第19話 星空

鑑識の結果とメアリの証言があれば犯人はもう逃げられない。そう算段し茶色は火事で部屋を無くなった生徒の新しい寝床を作る為に奔走した。キャンプファイヤーと火事の後始末で人手が足りないほど忙しく皆で夕食を取る暇もない。生徒達が食堂で夕食を食べている間に部屋のセッティングを終えたかったが二十人分の布団は一人では運びきれず生徒の手を借りて終える事ができた。食事を一人で摂る事になり、食堂でカレーを温め直す。思い描いていた教師像とかけ離れた経験をしている事にふと気付き、モヤモヤした気持ちになる。どの生徒達もいい子だが想像していなかった様な行動をとる。自分の気持ちに正直でありとても影響を受けやすい多感なティーンエイジャーだと感じる。都会育ちでも、地方育ちでも変わらないのだろうか。と考えていると足音が近付いてきた。


「お疲れ様、ご一緒していい?」とみことが近づく。


「お疲れ様です。ご飯まだですか?」


「ううん、私は生徒達と一緒に食べれたの。茶色君一人じゃ物寂しいかなって」インスタントコーヒーを用意しながら茶色の食事の相手をする。


「なんだか、すごい旅行になっちゃったね。残念。私も以前バイトで宿泊研修に参加した事があったんだ。とにかく生徒とたくさん遊んで仲良くなって、すごく良い思い出になったから教師になるのが待ちきれなくってね。それで茶色君も誘ったんだけどガッカリさせちゃったよね」


「ガッカリはしていないですよ。みことさんと違う理由で参加してますから、楽しさはまだ感じられてないですが充実しています」カレーを頬張りながら気を遣って喋る。


「何か起こる度に私のクラスなんだもの、責任感じるわ」コーヒーカップの後ろに沈みこむみこと。


「そうですね。事件フルコースって感じですね」


「もー、笑えないよー」と怒るみことのスマホにメッセージが届く。

「あっ、石橋さん意識が戻ったそうよ。よかったー」

茶色はこれで事件を終わらせる事ができると思い、杢代との会話を思い出していた。

「明日生徒に発表できるかなあ。石橋さんの回復を聞いたらみんな喜ぶね」みことの顔に笑顔が戻った。


「じゃあ、無事に東京に帰ったら食事行きましょう。美味いって話題のシンガポールカレーの店が下北沢にあって一度行きたいんですよね」


「うんうん、行こう」柔らかい表情の笑顔に手応えを感じる。


「ここに来る時星見えました?この辺りは灯りがないからよく見えそうですよ?」そう言ってカレーの器を片付けインスタントコーヒーを手にとり空を覗き込む。


「寒いけど外、出てみません?」茶色が誘う。


うんうんと無言で頷くみこと。マグカップの温かさで暖をとり二人で空が広く見渡せる駐車場へ向かって歩く。冷たい空気と静まり返った山。

木々が発生させる酸素は冷たく尖っていて肺に刺さる。寒さのせいで自然と寄り添い歩幅を合わせて歩く二人。暗闇の空に細かな星が散りばめられ美しく光っていた。


「星すごく綺麗」真上に顔を向け小声で感動するみこと。


「うわー思ってた以上ですね」みことの背後に立つとダウンジャケットでみことを後ろから包み込み一緒に空を見上げる。体をすっぽりと包まれ、抗う事なく茶色にゆっくりと寄りかかる。二人は無言のまま空を見続けた。




旅行終盤になってやっと落ち着きを取り戻した気配を感じこの日はあっという間に眠りについた。

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