第6話 透明人間

サービスエリアに着くと数時間前に見た景色と何も変わらない様子で車が走っている。一人の少年が居なくなった様なざわめきは見てとれない。みことは挽回を計るべく気合いの入った表情でタクシーが止まるのを待ちわび扉に手をかけている。今にも飛び出しそうな勢いだ。


「みことさん、落ち着いてください。端のトイレから探していきましょう。その後インフォメーションに寄ります。望月君だけじゃなくてリュックとか帽子とか落とし物にも目を配ってさがしましょう」


「わかった」


タクシーの領収書をもらいキョロキョロ見回しながらトイレへ向かう。女子トイレは使うはずもないがみことは女子トイレも一室ずつくまなく探す。昼時で混雑していて全ての個室を調べることはできない。茶色は意を決して声をだして呼びかけ始める。


「望月君いませんかー?望月君居たら返事をささてくださーい」


茶色の声がみことにも届きみことも声をかけ始める。


「小学五年生の男の子を探しています。リュックと帽子を持っています。リュックには黄色タグがついていて学校名が入っています!」


「一人ぼっちの小学五年生の男の子をませんでしたか?」


二人の声かけに反応する人はいたが情報はなく声だけが空へ消えていく。子連れの親子も多く何度も見間違えては落胆した。二人は合流しインフォメーションへ向かう。


「みことさん、アナウンスとかどうですかね?」


「それいいね。流してもらえないか聞いてみよう」


「すみません、子供を探しています。小学五年生の男の子で望月了君と言います。午前中にここに立ち寄った時にバスに乗り遅れた可能性があって何か知りませんか?」


「お調べします。お待ち下さい」


一秒も待てないとみことの顔に書いてあるのか案内係の女性は朝からいるが迷子は聞いていないと言う。落胆が隠せないみことはその場にしゃがみ込み頭を抱えた。いなくなったのがサービスエリアだとするとあれから三時間以上経っている。


「いないかも知れませんがアナウンスを流してもらうことはできますか」


茶色は今できる事に気を回す。アナウンスを流しても見つからなかった時には警察に連絡することを考えなくてはならない。防犯カメラなどを見せてもらうにも警察の協力が必要だ。望月の顔写真や服装の細かい説明も必要だろう。しかしなぜ生徒一人居なくなった事に気づかなかったのだろうか。バスでの点呼の仕方に問題があったとしても子供達の中で望月が居ないことに気がつかないものだろうか?サービスエリアに降りるだけでリュックがいるだろうか?わざわざリュックを背負って降りたのならお弁当を食べれただろうか?誘拐なら金銭の要求が両親の元へかかってくるかも知れない。

 みことは泣き声を漏らさない様に必死で耐えている。肩で息をして声にならない声が漏れて聞こえてくる。生徒を預かっている重責と憂患の高まりに押しつぶされそうになっているみことにかける言葉が見つからなくて側にいることしかできなくなっていた。

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