第14話 毒入りシャンプー


刑事がいなくなったので教頭の部屋へ戻り明日の予定を話し合った。


「毒がシャンプーに入っていたかもしれないなんて前代未聞だよ」教頭は声を荒げる。


「可能性の話です。刑事さんが病院へ行って手荷物を確認してくれるので、結果を待ちたいと思います」とみことが答える。


「明日のスキー教室はどうします?」


「私はやったほうがいいと思っています。スキー教室に子供達が行けば雪山のインストラクターが一日面倒を見てくれますし、病院に行ったり浴場の清掃が必要かもしれませんし」


「僕も賛成です。具合が悪くなってスキー教室に参加したくない子だけを残して開催した方が僕達も体が空いた方が動きやすいです。必要ならアメニティグッズ買いに行きますし」


「そうですね、スキー教室が出来ないとなると返金問題も起こりますし、生徒が自ら行きたくないと言う子以外は参加させましょう」と教頭も納得の答えが出て、周りも頷いた。



弓削はアイコスを吸いながら病院へ向かう車内で考えを整理していた。


「もし、毒入りシャンプーが使われたとしたら理由は何だ?」


「怨恨ですかね」と運転しながら二神が答える。


「小学生がそれほど恨まれるなんて、よっぽどの悪女か?」


「まあ、そおっすねー。病院に先生が付き添っているので聞いてみますか。担任ではないですが以前この学年を受け持ったことがあるそうなのでわかるかもしれないですね」


「おう、とっとと聞いて帰ろうぜ」


「ですよねー」


病院に到着し駐車場に止める。弓削はアイコスを携帯灰皿に捨て小走りでエントランスに向かって走る。12月の筑北村は雪も多く駐車場のあちらこちらに捨てられた雪が積まれている。スーツの上にダウンを着ているが足元から冷えてくる為、自然と小走りになる。村でも中規模のこの病院は救急外来もあり、時間は遅いがちらほら人がいる。


「筑北署のものです。今日運び込まれた石橋メアリさんについて聞きたいんですけど」と案内所で二神が警察バッチを見せて尋ねた。


「それでしたら、奥へ進むと救急外来の看護師がいるのでそちらで聞いてください」と言われ

二人は向かう。


「あっ、看護師さん、筑北署の者です。先程運ばれた石橋メアリさんの容体はどうですか」


「意識がもどっていないので、なんとも。担当医師を呼びますか?」


「いや、じつは石橋メアリさんの荷物を探していまして」


「それなら、わかります。といいますか学校の先生がいらっしゃったのでお渡ししてあります。向こうの方です」


スマホを両手でいじる男が一人座っていた。隣の席には子供用のピンク色のバックがある。

弓削が先を歩き声をかける。


「こんばんは、南麹町小の先生ですか」


「あっはいそうです」慌ててスマホを閉じる。


「筑北署の弓削とこちらは二神です。石橋メアリさんの件で来ました。彼女の容体はどうですか?」


「重度の意識障害だそうです。ご両親がこちらに向かっているそうなので待っています」


「そうでしたか、ところでその荷物は石橋さんの物ですか。見せていただけますか?」


「ええ」


東海林先生が答える前に二神が前のめりになりピンクのバックに手をだした。丸く膨らんだふくろからキャラクターのバスタオルを引き出し更に中を探る。


「これだけでしたか?」と二神。


「えぇ、看護師さんから渡されて搬送された時のバスタオルは僕が袋に入れました」


「何かお探しですか?」


「アメニティグッズが一つも入ってない様ですが知りませんか?」


「中身の確認はしていなかったので気づかなかったです」


肝心のアメニティグッズがシャンプーのみならずボディーソープもなく二人は無言で顔を見合わせた。



瀧しおりのおかげて解決に近づいたかと思われたが何も進展しなかった。しかし瀧はみことに呼び出された後浴場の前でこっそり話を立ち聞きしていた。部屋の女子は布団に入って刑事の話で持ちきりだった。


「なんか、刑事きてるみたい」


「えっそうなの?何聞かれたの?」


「なんかー、メアリちゃんの倒れた時の様子で、目をつぶって顔を洗ってたって言ったら、もう帰っていいって言われちゃって、それで気になって外に出てちょっと話を聞いてたの。そしたら、シャンプーに毒が入ってたんじゃないかって言ってるのが聞こえた」


「シャンプー!?」


「だって自分家から持ってきたのに何で毒が入ってるのよー」


「毒親だけに毒入りとか?」


「だめだよーそんな事言っちゃー」


「…」


「彩乃はどう思う?」


「わかんないけど、シャンプー腐ってたのかなー?」


「んなわけなーい」


「ちょっとトイレ行ってくる、戻ったらまた怖い話しよう」


「いやいや、やっぱり夜は枕投げでしょー」


一人いないくらいでは、女子の元気は止まらない。八人になった女子部屋はお喋りが止まらず明日スキー教室があろうとも寝るわけもなく、遅くまで喋り続けた。噂話や好きなアイドルの妄想話や恋バナを喋り続けた。

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