第29話 英雄とバケモノの区別は付くかい?
ブリティッシュロックが主流になる前、ヨーロッパで音楽の都といえばドイツだった。その栄華を作り出した二人の英雄とその二人の背後に居た化け物。
二人の英雄のうち一人は、もともとハノーバー家に仕える楽士だったが、ブラックな職場環境に不満を持ちとらばーゆしてブリテンにトンズラしたのに、何故か前の上司がイギリス国王になって追ってきた人、言わずとしれたヘンデルこと、ゲオルグ・フリデリック・ヘンデル。
もう一人の英雄は、リアルタイム世代では息子のほうがよく売れ、しばらく誰からも相手にされなかったが、メンデルスゾーンによって発掘されたあの男、大バッハことヨハン・セバスチャン・バッハ。ちなみに父より売れっ子だった息子カール・フィリップ・エマヌエル・バッハが弟子入りしたのが、ここで言う怪物、ゲオルグ・フィリップ・テレマンだ。
受験シーズンを迎えると参拝客の耐えない天神さまこと菅原道真本人は本人も認める音痴ながら漢詩には優れていてかろうじて英雄と呼べるが実は同時代に漢詩どころか東南アジア各地の言語を自由自在に使いこなす上に音楽にも優れた島田忠臣という怪物が居た。
テレマンも島田忠臣も紛れもない怪物だが知る人ぞ知る存在であり、その怪物の手先として動いた顔役の英雄が表向きの歴史として記録される。むしろ二人はちょっと調べれば名前が出てくるくらいの知名度があるのでこの手の怪物としては目立っている方なのかもしれない。ただ、共通してることはその周辺に同じジャンルの英雄を侍らせているという点で、音楽なら音楽、漢詩なら漢詩を後世に伝えるのだという引き継いできた人々の想いが特異点にいったん収束してそこから再度拡散していく、そういう経由地点なのかもしれない。
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