第39話 再び生まれるために

 太陽のまわりを地球が楕円軌道で公転する、その近日点を通過するときに日照時間が長い地域と短い地域が出来る。これは単なる自然現象というか宿命であり変えられない事であるし、降り注ぐトータルの太陽光量はそんなには変わらない。しかし、それを跳ね返すか受け止めるかでひとたび地表に注いだ光の行先は異なる。南半球は受け止め、北半球は跳ね返すというそんな単純な話ではなく、どちらにおいても受け止める面と跳ね返す面があるが、比率が異なる。水はありとあらゆる物質の中で最高に近い熱容量を持ち、表面での反射があるにしても、照射する光は水深方向に進入し、熱に変え生命を育む。光合成も行い、炭酸ガスを酸素に分解してそのエネルギーを燃焼するポテンシャルとして蓄積していく。分解しすぎで光合成に不自由するほど酸素濃度が高まり希薄な炭酸ガスでも光合成出来るように進化したC4光合成植物も現れた。


 放射冷却と呼ばれる現象がある。熱を帯びた物質は赤外線としてその熱を放射して冷えていくのである。これは温度が高いほど大きくなる。熱容量が極端に大きく温度が上がらない水は太陽エネルギーを保存しておく媒体として最適である。真冬の満天の星空は美しいが冷酷である。地表を冷やし生命を根絶やしにする冷却能力を持つ。冬に限っては曇天のほうが暖かい。


 周期的に到来する、太陽光が多い季節を受光効率が低く放射冷却されやすいサイドで受け流してしまう時期が冬の時代であり、生命活動が低下する。これは神の視点からの観察だが、他でもない俺もお前も大五郎もハエも蚊もゴキブリもキノコもカビも生命の例外ではない。厳しい時期をともに生き残るという意味で仲間なのである。


 だから光を運ぶ者は特定の生物への贔屓はない。すべての生命の繁栄のその先にのみ人類の繁栄もある。


―――

「ゲェッきたねぇ!」


 カビだらけ虫だらけ草ボウボウのルシフェル邸の中庭……。


「人が絶滅してこの建物を管理する者が居なくなったとき、ここから広がって再度人が生きられる環境を作り出すためのビオトープよ。生命遺伝子の貯蔵庫。まあ。これが機能しないで済むように秘伝を引き継いでいるんだけどね。」


やっぱりこの人悪魔なんじゃないの?

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