の子の体を除菌ウエットで拭った。すぐそばにウエットティッシュを捨てるためのゴミ袋があったが、45Lの袋の半分くらいに汚物が貯まっていた。順番を待っていて寝ている人もいたが、一人で何度も並び直す人もいたようだ。俺も調子に乗って、また並び直したが、気が付いたら朝になっていた。俺の順番は二回回って来たことになる。


 俺は葬儀会社の連中に怒られると思って、焦って宿泊先の家に戻った。俺が家に着くと、玄関前を家の家主が掃いていた。


「すみません。勝手に出かけてしまって」

「動画撮ったか?」

「いいえ。さすがに…」

「まったく、仕事を忘れて勝手に出かけやがって」

「はあ。申し訳ありませんでした」

 結局、俺の依頼主は誰なんだろうか。


 よくわからなかった。


 昨日と同じことが毎日繰り返された。女の子はずっと公民館にいた。

 公民館で行われる彼女を断罪する集会と深夜の違法な儀式だ。夜の方は人は減らないし、日を追うごとに、集まる人の年齢が若くなって行った。俺は毎日参加して、何度も並んだ。


 そのうち、村の人たちとも顔なじみになって行った。


「あの子と同じ学校?そんな意地悪だったんだ?」

 俺は隣にいた小学生くらいの男の子に言った。

「普通だったよ」

「でも、いじめてたんだろ?」

「わからん。女子の言うことは嘘が多いから」

「どういうこと?」

「かわいいから嫌われて、いじめられてた」

「え?じゃあ、いじめられたって言うのは?」

 俺はびっくりした。

「わからないけど…本当じゃないかも」

 あそこまで真に迫った演技ができるなんてすごいことだ。もしかしたら、あの子たちも本当にあったと思い込んでしまったんだろうか。何だか訳がわからなくなってきた。


「トキタさん、まだ生きてるんじゃない?」

 俺は小学生に打ち明けた。

「でも、もう、声も出ないし、体も動かせないよ」

「じゃあ、このまま、ずっとあのままいるのかな?」

 それも悪くないと俺は思ったが、そんなの不可能だ。女の子が妊娠する前に、俺たちが病気になってしまうだろう。


「ううん。明日、火葬にされる」

「え?」

「明日火葬場に行く」

「え?」

 意味がわからなかった。

「もう、〇んでることになっているから、燃やすんだ。そうすれば、証拠も残らない。俺が言ったって絶対言わないでよ。ばれたら殺される」


 生きたまま殺すって?

 なんだそれ?


 殺人じゃないか。


 俺は自問自答した。


 彼女を失いたくない。


 彼が言うように、いじめはなかったのかもしれない。


 もしかしたら、女の子たちの狂言から始まったことに親たちが激高しているだけじゃないか。


 まさか…ここまでするか? 

 

 見た目がかわいいからって…。


 村八分の家のくせにということだろうか。


 俺は頭が変になりそうだった。道徳心とかはないのか?法秩序は?

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