第27話 万死に値するPart2〜狂った帽子〜

 「何だって!」

 かつてのバンド仲間であるロジャーとキースとバレットは、トレヴァーがオーバードーズの廃人になってるという噂を聞きつけ驚きつつも、こうなったらやることは一つとばかりにトレヴァーの家へ飛んでいった。

 アパートのドアには鍵が掛かっているのでロジャーが鉄拳制裁でぶち壊して中に突入すると、すっかり姿が変わり果てた、おそらくトレヴァーだったであろう誰かがこちらを睨みつけてウーッと唸ってる。


「この人誰?」

バレットが思わず聞いてしまった。


「あいつだよ。トレヴァーだよ……。」

ロジャーが涙ぐみながらバレットに教える。


「うそだろ?まるで月の向こう側に行ってしまったようだ…。」

キースもぼやく。


 かつてのバンドメンバーだった三人を前にして記憶のいたずらなのかトレヴァーが瞬間的に正気momentary recovery of reason.を取り戻した様子を見せる。


「さて、どのトラックに僕のギターを入れようか。」


 今にも襲ってきそうだったのとは様子が違う、ものわかりが良さそうなトレヴァーを三人は見逃さなかった。


「ゴメンな、もうミックスは上がっちまったんだ。」

 バレットがそう言うや否や、待ち構えていたロジャーとキースがトレヴァーを羽交締めにして、動きを封じて吊し上げた。さっきまでの菩薩の表情は般若の顔となり、怒鳴りつける。


「てめえ!クスリだけはやめておけってんだよ。クスリ抜けるまで開放しねえからな!」


 ドラムを爆発させたり、ギターでアンプを殴りつけたりといった破壊的パフォーマンスで知られる、日常生活も暴力に満ちた破天荒な三人はこうしてトレヴァーを見事に薬物中毒から救い出した。


 ヤク中を救済するというのは綺麗事じゃない。彼らだからこそ出来たのだ。なまじ情に流される人情家だと禁断症状で苦しんで懇願してくるトレヴァーに折れてクスリを与えて元の木阿弥となるのだ。


 薬物中毒を救済するには人情の欠片もない鋼鉄の意志が必要なのだ。

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