第5話 消えた生徒
雲ひとつない晴天に太陽が降りそそぐ好天の中東雲を見つけた。友達と共にお弁当を広げている輪の中心に彼はいた。
「東雲里見君?」
「はい」
「望月君見なかった?」
「見てないです」
「いつから見てない?」
「さあ、僕にはわからない」
真っ直ぐに茶色を見つめるその目線は意思を持ち揺らぎがなく嘘もない。
「バスでは隣でしょ?」
「そうです」
質問以外の答えは何もしない。動作もない。
「いつまで一緒にいた記憶がある?」
「サービスエリア」
「その後は、バスに乗ってたよね?」
「わからない」
「隣なのに?」
「はい」
「どんな服着てたか覚えてる?」
「青いダウンとジーパンかな」
「バスで何を話してた?」
「僕たちはサービスエリアから出る時は席を移動したり、友達の声真似で返事してふざけていたからバスで話してない」
茶色は東雲から聴取した事をみことに伝え教職員で対策会議を行う提案をした。望月了はサービスエリアに置き去りの可能性が高まった。しかし、何故バスに戻らなかったのか。迷子か置き去りにしたか誘拐かもしれない。他の生徒たちの旅行日程は継続し茶色とみことがサービスエリアに戻ることになった。タクシーを待つ間みことは後悔の思いを茶色に話した。東雲と望月の間で起きた事、カッターで切られた事、その犯人が望月だと思いつつも100%言い切れない思いから警察に届け出なかった事が心残りだと言う。今も一人ぼっちで何処かにいるであろう望月を思っているのかそれとも周りの教師達からの無言の圧力や視線の痛みなのかその両方がみことにべっとりとまとわりついている。
「みことさんは望月君に嫌悪みたいな感情がありますか?」
「あるとしたら、恐怖のほうかもしれない。思ったままに行動してくるところが実は怖い」
「理性とか欲とかを抑えずに大人に向けて爆破させてくる所は子供の怖いところですよね、特に教師には何言ってもやっても良いみたいな親近感があってでも受け手側はサンドバッグじゃないから痛いし怖いしそれに防具の用意もできていない」
「私、もしかしたらどこかで望月君がいなければいいって思っていたのかもしれない。漠然と関わりたくなかったのよ。最低よね」
「タクシーきました。乗りましょう。最低なんかじゃないです。怖い思いさせられたら誰だって考えますよ。次は何してくるんだって構えちゃって距離置きたくて視界に入れたくなくて。でもそれは絶対に言っちゃだめなやつです。だから今からでも正常に戻す努力をしましょう。警察に言うこともそうですし教育委員会や本人を交えた聞きとりとかどうにかなるとは言えませんけど、抑止にもなると思うんです」
「うん、そうだね。ウィンタースクールが終わったらちゃんとする。」
「警察とか、学校から音沙汰ないって言うのが不思議なんですよね。だって、小学五年生なんだから自分に起きてる状況とか助けてって言えるはずじゃないですか。自分の学校だとか、迷子だとか、バスに乗り遅れただとか、言えば大人がどうにかするのに何の連絡も無いなんて透明人間じゃないんだから」
二人の頭には誘拐かもしれないと言う言葉がちらついていたが口にすると現実になってしまいそうでどちらもそれを口にしなかった。無言のままサービスエリアに着くのを待った。
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