第3話 藁の針

本日二度目の降車場はiPhoneのハイダイナミックレンジ機能を使って撮った写真の様な青い空と緑地が広がる公園だった。バスから降りたカラフルな蝶々たちが整列を始める。今日何度目の点呼だろうか、集団行動を統率するのはいちいち時間がかかる。東京から脱出しただけでも空気がひんやりと美味しく感じるこの場所で昼食タイムとなる。バスを降りたみことのクラスの生徒達も背の順に整列した。すると東雲里見が大声で

「先生、了がいませーん」と言うと生徒の皆が後ろを振り返った。

「望月君見た人?」みことが近づいてクラスの生徒たちに聞いて回るが、皆首を振ったりキョロキョロと近くにいないかと見回すだけで手応えがない。出発の浮ついた騒ぎ立てる様子はなく皆落ち着いて整列している。茶色の記憶にもある坊主頭の体格の良い男の子だとすぐにわかった。アスリート的な坊主が印象的だかそれより有名な彼の武勇伝は尾ひれつけて方々に知れ渡っている。例えばプールの授業中に友達に死んだふりをさせてプールに浮かばせ救急車を呼ぶ事態になった事や、教室の窓から水槽の水を捨て校長の頭にかけた事や、バレンタインのチョコを学校持ってくることを禁止した際はチョコの代わりに給食のパック牛乳をくれと言い広めたところ百を超える牛乳が集まったとか。

どの子達も皆、望月了なら何か面白い登場をするのか、そればかりか天才的な事をするのではないかと期待と不安が入り混じっている。がしかし彼はいない。

「トイレにでも行っているのかもしれない」


「僕はトイレを見てきます」


「じゃあ、私はバスへ戻って見てくる」

それぞれ一抹の不安を感じながら探す事になったが旅程も進めないわけにはいかず他の生徒達は各々昼食となった。青々しく広がる野原にカラフルな蝶々達が散っていく。他の教員と補助員にも話が伝わり駐車場や建物内もくまなく捜索が始まった。彼の性格上物陰に潜んでこちらの様子を遠目に見て笑っているのではないかとも思い車の下や体の入りそうな所は全て探す指示がされたがどこを探しても見当たらない。バスにはリュックも残されていなかった。みことは眉頭を寄せて苛立ちか心痛に耐えがたい表情で頭を左右に振り困惑している。この広い公園内の彼の興味がありそうな場所から探したもののそのどこにも彼の姿はなく、他の生徒たちは昼食を食べるため散り散りになっているので藁の中から針を探すかの様なので茶色は生徒の聞き取りを提案した。出発当時ははしゃいで身を乗り出してしゃべっていたし、サービスエリアでも見かけた記憶がある。


「バスの中の様子がわかる生徒はいますか?」


「隣の席は東雲君のはず」


今度は藁の中から東雲里見を探すことになった。

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