第11話 来たる変貌の刻 今宵、我らは最強へと近づく

 10歳になるまで自分の魔素の属性魔法だけを使った僕たちは、遂に進化のときを迎えようとしていた。


「今宵、我らは最強へと近づく……」


 よっしゃあー、人生で一度は言ってみたいセリフをやっと言えたぜぇ。

 前世ではこうやって嘯く機会すら無かったからなぁ。


 僕が感動していると、ノアが水を差すように言ってきた。


「我らって今日が誕生日なのは、ライトニングとアンナだけじゃないですか? それに、最強とかって大げさ言うの控えた方が良いですよ」


 チッ、ノアのやつ。人がかっこいいセリフを言えて満足してんのに雰囲気を壊しやがって。


「まぁまぁいいじゃないですか。ライトニング様もそういう時期なんですよ」


「おい、それはフォローになってないぞ。専属メイドならもう少しうまいフォローをしてくれよ」


「あれ? フォローできてなかったんですか? 申し訳ございません」


「それはそうと、私ライトニング様より年上だったんですね。嬉しいです」


「まぁ数時間だけだけどな」


 そんなことを話していると、アンナの生まれた時間になろうとしていた。


「あぁあ、アンナのきれいな黒髪が金髪に変わっちゃう」


 僕は肩を落とし、ため息を付いた。


「そんなに悲しまなくても、案外似合うかもしれませんよ」


「まぁ確かにそうだな」


「時間ね。私が寝てる間みんなをよろしく」


「あぁ、了解した」


 ユキネ達から聞いた実体験によれば、獣人特有のこの変化は魔物等の進化と同じで、個体差はあるものの数時間昏睡状態になるらしい。


 そして遂にその時が来た。


 アンナが横になったと同時に毛の色が変化していった。


「うん、やっぱり金髪だな。尻尾の毛も金色だし、多分眼の色も金色だろうな。でも確かに似合ってるし、アンナは髪を染めなくてもいいな。でも、僕もこの色になるのか。嫌だなぁ。僕だけでも黒染めしよっと」


 アンナをノアと一緒に僕のベッドに運んでいると、今度は僕が進化する時間になっていた。


「それじゃノア、後はよろしくな」


「はい、後は僕に任せてゆっくり眠って下さい」


 その言葉を聞いた僕は、静かに眠りについた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 翌朝。


 目が覚めると横には、金髪と黄色い瞳になったアンナが寝ていた。


「黒髪もいいけど、金髪も悪くないな」


「そうだ、僕も本当に金髪になったんだよな?」


 気になった僕は家の鏡に向かった。


「なんじゃこりゃー!!」


 鏡を見た僕は驚いた。なんと僕の髪の毛は黒髪のままでインナカラーに金色が入っていて、眼と尻尾の色は黒のままだった。


「どうしたのライム? 起きるに早くない?」


「なんです? 朝から大声を出して」


 大声を出したので寝ていたアンナとノアが起きてしまった。


「あぁ、その髪ですか。僕も最初は驚きましたよ。何なんでしょうね」


「まあ、ご主人様がよりかっこよくなってる」


「なんか思ってたのと違う。でもかっけえー、これならほぼ黒髪だし黒染めしなくてもいいじゃん」


 何故か、かっこいい感じに変化したので喜んだが、何故こうなったか不思議に思った僕は、何でも知っていそうなユキネに聞きに行くことにした。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「おはよう、ユキネ」


「おはようございます。ライトニング様。なんの用でしょうか?」


 ユキネは、自分の家で何やら書類とにらめっこしていた。


「あのさ、この髪についてなんだけど」


「あら、私はかっこいいと思いますよ」


 ユキネは、年下に見せる優しい笑顔で答えた。


「いや、そういうことじゃなくて。なんでこんな髪色になったのかを知りたいんだよ」


「あぁそういうことでしたか。ごめんなさい私もこのような事例は知らないんです」


「そっか」


「ですが、推測はできます」


 ユキネは真剣な表情でライムを見つめた。


「ほう、なんだと思う?」


「それは、ライトニング様は魔力の覚醒をしており魂と魔素そして魔力が一つに繋がっています。そして進化の際ライトニング様の魂が魔素よりも強く反応したことにより黒色が多く残ったと考えられます」


 つまり、僕の魂が黒いから、髪も大半が黒のままになったのか。

 魂の色が黒くて良かった。


「確かにそれはあり得るな……。ありがとうユキネ」


「いえいえ、とんでもありません」


 ユキネに話を聞いた僕は部屋に戻った。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 時は経ち3ヶ月後、ノアの誕生日。


