第27話 アルバイト探偵
《ルビを入力…》
アルバイト1日目はSNSの過去の投稿から対象者の趣味や家族関係を洗いだす作業を始めた。
ほとんどの投稿がラーメンの写真であり、スタジオのマイクの写真や飼い犬との散歩写真もあるが、食べ物ばかりの印象だ。ラーメン通なのか、コメントも多少あって、フォロワーとの楽しげなやり取りも多くて協調性のある人物に感じられる。ラーメン店の場所を地図にマーキングしてみるが東京から埼玉まで及んでおり趣味の範疇と見える。
「この写真、調べたらどこの川かわかるかもね」
数ある写真の中で真保呂の指差したものは、川に架かる橋とその先に高層ビルの立ち並ぶ背景の写真だ。
「あっ、もしかしたらこの船写真、三本の帆柱が特徴のこの写真も同じ場所で撮ったものかもしれないですね。背景の高層ビルが同じ建物だ」位置情報は登録されていないが三本の帆柱のある船が東京海洋大学の明治丸だと簡単に判明した。三浦肇はここを頻繁に訪れている。
「じゃあ、行っといで」
「ええっ!?」
行ったところで、三浦が都合良く歩いている訳もなくマップで見れば大体の雰囲気もわかるものだか、真保呂に何でもやると言った手前素直に受け入れるしかなかった。
「依頼人には一週間後に報告しなきゃいけないからスピードが大事よ」
可愛らしい語尾で人たらしな真保呂。アルバイトとはいえ何かアドバイスはないのかと思いつつ探偵社を出ようと準備をすると大型犬に連れられて女性が入ってきた。
「ただいま〜ファン君お腹壊してる?軟便だったよー、あっお客様」
「いやいや、違うよ。今日からアルバイトとして雇い入れた澁澤茶色君さ」
「澁澤です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。って言っても私はただのお散歩係ですけど」
「お散歩係?」
「ええ、そうです」
「じゃ、澁澤君は現地にいってらっしゃい」女性の名前を聞く前に真保呂に追い出されてしまった。この探偵社で茶色を含めてもう一人雇える程の儲けが出ているのか、思いの外忙しい仕事なのかと考えながら自由が丘の駅を目指す。東京湾をカーブに沿って移動し、明治丸のある最寄駅を検索して越中島に向かう。地上から地下へ潜り平日の空いた車内で目を瞑る。このような時間に思い起こすのは雪山でのことばかりだ。後悔の矛先はみことに向いているのか、それともいまだ見つからない東海林に向いているのか自分でも整理がつかない。イヤホンを耳にねじ込み流行りの音楽に無理やり心を委ねた。
明治丸を目指しSNSの投稿写真の場所を探し、付近の聞き込みをしようとマップを頼りに歩き回る。晴海運河沿いから大学の一角にある明治丸を確認した。地面に直置きされた船は歴史を感じさせる堂々たる出立ちである。存在感のある写真映えするスポットを観光で訪ずれる人がちらほらといる。その中で姿勢の良いフォームで茶色の前を男が通り過ぎた。ランニングで行き交う人の中に三浦肇を見つけた。中年の金髪頭はとても目をひく。急に声をかけるわけにはいかないので距離を保って跡をついていく。資料の顔写真をしっかり頭に入れていたので間違いない。すると、真保呂から連絡が入った。
「ちょうど今、三浦肇を見つけたところです」
「澁澤君そのまま三浦肇の勤務先まで突き止めちゃって。依頼者から催促が来てるんだよね」
「もうですか?」
「うん、わかった事すべて教えて欲しいって言われてるんだ」
「今、ランニング中なのでこのままついて行きます」
中年らしからぬスピードで離れて行ってしまったので電話を終えて急いで三浦の元へ近づいた。報告用の写真も撮らなければならない。
その頃真保呂は依頼人と三浦肇の関係に疑問を持っていた。依頼人の嘘に惑わされる真保呂ではない。
茶色はランニングを終えた三浦の自宅を突き止め自宅住所や自家用車のナンバーを控え、仕事場であるスタジオの写真を撮り終え探偵社に帰り報告をした。
「言われた通り全て調べてきました。三浦肇は越中島に住むボイストレーナーで自宅近くのスタジオを借りて個別指導を生業とする腕利きのようです」
「僕の方も調べたよ」
「真保呂さんは何を調べていたんですか?」
「依頼人の
「ここからはお散歩係の私が説明します」
「えーっ?お散歩係?」
そこにいたのはカジュアルな出立ちの20代の女性。名前も紹介されていないあの女性だ。大型犬のゴールデンレトリバーは部屋の隅で休んでいる。
「霞さん、お願いします」と真保呂が言った事でやっと名前が知れた。
「宮代朝日は大学生インフルエンサーで歌とダンスの動画配信で人気です。この1年でフォロワーが100倍に増えたそうです。宮代をフォローしている古谷児子は人気になる前からのフォロワーで頻繁にコメントをする仲でしたが宮代の人気が急上昇し事務所との契約話がちらほら出た辺りから雑なコメントや揶揄するコメントも増えています。
古谷児子の方もダンスグループのオーディションを頻繁に受けSNS発信をしているが良い結果はでていません。最近はネガティブな発言が多く、心配の声が上がっています」
「ダンスグループに加入を望む古谷児子がボイストレーナーの三浦に指導を願いたいって話ではないんですか?」
「古谷児子の別のSNSアカウントで『すごいもの見せてやる』と一言書かれた投稿が物議を呼んでいて、宮代朝日とのオフ会BBQで何か起きるのではと戦々恐々の声があがっているんです」
「オフ会っていうのは、実際に会って話したり食事をする親睦会ですよね?それはいつなんですか?」
「週末の日曜日です」
「予定より早い報告の催促が古谷児子から来ていた事もあるし澁澤君は明日、古谷児子に会ってきてくれ」真保呂は疑惑の古谷の調査を茶色に託した。
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