第20話 Αφροδίτηの女預言者にして神官

 何も無い未開の地にすべてを持ち込んだ豐受姫はこの、今は滅びつつあるかつての先進国においてあらゆる産業の女神とされるが、産業を始め、発展させ、伝えていった人々を祀る職業集落は各地に出来ていった。

 神聖娼婦に始まる売春婦は農業に次ぐ二番目に古い職業である。今のイラクのあたりで始まり、イシュタルと呼ばれる光を運ぶ女神を崇敬していた。これもおそらくは具体的にはじめて売春を生業とした古代巫女の神聖娼婦が居て、その遺志を次ぐものたちの集合体と考えていいだろう。その中でとりわけ有名なのがギリシアの、Αφροδίτηの女預言者であり神官であるフリュネだ。

 Αφροδίτηはギリシアの神話ではガイアに唆されてクロノスが切り落としたウラノスの陰部が海に落ちて出来た泡から産まれたとされるが、当然当時の人達にその意味はわかっていた筈だ。一年限りで処刑されてきた聖王の行く末。


――

 むかし、あるところにプリュネというたいそう器量の良い売春婦ビッチが住んでいました。

 彼女の娼館は大繁盛で来る日も来る日も客を抱いていましたが、とてもじゃありませんが捌き切れません。本来客商売というのはカネさえ払えばどんな客であろうとも等しく扱わなくてはなりません。しかしそれは客が少ない時のお話です。彼女生きている間に抱ききれないほどの客が行列しています。すべてのお客さんにサービスすることは不可能なので、客を選別しなくてはなりません。


 まずは値上げにより支払能力で選別。すると成金の鼻持ちならない人間の腐ったような客が選出されました。四六時中抱き続けても捌ききれず暇もない彼女にとって嫌な時間の濃度が上がっただけです。値上げも極限に達し、一晩で国庫が尽きるほどの単価となりましたがそれでも人間の腐った国王やら貴族やら御用商人がやってきます。自分で設定したプライシングなので仕事と割り切って抱きます。貯蓄は一人で複数の国家財政に並ぶものとなりましたが、本人は全然満足していません。人生の喜びを全く感じないまま仕事漬けです。この方法では駄目だと気付き、現場からは引退します。

 ある時、農耕神の祭典の際、彼女は裸踊りをしますが、農耕神を崇拝する人々はそれを猥褻物陳列罪だと糾弾します。結局裁判になるけど、政府は政府予算よりカネを稼いだ実力を持つフリュネを恐れ、有罪判決を出せなかったといいます。その判決文には、

Αφροδίτηの女預言者にして神官であるから農耕神のルールで裁くことは出来ないと記された。


※実はこのフリュネという女性はこんな話よりも色々と面白い人で、彼女について語るだけで本が一冊書けるほど話題に富んでいますので、ぜひあなたの頭の片隅にも彼女の精神を住まわせてあげてください。また⊿でも書き進めるうちに彼女の話を蒸し返すかもしれません。

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