「いよいよ僕がライトニング、君を超えるときが来ましたね」


「そうだねぇ〜」


 ライムはあくびをしながら返事をした。


「何故そんなにも軽く流すんですか? 君は最強になりたいんでしょ。ですが、今日僕が進化すればあなたよりも遥かに強くなるんですよ。焦らないんですか?」


「いや、別に焦らないよ。だって、いくらノアがすべての属性魔素を強化できて、一人で何重もの進化の恩恵を受けられるとは言え……。まだまだ、僕の戦闘スキルや経験には追いつけないし、僕はこれからも強くなるからね」


 ライムはニヤついた笑顔でノアをイジった。


「でも、確かに一人で進化の恩恵を何重にも受けられるのは強すぎるかな。一つだけ進化させた僕たちですら、ほぼ無限の魔素量になったから、ノアが進化したら全属性魔法を無限に使い続けることが出来ると思うし」


「えっへん、すごいだろ」


 ノアは自信満々に胸に手を当てた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 そして遂に進化の時が来た。

 ノアは自分のベットで横になっている。


「僕が寝てる間、何もしないでくださいよ」


「何だ? 何かしてほしいのか?」


「違いますよ」


「そうか、じゃあお休み」


「おやすみなさい」


 ノアが眠ると、ノアの体毛が白に変わり、所々カラフルな色に変化した。


「ノアの変化の仕方もかっこいいな」


「そうね」


 僕とアンナは、一瞬悪戯しようかとも思ったが、なんとか踏みとどまり、ノアの家から出た。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 翌朝、カラフルな自身の毛と眼の色を見たノアはみんなに自慢して回っていた。


「ほら、いいだろ。かっこいいだろ。目も髪も尻尾もカラフル何だぞ」


「そうだねぇ」


 話しかけられた男の子は、少し引きながらもそう答えた。


「おーい。うざがられてるぞー」


 僕は遠くからノアに野次を飛ばした。


「楽しそうね。ノア」


 アンナは、少し微笑みながらそう言った。


「ハハッ、そうだな……。おーい、皆集まってくれー」


 ノアがみんなに自慢し回っているのを見ていた僕は、皆んなを広場に集め話しをし始めた。


「今日は皆に伝えたいことがあって集まってもらった」


「なになに?」


 小さな狼獣人の男の子が元気満々に耳を傾けている。


「僕は勇者パーティーに入ろうと思う。それで皆には勇者パーティーを陰からサポートしてもらいたい」


「なんで?」


 小さな犬獣人の女の子が質問をした。


「それは僕らの目的を達成するのに一番効率が良いからだ」


「へぇーよくわからないけどわかったよ、ライトニング兄ぃちゃん」


「それで僕は、勇者パーティーに入るために16歳になったら村を出ようと思う」


「えぇ、さみしいよぉー」


「安心してくれ、これから皆は進化をする。そして瞬間移動に近い移動をすることが出来るようになる。だから、会いたくなったらいつでも会えるんだよ」


「そうなんだ。良かったー」


 そう、僕ら獣人は基礎の身体能力が人間の数倍高いのだ。そこに、ほぼ無限の魔素や魔力による身体強化をすると、ものすごいスピードで移動することが出来る。

 やっぱり獣人って、強いし可愛いしで最高だな。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 そして時は経ち、僕とアンナ、そしてノアは16歳になった。


 ホノカ、ミズキ、ツカサ、ラビッシュ、ユキネの年上組は、大人びた背格好と性格に成長している。

 村の子どもたちも、ほとんどが進化をすることができ、サンダーパラダイスが大陸最強の組織と言っても過言ではないだろう。


 魔王軍は、戦力を温存したいのかわからないが動きはなかった。


「よしそれじゃあ、これから僕は勇者の居る最南端の村に行ってくるね。会いに来たときはライムの名前で呼んでくれよな」


「わかってるわ。いってらっしゃい、ライトニング」


 アンナは優しく微笑んで見送ってくれた。


「すぐ会いに行くよ、ライトニング兄ぃちゃーん」


 他の子ども達も各々思いを伝えてくれている。


 それじゃあ行くか、最南端の村に。


 まぁ全力で行けば2週間もかからないんだけど、この大陸をより鮮明に把握するために、寄り道しながら半年ぐらいかけて行くか。

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