第17話 翌朝
生徒の朝も早い。布団からどうしても抜け出せず朝の支度の遅い子を班長がせかして布団を畳み始める。スキーウェアに着替えて朝食会場へ行き納豆ご飯をテキパキと作りかき込む。部屋へ戻り身支度を整えて玄関に集合する。玄関からゲレンデは歩いて行ける場所にあり大自然で開放的な雪山を楽しめる。ここからはレベル別に分かれてコーチについていく。
生徒全員がスキースクールに参加する事になり、一部の教師も予定通り参加することになった。昼過ぎまで戻らない為、石橋夫妻と刑事の弓削と二神が旅館を訪れた。刑事二人は教頭と改めて経緯を確認し、石橋夫妻はみことと、茶色の案内のもと、館内や客室を見て回る。メアリが倒れた浴場の脱衣所や浴室内も見て回るが石橋夫妻の意識は病院にいるメアリの方である。こんなにも、スキー日和の天気だというのに浮かない表情の夫妻は、教頭、刑事と話したのち、またタクシーに乗って去った。
「ピーチのシャンプー見つかりました」と茶色から刑事に渡された。
「なんだよ、見つかったのに嬉しそうじゃないな」と弓削がシャンプーを引き取る。
「きっと、このボトルからは何もでないです」
「えっ!?何で?これじゃないのか?」
「石橋メアリのバックに入っていたので、これじゃないと思います。もし僕が毒入りシャンプーを持っていたとしたら袋に入れて液が漏れないようにとか、厳重に保管できる場所にしまいます。中身だって捨てないとリスク高すぎますからね。ピーチのシャンプーじゃないとすると、どこかに隠しているのかもしれないです」
「頼むぞ名探偵ブラウン!」
「隠せそうな所とかゴミ箱は全て見てきたんですけど、なかったですね」と落胆する。
「まあ、石橋夫妻は被害届をだすかどうかはメアリさんの回復を待ってから考えるとの事でしたのでピーチのシャンプーから何も出なければそれはそれでいいのではないでしょうか」
と教頭が事勿れ主義の平和的解決に満足した顔で場をしめた。
「じゃあ、僕は雪上キャンプファイヤーの準備をしてきます」と納得のいかない表情のまま茶色は広場へ向かった。バケツをみつけテキパキと雪を積めてひっくり返す。三回程積み上げて中身を一部分くり抜きキャンドルを入れる。幾つか見本に作り、あとは生徒が来たら真似て作れば明るさが保てる。中央にはドラム缶を横半分に切ったものを四方に四つならべて転がらない様に雪と木で支え中に薪と着火用の小枝を入れて準備万端。足りない小枝を拾い集めながら茶色は頭の中を整理していた。
望月了がいなくなった時も本人が見つかったからと言って原因はうやむやになり、石橋メアリが被害にあったのにも関わらず被害届がでていないからとして穏便に済ませようとしている気がしてならない。ウインタースクールでのやる事の多さに皆忙しいからだろうか。スケジュールの進行と片付け、個人の対応でゆっくりできる時間はない。早くもスキースクールを終えた生徒の一部が広場に集まり始めた。灯籠を見ている生徒にバケツを貸し、作り方を教えると広場に次々と灯籠が立ち灯りが灯り始めた。キャンドルは電池式で安全を考慮してある。寒いのでドラム缶の中の小枝に着火ジェルを入れ点火棒で火をつけた。
火はゆっくりと広がりドラム缶の中の薪に燃え移って行く。パチパチと音が聞こえ始め冬のキャンプファイヤーを一足早くスタートさせる。寒いので時間は短くコンパクトに計画している。歌を歌い、丸バツゲームをして、マシュマロを焼き終了となる。生徒が集まり教頭の長い挨拶にうんざりしてきたので会を直ぐにスタートさせた。練習してきた雪山讃歌を歌い、丸バツゲーム担当の東海林先生が問題を読み始めた。
「今みなさんが歌った雪山讃歌は冬の雪山登山の歌ですがこれは、アメリカ民謡である。マルかバツか?」
「えーっそんなのわかんなーい」生徒がはしゃぎながら移動を始める。右と左に分かれて歩く。しかしその時、一部の生徒が遠くを指差している。その方向には建物から黒い煙が空高く立ち上ろうとしていた。よく見ると赤く揺らめく炎も見える。
「火事だ!」
「生徒の皆さんは落ち着いて!しゃがんで!」
初めて見る火事を目前にしてパニックになり大声で喚く生徒や固まって震える生徒たち。
茶色はバケツを手に火事の現場に走りだす。バケツに雪を入れてそれをかける。雪を入れてはかける。消火器が近くにあった事を思い出し、後からきた東海林先生にバケツを託し茶色は消火器を取りに向かった。その間にも、火は建物をみるみる焼き黒煙がまっすぐ空へ伸びる。走りながら安全ピンを外し真っ赤に燃える火に向けて消火剤を噴射する。踊るように赤く燃えさかる火は瞬く間に消え白と黒の煙が吹き出した。咳こむ茶色はもうこれ以上は近寄れないと判断し遠くに聞こえ始めたサイレンの音に気付き、旅館入り口へ向かい消防団を誘導する。すぐさま降りてホースを伸ばし燻る火を残らず消火していく消防団員。楽しくキャンプファイヤーをしていた気持ちも一緒に消火されてしまった。
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