第二章 澁澤茶色の事件簿①
第26話 恋墨探偵社
「男前かっ!」扉を一歩入った瞬間に頭に浮かんだ言葉はこれだった。赤茶色の艶やかなウッドフロアに英国伝統のチェスターフィールドの分厚い鋲打ちソファが艶めき壁には女性が描かれたプレートが飾られ、灯りは裸電球と間接照明の洗練されたアメカジ部屋だった。
「靴のまま上がって、適当に座って」
適当と言われてもこのお洒落ソファもしくは一人掛けお洒落ソファの二択だ。座る場所云々の前にこのヴィクトリア調のインテリア部屋の中に気を許す場所は一つも無い為、三人掛けお洒落ソファを選び丸まったアーム型の肘掛けの近くにちょこんと腰を下ろす。
「そんなに小さくならなくても、満員電車なら隣に5人くらい座れそう。ははっ」
この人の屈託ない笑顔は相手に壁を作らない心地よさを感じる。
「僕ねー、輸入雑貨屋をやっていた事があってその時の名残っていうのかな、共同経営者のブライアーの趣味だったんだよね、このアメカジスタイルは」
「すごく格好良い部屋ですね。センスが良くて憧れますこういう部屋」
ぐるりと一周見回す。戸棚や机もアンティークの錆たヴィンテージのテイストで統一され、物が多くごちゃついているのに洗練された部屋は大人の色気を備えている。
「良かったよ趣味が合いそうで。改めまして恋墨探偵社の恋墨真保呂です。早速だけど探偵の助手がしたいの?」
「はい、そうなんです。先日お電話で話した通り、雪山で犯人を取り逃してしまってその後も見つかっていなくて。その事で責任感とか後悔のようなやりきれない思いを今抱えていて。探偵の助手をさせてもらってこの思いを解消したいと思ったんです」
「そうかー、でも変な動機だね。そんなに君が背負う必要あるの?」
「なんというか、小学校教員になるのも今は躊躇っていて」
「君がやりたいと言うならこちらはウェルカムだよ。アルバイトの女の子が暫くお休みになっちゃうから君が来てくれればうちは助かる」
「どんな仕事でもやります」
「よし!それなら早速だけれど人探しするよ。手伝って。ネットから検索してこの人の居所を突き止めるんだ」
といって真保呂はアンティークデスクの引き出しから資料を取り出し茶色に手渡した。資料には
『三浦肇33歳、職業ボイストレーナー、趣味カラオケ、UFOキャッチャー』とある。
「彼を探してほしいとの依頼だ。依頼人は彼に貸したお金を取り戻したいが、居場所がわからなく連絡もつかないそうだ。だがSNSの投稿が頻繁にあるので探し出して欲しいとのことだ」
「SNSから居場所を割り出すってことですね。やったことはないですが、特徴のある背景や位置情報を調べて探ぐりましょう」
「じゃあ、澁澤君はそこのパソコン使って」
指示されたパソコンは部屋の隅にあり、金属製の錆びた加工のお洒落デスクにあった。使い込まれた味のあるデスクが今日から茶色の仕事場となった。
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