第11話 ざわめき

一時的に教員の部屋を保健室替わりに使用し具合の悪くなった生徒達が集められている。どの生徒も落ち着きを取り戻していた。


「メアリちゃんしょうこさんの霊に取り憑かれたのかなあ」


「えーっそんなわけないじゃん、迷信でしょ」


「だって、メアリちゃんがその話ししたからこんな事になったんだよ」


「メアリちゃん詳しかったしね」


夕食時に話していた怖い話が、突然友達に起きた災いと重なり妄想が恐怖を引き込んできた。

気持ちがざわつき始めて疑心暗鬼になる生徒がでている。


事態の把握のため教員を集めて説明が行われ、集中治療室に石橋が運ばれた事が教頭から伝えられた。生徒を不安にさせないためにも、他言無用と周知徹底が言い渡された。警察も呼び事態を説明する為にみことは東海林先生と交代して旅館に戻ってくる事になった。茶色は生徒達が噂する中庭のしょうこさんの真相も聞くつもりでロビーでみことを待つために部屋を出る。東海林先生も同じくして部屋を出たので初めて話しかけた。


「東海林先生お疲れ様です。こんな事になって生徒にかける言葉が見つからないです」


「そうですね、特に女の子は精神年齢が高い分色々な事を想像しちゃいますからね、無邪気な男子の方がまっすぐで思考が読みやすいかな」


「中庭のしょうこさんの霊の仕業じゃないかって噂してるんです。知ってますか?」


「えぇ、中庭のしょうこさんと呼ばれてるのは晶子と書いてあきこと読みます。十二年前に当時六年生だった羽田先生の妹さんです。それ以上は詳しくは知らないですが妹さんの気持ちに寄り添いたいと母校に勤めているそうですよ」


「そうだったんですか」


中庭のしょうこさんの正体が少し現実的で身近な人の家族だと聞き、それ以上突っ込んではいけない様な気がして言葉を失った。

ロビーで話しを聞き、その後はみことの帰りを一人で待った。家族を亡くした者でしかわからない理解や苦悩があったに違いない。羽田先生は亡き妹が中庭のしょうこさんと呼ばれていても近くにいる事で晶子さんが身近に感じられている事だろう。立ち話のあと東海林先生は通路で杢代彩乃と会話をしている。杢代が首を横に振っているが他の生徒の様に深刻そうな様子ではない。東海林先生はみことを待たずに病院に向かいその代わりに警察官が二人が訪ねてきた。


「こんばんは、筑北署からきました。大嶋と渡部です。連絡を頂きお話しを聞きにきました」


「臨時講師の澁澤茶色です。教頭の所へご案内します」


アルバイトで講師ではないが臨時講師以外の肩書きが見つからなかったので適当に話す。警察官も交番から来た地域のパトロール隊な為、茶色が学校関係者なら問題がない。教頭の部屋をノックし警察官を部屋に通したが手招きされ一緒に部屋に入った。


「教頭先生、警察の方がいらっしゃいました」


「ご足労頂きありがとうございます。教頭の古町です。東京からウィンタースクールで来ているのですが、入浴中の女子児童が体調を崩して救急車で病院へ運ばれました。最初はのぼせたのかと思ったのですが病状が深刻との連絡を受けまして連絡した次第です。担当の教員が病院から戻って説明します」


「深刻な病状とはどのような状態ですか?」


「電話で聞いたところ意識がなく、検査の結果待ちだそうです。医師は何らかの中毒を起こしているとの事でして、現在集中治療室で治療中です」


「中毒というと食中毒とか薬物とか、考えられる物はありますか?」


「食事は皆同じ旅館で提供された物を食べています。今日の献立はクリームシチューにハンバーグが入った物とご飯とスープ、生ものは野菜サラダぐらいで皆、体調に変化はありません」


「そうですか、では一応浴場を見せてもらえますか?」


「ええ構いませんが、今学校と保護者の方と連絡を取っていて折り返しの電話を待っている所なので澁澤先生、お願いできますか?」


「はい、わかりました。ご案内します」


石橋の病状が中毒による物だとは思わず、ざわめく気持ちを落ち着かせながら警官と共に浴場へ向かった。浴場は離れになっていてそこに行くには宿泊棟を出て外を歩く。木々が密集して生えて目隠しされており露天風呂があってもおかしくなさそうな場所だ。山道を下りながら遠くの木の合間から大人の人陰がちらりと見えた。

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