FUTURE
第21話 至上の愛は死なないPart1 〜昇天(Ascension)〜
1967年7月17日 偉大なサキソフォン奏者にして思想家でもあったヨハンの肉体がその日をもって活動を停止したというニュースが世界を駆け抜けたその日、流しのドラマーのクリスはいつもの彼がそうであるように夜のバーでドラムを叩き日銭を稼いでいた。
仕事を終えてホテルで煙草を燻らせながらベッドの目覚まし時計と一体型のラジオを点ける。
ラジオDJからヨハンへのお悔やみが告げられたとき、クリスは言葉を失った……。
「嘘だろ?……!嘘だと言ってくれ!!!」
クリスがドラムを始めたのも、いつかは自分のヴァイブスをヨハンのサックスにぶつけるんだという目標があってのことだった。その目標は、ヨハンの死去によって未来永劫に決して達成されることはなくなった。
「ずるいよ……逃げるなんて……。」
辛い日もドラムを叩き続けられたのは、いつかヨハンとギグをするその日のために、自己を高めることでその目標へと続く道だと確信してたからだ。目標を見失った彼の目からは急に炎が消えていった……。
―――
のんだくれのその日暮らしに身を落としたクリス……。幸いドラムの練習を兼ねての本番を毎日のようにこなしていたので蓄えはある。
既にクリスの腕前は名手と言ってなんの差支えもないレベルであった。本番でも彼にとってはヨハンと同じステージに立つための練習にすぎなかった。しかし今はその目標を失った。練習のためと毎日受けていた仕事も、自発的なモチベーションが失われ、片手間でこなすようになってしまった。
「おい、最近おかしいぜ、どうしたんだよ?」
時々仕事を一緒にするベースのヤンから怒られた。今日の仕事では考えられない大失敗をした。フィルインから次の小節に入るクラッシュシンバルの代わりにチュブラーベルを♪カ〜ンとやってしまったのだ。それはまるでのど自慢の判定の音のようであり、死者への弔いの梵鐘のようでもあった。
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