第15話 シャンプーの行方

「石橋さんのクラスを担当された事が過去にあるそうですね。どんな子でしたか?」と弓削が聞く。


「二年前に担任をしました。活発な子で授業もきちんと聞く素直な子だという印象です」と当たり障りのない回答になる東海林先生。


「ご家族との関係はどうでしたか?」


「あーそれは…。お母さんの愛情がとても強く感じましたね。忘れ物が多い子って家庭の環境とか家での会話とかができているのか心配になるんですけど、石橋さんは逆に完璧というか親の監視が行き届いているかの様な印象を受けました。特に昨年辺りからクレームの電話が増えて担任の美谷野先生は大変な思いをされてました」言いづらそうにしながらも何度も何年も傲慢な態度をされ、あの母親の話になると過敏に反応してしまう程嫌気がさしていた。


「いわゆるモンスターペアレントですか?」


「はい、そうです。愛するが故に自己中心的な考えになって理不尽な要求をしてくる保護者がたまにいるんです。演劇会の時のオーディションも生徒どうしの些細な喧嘩もうちの子は悪くないってすごい剣幕で学校に乗り込んで来て、納得するまで主張をつづけて学校が悪い、先生が悪いって怒り続けていました。今から来るのかと思うと憂鬱…あっすみません。失言でした」

と止まらなくなっている。


「わっかりました。ありがとうございます」


踵を返し歩きながら駐車場へ戻る。二神が弓削に小さな声で問う。


「なんか、ありそうですよね。どう思います?」


「アメニティは知らねーって一言なのに、両親の話になったらやたらとペラペラ喋り始めたなあ。まったく、何処にあんだよーシャンプー」


歩きながら約束通り茶色に電話をかける弓削。


「あー先程はどうも、弓削ですー。例のシャンプーは無かったぞ。しかもリンスとかボディーソープも無かった」


「えっ、何もアメニティがない!?」


「ああ、着替えとタオルとバスタオルと髪留めだっけか?」二神に聞くと頷く二神。


「それだけですか、それは残念」


「ただ、気になる事を言ってたぞ。石橋メアリの両親がモンスターペアレントだって」


「はい僕も今日、石橋さんの事を知りたくて尋ねた時にご両親とのトラブルの話を聞きました。ずいぶんと主張や要望が多かったみたいです」


「両親もあれだかあの病院にいた先生の感情がやけにこもってるのが気になってな」


「あの方は教員の東海林といいます。関係性はわかりませんがとりあえずシャンプーはこちらでも引き続き探します。ありがとうございました」


シャンプーが見つからず、夜も遅くなったので教頭に報告をして茶色も部屋へ戻ることにした。石橋の両親の到着に合わせて教頭、担任のみこと、倒れた時の状況を説明する為羽田の三人も再び病院へ向かう。タクシーで行く為茶色は人数オーバーで病院にはまた行く事ができなかった。


「みことさん、お願いがあります。ご両親に持ってきたアメニティグッズの色とか形とかメーカーとかわかるか聞いてください。それと帰りの車内で皆さんと何を話したか教えてください」


「シャンプーと車内の会話ね」


「動きがあるかもしれないので」


「茶色君は誰を疑ってるの?」


「確信が持てたら教えます。みことさん以外の人は皆さん疑って見ています」


「わたしは石橋さんが心配で、まさかシャンプーに毒物を入れた犯人がいるとは思えないの」救急車で心臓マッサージをされる石橋を目にしているみことは家族の事の様に思い落ち込んでいた。


「石橋さんが狙われた理由がわからないのでそう思うのも当然です。こっちの心配は入りませんので石橋さんの近くにいてあげて下さい」




朝、六時起床、六時半朝食、七時半スキー教室開講着替えて集合

 明日の予定は朝からびっしりだというのにこれをどうするべきかずっと悩んで眠れない。

捨てるか持ち帰るか埋めるとか。それとも誰かの持ち物に忍ばせる、本人に返す、警察に言うとか。もうこの際誰かに見つけてもらうとか。

どれかを選ばなければならない。永遠に葬るのなら埋める、自然な発見なら誰かの持ち物に忍ばせる。

すべて話すとどうなるのだろう。内緒だと言われた事を言っていいのか、知らない振りは嘘とは違うのか。もう良い結末はやってこない。それでも渡されたのには理由があるんだ。

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