第7話 望月了
いつからだろう学校の奴らの期待に答えなければならないと感じ始めたのは。
あぁそうだ、タバコを拾ったせいだ。夏の暑い日公園のベンチにあった忘れ物のタバコを見つけて真似して吸ってみたけど火がついてなくて、どうにか火を付けたくて虫眼鏡を持ってきたんだ。火口に焦点を調整して光を一点に集めたが虫眼鏡小さいせいかタバコの葉が黒くないせいか火がつかなかった。火がつかないとわかった瞬間周りにいた奴らは沈滞ムードになり俺に失望の眼差しを向けてきた。やればいいんだろうって思った俺は家からマッチを持ってきて慣れた手つきでタバコに火を付け吸ってみせた。ふかしただけでも咽せてしまったが何度も吸っては咳込み吸っては咳込む。周りの奴はショーでも見ているかの様に俺のする事に注視しつづける。俺の存在はお前たち小者とは違うんだって気づいた瞬間だった。俺はたくさんの友達に常に囲まれていた。皆が俺の後をついてくるし集まってくる。何をやっても皆が笑い楽しそうにしていて俺は慕われている人気者だ。でも、あいつは俺の横を空気の様に素通りする。気にくわない。皆が声をかけてくる休み時間も廊下であった時も俺の事を見ようともしない。反応が見たくて音楽室に閉じ込めてみても、持ち物にいたずらをしても笑ったり困ったりしない。反応がつまらないのにその転校生の態度が気になって普通の会話を振ってみてもやはり素っ気ない。クールを気取ったあいつの態度が悪いんだ。そしていたずらがエスカレートしていった時、美谷野にバレた。俺一人が個室に呼び出され制裁が下された。どうして仲良くできないの?とか転校生だから気を配ってあげてほしいとか俺一人が悪いのか?あいつは何の反応もしてこないし周りの奴は興味すらなさそうで俺にやれやれって煽ってくるのはどうなんだ。俺の所に集まってくる仲間は友達だったのだろうか。友達だったら俺を一人にしないし売らない。裏切らない。
「ピーンポーンパーンポン、迷子のお知らせです。東京都南麹町小学校からお越しの望月了さん。いらっしゃいましたら中央インフォメーションまでお越しください」
数ヶ月前に望月に起こった事をみことは茶色に話しはじめた。
「望月君には二つ上にお兄ちゃんがいるの。とても優秀なお兄ちゃんで私立慶蒙学園に入学してスポーツも万能で、望月君はいつも比べられていたの。兄弟の仲は良くて望月君も本当は素直で良い子なんだけど劣等感を感じ始めたのか家に帰るのが嫌みたいで夜遅くまで帰らない事があって、警察から補導されたり荒れてる時期があったの。学校でも色々事件起こすし心配していた時にこんな事になるから」
「小学生なのに抱えるものが沢山ありそうですね」
「小学校って子供にとってのこども社会の場所で、もし家に居られなくなると本当にここしか居場所がなくなっちゃう。なのに学校でもトラブル起こして嫌になっちゃうともう、どうにもならなくなっちゃうんだよね。望月君に何か起きてるなら助けてあげなきゃ」
「カッターの件にせよ彼なりにSOSをだしてるのかも知れないですね」
迷子のお知らせがアナウンスされたが周囲は昼食を求める人々が行きかい陽気なBGMが流れ、こちらだけが別世界にいる。
「ピーンポーンパーンポン、迷子のお知らせです。東京都南麹町小学校からお越しの望月了さん。いらっしゃいましたら中央インフォメーションまでお越しください」
僕を呼ぶアナウンスがあった。誰かが僕を探している。リュックを持ち重たい頭を左右に振ってインフォメーションを探す。
僕はここにいる。
先生僕はここにいるよ。
もう一人になりたくない。
「みことさん。奥にいる子、もしかして」
「えっ、えっどこ?望月君?望月君?」
立ち上がり何処かから聞こえる先生の声を探す。夢のような願いを込めて声に出す。
「先生ー」
望月は和麺コーナーのテーブル席にぽつんと立っていた。リュックを手に表情のない顔をみことに向けて涙を流している。駆け寄ったみことはそっと望月の両肩を抱きしめた。
「遅くなってごめんねもう大丈夫だから。何処にいたの?誰かと一緒にいた?ご飯は食べたの?何していたの?」
望月にたたみかけるようにみことは話しかける。望月が何も答えないのは泣いているせいではなさそうだ。根深い闇が彼の中にありそこからの脱出は容易ではない。
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